第91話 新作ラノベを書きましょうね! 新子友花さん!!
「友花ちゃ~ん!」
新子友花とは、小学生の頃からの幼馴染でご近所の付き合いだ。
東雲夕美も後ろからハグしてきた。
「……あによ? 夕美。なんであんたも部室にいるんだ?」
それを、鬱陶しい暑苦しいからって、彼女は素早く振り解く。
「もう! 友花ちゃんの意地悪!」
「意地悪じゃない……離れろ!」
強引に首に巻かれていた両腕をはぎ取ってしまう――
「相変わらず、忍海勇太くんとは仲睦まじいってね」
ニヤニヤしながら、東雲夕美が今度は脇の下から器用にのぞき見上げてきた。
「……あんた、何がいいたいの?」
「ってさ! 私は別に~だよ」
「……こいつ」
マジうぜ~。
もう、ずっとずっと、生まれたときからウザい幼馴染。
なんとかならんのか?
これが新子友花の幼馴染――東雲夕美に対する本音である。
*
「なんで……ラノベ部がこんなにも大所帯になっちゃったんだろ」
新子友花は、自分がラノベ部に入部したての頃を振り返る。
「あたしが入部する前は、勇太と愛だけだったのに。あたしが入ってきてからは、次から次に東雲夕美と新城・ジャンヌ・ダルク……。そういえば、愛は部活に来ていないの?」
部室をぐるりと見まわして、新子友花が愛――
「神殿は、なんでも……バリアフリーの除幕式があるからだ」
忍海勇太がキーボードを打つ手を止める。
「バリアフリーの除幕式? あ……ああ愛の公約が実現したんだっけ?」
天井を見上げながら、神殿愛が生徒会選挙の演説で公約していた内容を思い出した新子友花である。
「新子! ミスさくら先生も、神殿愛と一緒にジョマクシキに参加しているんだよ。知ってましたか? ラノベ部の顧問としてね」
新城・ジャンヌ・ダルクが、顧問――
「そ……そうなんだ。だから、大美和さくら先生が『新子友花さん! この課題を真剣にシンキングしておくようにね?』って言って、そそくさと部室を後にしていったんだ……」
腰砕け状態なくらい力が抜けていく新子友花が、着席する。
着席してから、目の前のPCをこれも力抜けした視線で見つめた。
「あと、新入部員の
そうボソッと呟くのは忍海勇太。
「参加させているって、あんた」
「新入部員も責任重大だな……」
「ってさ、忍海勇太くんが参加するメンバーをチョイスしたんだよね」
東雲夕美がPCで顔を隠しながら言っている忍海勇太に、背伸びしながら尋ねる。
その忍海勇太はというと、まったく視線を合わせようとしない。
それどころか――
「……これもラノベ部の部活動だからな」
あんた……参加したくなかったんじゃね。
部長なのに参加拒否するって……、あんたねぇ。
*
「んでさ! 俺に聞きたかったことがあったんじゃね? お前さ……」
忍海勇太がボソッと――そしたら、
「だからさ! あたしのことを……おまえって……まあいいか」
真向かいに座る新子友花が一瞬「んもー!!」と言って剣幕立てかけたのだけれど、それを寸止め。
「……」
すると、しばらくPCの画面から視線を下げて口籠ってしまった。
「……どうしたんですか? 新子」
「友花ちゃん? どしたの?」
それぞれ新城・ジャンヌ・ダルクと東雲夕美が、新子友花の俯いた顔を覗き込んで見る。
いつもお気楽に見える彼女の表情が、少し真顔になったのを気にかけながらだ。
「……」
天井に視線を上げて、しばらく考え込むのは忍海勇太だった。
「……ああ、どうしたらいいのか……てな」
そのままの状態で、
「……そだよ」
新子友花に言った。
「新作ラノベを書きましょうね! 新子友花さん!! ……て大美和さくら先生が課題を出したっけ?」
「うん……。あたし、今かなりピンチ状態でさ」
新作? ラノベ??
書きましょうね――
「んでさ……ベースというか、プロットというかさ? そういうのは考えたのか?」
「……まあ。この前、今月上旬に行った北海道修学旅行の体験をベースにして……、それを異世界化してラノベにしてみようかと……思ってる。勇太……」
声に力が入っていない。
「……この前の修学旅行なぁ。札幌に小樽に函館に……まあ、それでいけるんじゃないか? 体験を元に書くことは正しいと思うからさ……部長としてはそれでいいかと」
そう言うと、忍海勇太は天井を見上げたまま口を紡いでしまう。
「ほ……ほんと? 勇太」
新子友花が視線を真向かいに座る忍海勇太に向ける。
それも両目をキラキラさせて、光明を感じ取ったかのように。
って、も……もしかして、
新作のラノベを書くことになったのかな?
この物語の主人公――新子友花さん??
続く
この物語は、ジャンヌ・ダルクのエピソードを参考にしたフィクションです。
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