フラウド
僕は詐欺にあった。
それは僕が四歳の時だった――――
僕は当時から可もなく不可もなくと大抵の事はこなせていたけれど、園内に友達はおらずいつも一人だった。
理由は単純で親に虐待を受け風呂に何日か入れない日がありそれが理由で園の子達は臭いから近づくなとか僕をばい菌と見立て僕に触れた手で誰かを触り触られた人がまた別の人を触る、そんなゲームなどができる次第で誰も僕に近づかなくなっていった。
先生方はというと、面倒ごとを避けたかったのか虐待や虐めを見て見ぬふりをし遊びの時間では僕の存在など亡き者のように扱っていた。
そんなある日、一人の新任保育士の人が来た。
この園の習わしとして対面式というものがあった、内容は新しく来た保育士は一週間子供たちと触れ合い一週間後、仲良くなるため子供達一人ひとりと応接室で面談をするというものだ。
その先生は若い女性で、園に入ってすぐ他の保育士や子供達から人気を得ていた為みんなは積極的に先生と遊んでいた。
そして対面式後半の面談の日、朝から子供達が列を組み応接室に並んでいた。
僕は虐待を受けていた為いつもお昼に来ていた為列に並ぶのは最後だった。
僕の番になった他の皆の楽し気にお昼を食べる声が聞こえる。
なんで僕だけいつもこんなに苦しまなければいけないのだろうか、最近いつもそんな言葉が頭の中でこだまする。
次第に立っているのも嫌になった、嫌な言葉だけが頭の中で鳴り続ける。
周りの子達はお昼ご飯を他で終わったのか、外遊びをし始めた。
いつからだろうかあの輪の中に入りたいなと考えるのも諦めたのは。
いつからだろう周りに助けてと縋りつくのをやめたのは。
いつからだろうか人がとてつもなく醜い何かに見えるようになったのは。
いつからだろう将来という言葉におびえるようになったのは。
両ひざはとっくに床についてた、冷たい涙が溢れて前が見えなくなった。
ダメだ泣いているのがばれたらもっといじめられてしまう、秘密基地に行こう。
秘密基地それは園の中で誰もが知っていて誰もが立ち入ることの無い場所。
園の二回の倉庫、そこは過去に卒業した園児が三人死んだ場所。
死んだ三人は接点がなかったが三人ともこの倉庫で首を吊ったのである。
以降この倉庫は立ち入り禁止のテープが張られている、その為ここに近づこうなどと考えるものは一人もいない。
僕は別に死んだってかまわないから一人になりたいときはいつもここに来る。
先生も僕のことなどどうでもいいだろう。
「お腹減ったなあ、朝から何も食べてないもんなもうこのまま死ねないかな」
ふと声が漏れる、ここぐらいだ僕が世界で一番安心できる空間は。
約4.6畳ほどの安全空間、ここの物は事件の後全て回収されもう何もないけれど何も無いこの倉庫は何もない僕と同じようで親近感があった。
しばらく泣いているとこちらに向かってくる足音が聞こえた。
「被山くーん、ここにいるんでしょー?」
頭が真っ白になった、『被山』僕の名前だ。
なんで先生がこの場所を、そもそもなんで僕なんかを心配しているんだわけが分からない。
「ぼ、僕なんかに構わないでください、先生も知っていますよね僕が園の子達や先生に嫌われていること」
震えた声でそういいながら扉に近づき倉庫の鍵を閉めた。
「先生は知ってるよ、被山君がみんなに嫌われたり親に虐待を受けていたりするのにそんな皆が困っていたら何も言わずに助けてあげるような優しい子だって」
先生は優しい声で僕にそう言った、僕は涙をぐっと堪えた。
ガチャリ――
鍵が開き扉が開いた、どうやら先生は最初からこの部屋の鍵を持っていたようだ。
笑顔で僕を見つめる先生と驚き立ち尽くす僕、古い扉の嫌な音が僕らの間を通った。
「被山君はもう一人じゃないの、先生がいるからもう何も悩まなくていいの」
たった一言、その一言に僕はなぜだか救われた気がした。
『一人じゃない』
それは僕がずっと求めていた言葉、誰も僕にかけてくれなかったくれなかった言葉。
涙が溢れた、温かい涙だった。
先生は僕を抱きしめてくれた、初めてのぬくもりは温かかった。
「被山君の望みならなんだって叶えてあげる、だって私は被山君を愛してるからだから被山君も私を愛して」
僕は先生の胸の中で何度も頷いた。
先生は僕が頷いた後、僕の耳元で言った。
「これは約束じゃなくて契約、わかった?」
僕は泣き崩れていた為よく聞こえなかったが先生のためならと頷いた。
先生はにっこりと僕に微笑みかけた、僕も先生に笑顔を向けたその時僕は絶句した。
先生の背中には灰色の翼が先生の頭には灰色の輪がついていた。
先生はにやりと怪しげでそれでいて艶やか笑顔で僕に告げる――――
「これからよろしくね、あなた♡」
短編集 @usokawatoyu
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