第3話

 おーい、聞こえてる?聞こえてないかもしれないけど皆さんこんばんわ。私幽霊でございます。というかその様でございます。この教室では生徒共の声が私を摺り抜け通じ合っている。私の意思は確かに存在している筈なのに私を気にかける奴は誰1人いない。話しかけられた事は1度もない。寄ってくるのは蝿や埃ばかり。皆さん100人100様お馬鹿さんだなぁ。私自身は話しかけたりして頑張ったつもりだけど。現実でも電波でもここでもどこでもずっと幽霊。この景色が証拠だろ。0が並んでいる。2、3は初めたて。10は低め。普通は100を超えている。0はおかしいんだよ。おかしくなるだろ。

 入学して4年が過ぎた。0が続いている。私は今まで与えてきた。クラスの皆にプリントを見せてあげていた。見返りなんて求めず。私から話しかける事は100回あったが私が与えられたことは0かった。皆メリットデメリットしか考えていない。だから優しい事は辞めた。お前は違うみたいに言うなよ。加担者だから。言った後に言われてももう遅いから0意味なのは分かるだろ。なら黙っていてね。お前は全然幽霊じゃないけど。

 机上の0論ではないから私の語ること全て。私は頑張ってきたけど。周りに屑物しかいないもの。私と私みたいにならない人との違いは何だろ。運が悪いんだろうね。これからはだからこうしよう。皆のこと0視しよう。ただそれだけ思っていた。

「皆であいつのこと0視しない?」

 教室の何処かからそんな声が聞こえた。何処か分からないのは私が周りを見えていないから。心の中に留めていただけの私とは違う奴らは行動に移してきた。学校の恒例行事かと暫く気にせず声を掛けてみた。皆と通り過ぎる時挨拶を欠かさなかった。けれどもう0理なんだなぁと分かった。これも運が悪いのかな。そんな訳ない。

 昨日は自殺未遂した。薬の量が曖昧。頭がぼーっとしながら逃避しようとしてまた現実は振り返る。抱えている事が多過ぎて誰もい0い。生まれて来0ければよかったと思った。親不孝?私が不幸だろ。何も考えずに産まされたのだからこっちも気軽に死んだって構わないはず。死にたい死にたい胸が痛い。誰もい0い場所へ行きたい。誰も見てい0いいつも通りの片時に。

 私が誰か、分かる人いますか?私の姿は本当に見えてい0いのでしょうか?放たれた声は教室に響か0い。独り言にしかなら0い。相変わらず0視されているようだ。先生も名指しはし0い。興味のある人はい0いかそう思って話しかけてみたら駄目だった。知ら0い振りするもの。掌返して話しかけてこようと絶対返さ0いと決めた。今更遅いよ失せろで終わりだ。世界から背負った不幸の分周りに病毒を撒く。少しでも苦痛を分け与える為。どうでもいいけどお前とか時間0いから。世間の間抜けの為に私が考えてやる必要0い。私の為だけに時間を使うようにした。寂しい方がまだマシ。何もし0い方がマシ。早くさよならしたい。消えちまいたい。つまら0いつまら0いつまら0い。何処を見渡しても仲間がい0い。1人の放課後校舎裏ただ居るだけ。気怠げ。帰り道何も0かった気になる。時間が経てばほらまた1人。4年前から何も変わってい0いことを確認できた。

 気付けば人気の0い屋上でご飯を食べるのが習慣になっていた。ある日別の客が来たかと思えば名前のうろ覚えな彼女達、特にその内1人に固着される。奥の2人は消極的に加担し1人は看板を掲げる。何か語りかけてくるけど0視に慣れ親しんだ私は反応を鈍らせる。「聞いてんのかよ」背中に衝撃を感じた時には遅かった。

 人相違わず私を直接殺したのはBだった。

「ちなみに真中はわたしの死に耐えかねて後追いしたんだと」

 生身時代の惨めさを取り戻した私はCの言うことが真実であると確信できた。

「話せる知合いがいるのは悪く0いと思って死後早々知識を吹き込んであげたけど、直ぐバレたのはちょっとな」

 2人の死を目撃しながら私の方には弔意の1片すら与え0いAはごめんなさいと頭を垂れる。

「けど千紗が来るよりはマシだったよ。邪魔だから」

 そう言われるとAはぱぁっと頬が紅くなる。褒められた訳では0いと思うけど。

「千紗は性格に難があるから。わたしや真中に絡み始めた頃は良かったけど、慣れてくると同じ行動を強制してきたりして。ただ殺人を犯すまで悪い奴では0いと思っていたんだけど」

 Bの風評は私の予想と概ね合致した。世界は私を0視した挙句Bという最大の害虫を派遣してきたのだ。この腐り切った世界への怨念が高鳴り出す。0視するだけじゃ足り0い。壊したい。Bだけでも殺してやりたい。だけど触れ0い。悪霊らしく呪い殺せ0いのか。引き締まった表情から悟ったのかCは顎下に入り告げる。

「千紗を殺す方法教えようか?」

「……さっきから何故この世界に詳しいの?」

「わたし元々霊感あったんだよね。今は尚更幽体への感性が恐らくお前ら以上に鋭い。同時に死んだお前より早く目が覚めてお前が現場の骸の中で眠る様が見て取れたし。確証は0いけど、生身の体質の代わりかね。世の中上手く出来てるってことで。死後含めて」

 だったら私も何か特殊能力があっていいだろうと、眼を見開き殺意を練るが何も起こら0かった。

「で、その方法って?」

「幽霊って自分が死んだ場所周辺の物体との接触や生身との会話は可能なんだ。生身からすればポルターガイストに見える現象ね。真中がここで包丁持てるのはこれが理由。幽霊相手には0意味だから馬鹿だけど。つまり千紗を屋上に呼べさえすれば、お前の力で絞殺でも何でも出来る。同じ場所で死んだわたしもやろうと思えばやれる。前述通りやら0いけど。で、この部屋には真中の携帯電話がある。千紗含めた皆はまだ真中の死を知ら0いから夏の怪談話に肝を冷やすこと0く屋上に呼び出すことが出来るかもしれ0い。ちなみにこの部屋で殺すのは真中の家族に迷惑だから却下ね」

 Cの有難い教唆に曇りがかった心から黒い太陽が生まれた。それは私が世界から受けてきた仕打ちを幽霊になった今、仕返し出来るということ。私を散々0視してきた人間を幽霊に引き摺り込むことが出来る。久々に口角が歪んだ。

「どうする?わたしが真中に頼んであげれば挑戦できるよ?」

「……やりたい。やらせて欲しい」

 そう伝えるとCはAに目配せして「そうか」と笑った。


 決行当日昼休み、Aの電話を受けたBは目論見通り屋上に向かう。ACは私が演出するBの落下死の終演を確認する為下で見守ると言った。私は心と体を踊らせながらこれから死ぬBの隣を「馬鹿だなぁ」と軽蔑しながら同行する。死後のことは特別考えてい0い。Aのように喚かれようとそれこそ0視されようと生身で0い今は気にする必要0いから。殺したもん勝ちだから。重い扉が開いて屋上の薄暗い大空を久し振りに目に入れる。

 瞬間、身体が浮いた。あれ。意識したつもりは0いのに足が掬われていく。嘗ての重力に従おうとするが戻れ0い。

「ま、こうなるだろうね」

 身体の上昇が止まらず蹴飛ばすはずのBの背中が遠くなる。屋上の切れ目に覗けた2人がコンクリートから私を眺める。

「やっぱりその高さで駄目かぁ。確認出来て良かった」

 必要0いテレパシーを私の元まで飛ばしてくる。それどころじゃ0いというのに。

「ごめんね。真中がどうしても君が邪魔って言って聞か0かったからさ。助けようとして何だけど消えてね」

 まさかこの程度の高度で成仏するなんて聞いてい0い。嘘だと言ってくれ。生身で死んだ場所でまた死ぬのか。何故私には不幸しか訪れ0い。世の中全然上手く出来てい0い。Bの間抜けな顔を目下に睨みながら最後に叫ぶ。

「くそ、お前らああああああ」

『バイバイ』Cはスケッチブックを捲って笑う。Aは怪訝そうな顔でCの腕に寄りかかる。

 ……あぁもう終わりそうだ。この糞みたいな世界から漸く消える。怒りを脳味噌ごと忘れていく。不幸が浄化されていく中、初めて貰った挨拶には少しだけ救われた。

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ゆゆゆ幽霊展 沈黙静寂 @cookingmama

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