第十一章 新子友花、新作ラノベを書きます!!

第88話 相変わらずだぞ。新子友花よ!(プロローグ)


 ここは聖ジャンヌ・ブレアル学園の敷地内だ――


 めずらしい名前の学園だと思われたことだろう。まあ、その通りである。

 この学園の詳しい姿、いったいどのような風貌の学園なのかは……すでにご存じの通りだろう。

『カトリック系』の神学校――もとい、進学校(高等学校)である。

 正門から緩やかな坂を上がった真正面には校舎があり、その更に坂を上がった丘の上に『聖人ジャンヌ・ダルクさま』と、彼女の異端裁判をしきり最終的に彼女に無罪判決を下した『ブレアル裁判長』を祀っている教会――『聖ジャンヌ・ブレアル教会』がある。

 その教会の最前列の長椅子に、一人の小柄な女の子が祈りを捧げているのである――



 新子友花あたらしともか、この物語の主人公である!!



 ――教会には『救国の聖女』と呼ばれた聖人ジャンヌ・ダルクさまの像に、目を閉じて、一心に、静かに祈りを捧げている新子友花だけである。

 ステンドグラスから、朝の太陽の光が教会内を優しく照らしている。

 新子友花にも、ステンドグラスの優しい光が当たっている。

 胸の前で両手を組み、新子友花の口がわずかに開いて、

「ああ聖人ジャンヌ・ダルクさま……。あたし、……あたしはどうすれば」

 迷える子羊、彼女の祈りの言葉が始まるようだ。

「……どうか。……どうか、期末テストの内容が簡単でありますように。……できれば、先生が、何かの弾みで『ここ、テストに出ます!』って、教えてもらえますように……」


 いつもの学業アップ懇願タイムである……。


「……ああ聖人ジャンヌ・ダルクさま!! あなたさまの火刑の苦しみを、この学園のテスト期間中に与えて、そんでもって学園中を火の海にしてやってくださいなわっ!」

 語尾がおかしい……。

 ということは、彼女にとってのこの祈りは切羽詰まっている……ことを表しているのだ。

「はい! 今日の朝の礼拝は、これでおしまいっと!」

 新子友花はそう言い終わる。それから、ゆっくりと目を開けて立ち上がった。

 その表情は、あっけらかんとしている。どこか……すっきりとした気持ちかな?

 否――、祖国フランスを救った英雄になんてことを祈っているんだ?

 祈りの冒涜だぞ……。


「さてと、北海道修学旅行という名の戦場へ行きますか!」


 ……どういう修学旅行なんだ?

 長椅子に置いてあったカバンを、新子友花は勢いつけて「よっこいせっ」と肩に掛けた。「んぐ~」と両手を上げて背伸びして一息、深呼吸する。

 そして、聖ジャンヌ・ブレアル教会を後にして、すたすた……と歩いて行く新子友花だ。

 と思ったら、

「あっ! やっばい……。関西空港の集合時間に間に合わなくなるぞ! これっ……全日空777便に乗り遅れちゃうかもしんない。ちょいとヤバいぞ……」

 困惑した顔の新子友花。

 ただの早歩きだったようだ……。


 教会内に新子友花の足音が木霊こだまして、その音は次第に小さくなっていく――


 なっていく――



 静かだ――



 ――




       *




 教会の中には、誰もいない――

 新子友花のさっきまでの、へんてこりんな礼拝の時間とは変わって、静寂が教会内を包み込んでいる。

 音が聴こえない。張り詰めた空間。

 緊張感ある、本来あるべき姿の聖ジャンヌ・ブレアル教会内だ。

 清き、潔き祈りの空間。

 迷える子羊が訪れ、悲痛な己の気持ちを告白する空間。


 誰にか?


 もちろん、『救国の聖女』であり、聖ジャンヌ・ブレアル学園のシンボルとなっている御方――



 聖人ジャンヌ・ダルクさま――




 聖人ジャンヌ・ダルクさまの像は、勿論、何も言わない……。

 当然である。



「……まったく。新子友花よ」



 ……と思ったら。

 どこからともなく、声が聞こえてきた。

 これって、なんだかRPGの中ボスに立ち向かう前の、どこか小さな祠で祈りを捧げている時に、天の声とかお告げを授かった勇者一行が、あれ? 今の声ってもしかしたら……とか何とかを思う場面だ。

 祠の中を天井を見回している勇者一行、

 RPGの最初の方にあるエピソードあるあるだぞ!


「新子友花よ。まったくもって、お前って者は……」


 聖人ジャンヌ・ダルクさまの像から聞こえている?

「……本当に、お前ときたら…………お前の悩みというものを今まで何度も聞いてきたが、まったく」 (-_-メ) 

 さっきから、お前の連続である。

「お前はな、よく耐えてると我ジャンヌは思っているのだぞ!」



 ふわわ~ん



 すると、聖人ジャンヌ・ダルクさまの像の前に効果音とともに……、幽霊じゃないけれど突如姿を見せたのは、そうジャンヌ・ダルク。

 本人である――

 別に清楚な衣装でもなく、甲冑を纏っているでもなく。戦火の英雄ジャンヌ・ダルクとは、その姿から見て想像できないくらいの……、そのごく普通の中世の服だ。

 ……見た目は、どこか御嬢様学校の制服っぽい。

 セーラー服のようではなくて修道士のようなシスターのような、つまり服とスカートが一緒になっている貫頭衣かんとういである。

 

「よっこいせっと……」


 ふわわ~んと現れたジャンヌ・ダルクは、自分自身の像――聖人ジャンヌ・ダルクの像の前に、ぼそっとそう呟きながら腰掛ける。

 ジャンヌ・ダルクは19歳の乙女、その時のままに今も美しい聖女だ。

 薄い栗色ではなく、かといって新子友花のような金髪ヘアーでもない。

 彼女の故郷ドンレミで飼いならされていた羊達が、朝の日の光に照れさていたかのように淡い……薄い金色に光輝いている髪の毛である。


 神々しいと称せる――


 ふわわ~んと現れたジャンヌ・ダルクは、自分自身の像、聖人ジャンヌ・ダルクの像の前に、ぼそっと呟いてから腰掛ける。

 聖人ジャンヌ・ダルクさまの像の台座まで伸びているそれは、その数本が、台座に座る彼女の膝下まで伸びている。前髪に掛からないようにと……、橙色の髪留めを両耳の上で留めているヘアースタイルが、とても印象的である。

 ……ちなみに、彼女は19歳のうら若き乙女である。魔女の烙印を押されて、広場で火刑に処された年齢――悲運の享年。


 その時のままに、今も美しい聖女だ――



「相変わらずだぞ。新子友花よ!」


 両手を像について、足はぶらぶらと動かす。

 これは、ジャンヌ・ダルクの癖である。





 続く


 この物語は、ジャンヌ・ダルクのエピソードを参考にしたフィクションです。

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