ep24「恋とはそういうもんだ」

「久しぶりにみたぞ・・・」


物理準備室に、藤宮先生とふたりきり。



「宮地と出会ってから、あいつが鬱になることなんてなかったから、こういう風に安定できるような、そういう影響が出る人がいてよかったなって思ってたんだけどな」


「はい・・・」


「そういう風に、好きって気持ちは、活力になる分、落ち込む原因にもなるんだよな」


「はい・・・」


「恋とはそういうもんだ、忘れてたよ」


「私も忘れてました・・・」


「そういや宮地の元カレの話とかも、あいつ灰原から聞いてたよ」


「だから、最近変な感じだったんですね」


「それと、文化祭の宮内の件と、だな。

完璧に鬱期だね、励ましてやってとは言わないけど、気にしてやってよ」


「はい・・・」



なんで説教受けてるみたいな感じなんだろう







ガチャっ



久しぶりに手をかけるその扉は夏の前の出来事を思い出させた。


一気にあの時間に戻そうと、強い風が吹いてくる。



「先輩・・・」


「お久しぶりです・・」


「昨日も会ったじゃん」


「屋上に向けて言ったんです」


「なるほどね」


「あと、屋上にいる夏見君に向けても」


「・・・なるほどね」



私が励まそうとしてる雰囲気が伝わってしまったでしょうか。


しばらくの沈黙が流れた。


「拗ねてるだけだから、そんな心配しないでよ」


「心配だなんて、自意識過剰ですね」


「おお、先輩らしい」


「ちょっと、屋上に涼みに来ただけですよ。」


「屋上開いてるの知ってたの?」


「はい、知ってました」


「ふーん」


彼は今、私の言葉で、どれくらい揺らぐのでしょうか。


傷つけることも、元気づけることも、きっとできる。


それを意図的に出来てしまうのを分かっていて、励ましたりしたら・・・


それは本当にうれしいものなんでしょうか。


それなら、私に今、声をかける資格なんてあるのかな



「じゃぁ、少し、お隣にお邪魔します」


「ん」


彼の隣に座る。


喋るわけでもなく、なにか考えるわけでもなく。


彼のそばにいてあげよう。


それだけしかできないんだ。


ただ一つ、気付いてしまったことがある。今日ずっと、考えていたこと。


この隣にいる人に、ただ元気でいてほしい。

そう思うのはきっと、友人にも思うことだけれど、

少し高鳴っている鼓動のせいで、わかってしまった。


きっと、彼のことが好きなんだろう。


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夏に恋なんて熱くるしいです ura @m_ura_yoshi

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