【聖人聖女編】んもー!! 新子友花はいつも元気なんだからさ……、あたしのことをお前って言うなーー!!!
第78話 愛か―― 大美和さくらも素直に愛と言える『うんじゅっさい』になったのだな……。我は驚くぞ――
第九章 ジャンヌ・ダルク、笑顔?
第78話 愛か―― 大美和さくらも素直に愛と言える『うんじゅっさい』になったのだな……。我は驚くぞ――
「大美和さくら――自分が先生になれたことを、もっと自分に誇ったほうがいいと思う」
いつもの癖、像の上で両足をバタバタさせながら、ジャンヌ・ダルクが大美和さくら先生を諭し出す。
「私……」
先生は長椅子に座って俯いている。
しょぼぼ~ん……。
……てな感じで、すっかり意気消沈だ。
「私、今思い返すと国語教師としてダメダメでした。ラノベ部の部室で頭ごなしな言い方を生徒にしてしまって……」
「まあ、でも……そんなに……自信を失うことでもないんじゃないのか?」
ジャンヌ・ダルクは言葉を選び選び……、べつに神様が人に対して気を使う必要はないのだと思うけれど。それに、相手は国語教師の教職者である大人の女性なのだから、言わずもがなだ。
とは言ったものの……。
余りにも大美和さくら先生は長椅子で気を落としてへしゃぎこんでしまっている様相を見ていて、流石の聖人ジャンヌ・ダルクさまも、ちょっと心配気味になってしまったのであった。
「……そ、そうでしょうか?」
俯いたままボソッと呟く。疑心暗鬼モードまっしぐら……といった具合である。
「大美和さくらよ、気を落とすな。顔をあげよ……」
あからさまに全体にどんよりな空気間を漂わせてしまっている先生を、ジャンヌ・ダルクは腰掛けている像の台の上からしばらく見る――。
それから、
「生徒会長の神殿愛に言った言葉だろう? 『ちょっと黙っていて』……という発言」
ジャンヌ・ダルクは両手を膝の上に静かに置く。両足のバタバタは継続中――
「はい……、そうです」
俯いたままの姿で先生は、一回コクッと頭を下げて
「……」
ジャンヌ・ダルクはしばし口を閉じた。
無言で先生の姿を、再び凝視する。
そして、見つめながら、こんなことを思っていた。
大美和さくら――
お前のことは、聖ジャンヌ・ブレアル学園の生徒時代からよく知っている。
イジメられるからという理由で、図書館に通って時間をつぶす日々だったな……。
新聞部の報道姿勢に傷心してしまい、退部して。それからラノベ部を新設した――
お前の気持ちは、我にはよくわかる。
どう生きていきたいのか? それが、我にはよくわかる。わかっているぞ……。
ライトノベルという若者向けの娯楽小説に、自分の気持ちを重ねたのだろう。
本来、学園という学び舎はもっと楽しい場所なはずなのに……、どうして自分はイジメられなければいけないのか? どうして学園の秩序のための報道内容で、転向させてしまったのか?
自問自答の結果、教職を目指したことも――
だから、
我はお前の前に姿を現した。現すに値する人物なのだと我は思ったからだ。
そうだったと思っている。
今でも――
我がこの姿を生きる人にさらしたのは……大美和さくらよ、お前が初めてなのだぞと……。
――ジャンヌ・ダルクは肩を上げて大きく息を吸った。
「なんていうか……。新入部員が二人も入ってくれたのだから。それを歓迎して、感謝している顧問の大美和さくらの気持ちは顧問として優先されていいと……、我はそう思う」
少しだけ軽い口調で、迷える子羊――大美和さくらに対して、さり気なく前向きないつも明るい先生に戻れるだろうアドバイスをした。
内心、重たくなった教会のどんより空気を変えたかった……。
「ジャンヌさま……。そ……そうですか?」
「ああ……、そう思う」
わざと大きく頷いて見せるジャンヌ・ダルク。オーバーリアクションで迷える子羊に言い放つ。
これは『救国の聖女』としての処世術なのか?
神様から念を押されれば、信徒は誰でも感謝せずにはいられまい。
(処世術とは書いたが、救国の聖女はその後に火刑に処されたのだから逆効果?)
「もしかしたら……いや、はっきり言って、顧問として先生から言われて教えてくれたことに、生徒会長の神殿愛も感謝しているのだろうぞ」
ここは一気に押し通す方略がトレビアン!!
人を励ますときには、自分のことを後回しにすることがセオリー。
根拠なんて、後から足せばいいのだ。
「か、感謝……ですか?」
大美和さくら先生は素直に驚いた……。
自分が神殿愛にキツく言ってしまった言葉――『黙ってて』とか、それに『捨て石』なんてことも言ったっけ。
でも、聖人ジャンヌ・ダルクさまからすれば、そういう言葉も神殿愛には良い“気づき”になったんじゃないかという助言――感謝。
「か、感謝なのですか??」
感謝という単語、国語教師の先生にはらしくなく青天の霹靂だった様子。ちなみに、どうして二回言う?
「ああ……」
またまた、わざと大きく頷いたジャンヌ・ダルクである。
「まあ……感謝と言い切ってしまったら少し違うのかもしれないけれど。世の中にはなんにも教えてもくれない顧問もいるだろう」
「……はい」
大美和さくら先生、脳裏に同僚の教師の顔を浮かべて返事をする。
ということは、いるんですね……。知っているのですね。
「そういう無責任な顧問に比べたら、多少は言葉が過ぎたけれど、ちゃんと言ってくれた顧問の先生に、生徒は当然のこと感謝の気持ちになるだろう。それに、自分の今現在の気の持ちようを変えなければと思うはずだから、学園としての教育の一環なんだと、我は思う……ぞな」
感謝――
ちょいと誇張しすぎたかな?
ジャンヌ・ダルクの額には、冷ややかな汗が
先生を励ます気持ちから思わず浮かんだ言葉だったのだけれど……。まんざら違ってもいないか。
――要は先生として顧問として、ちゃんと教職者としてやっているのだから、それでいいじゃないか。生徒に指導しただけなのだから。生徒からしても学びになったんじゃ……と言いたかった。
「思うぞな?」
復唱する大美和さくら先生、しばし頭の中で内容を整理する。
「……あ、ああ聖人ジャンヌ・ダルクさま! ……私のことを思ってくれているのですね」
膝の上で両手を握り、台座に着座しているジャンヌ・ダルクを見上げる大美和さくら先生は、また頬に涙の
「私のことを……? い……いや。我の気持ちではなくてな」
なんか……勘違いされているんじゃね?
自分が大美和さくら先生のことを思っている……という解釈じゃなくて。いやいや……先生のことを思っていることは、だって信者なんだから……そうであるのだけれど。
(国語教師なんだから……読解力あるんじゃね? 大美和さくらよ)
思わず心の中でツッコんだ『救国の聖女』――ジャンヌ・ダルクは両手を長椅子に座って
「その……。生徒会長からすれば、世の中にはまったくの安全で
早口になってく……。
ついでに、ブラブラさせていた両足の動きを止める。
なんで、我が気を使って喋らなければいけないのだろう? 焦っている……神様。
「……3年生になって、後輩を抱え持つ立場になって、生徒会長にもなって……。顧問としての『指導』をちゃんと教えてくれた、聞かせてくれた大美和さくらは……神殿愛にとっては貴重なのだろうな。……なのかな。……いや興味深い先生だなって」
気を使っている自分に違和感を感じながらも、そこは親切に、聖ジャンヌ・ブレアル教会に神として祀られている感謝から、立場からも。
丁寧に言葉を選び選び……って。
我って、神じゃね?
「感謝、興味深い……と思ってくれているのですか? ああ聖人ジャンヌ・ダルクさま! 私のことをそんな風に」
「……だからさ、そこが勘違いで、我がじゃなくって……。あと、ジャンヌと呼んでくれないか」
「……ジャンヌ」
「……それからジャンヌのあとに『さま』は必要だと」
「……はい。ジャンヌさま」
「そう、それでよいぞ……」
自分の頬を指で触るジャンヌ・ダルク――
なんだか自分が言いたいことを、大美和さくらは思ったように受け取ってはいない……。
慌てて聖人と冠をつけられることに過剰反応してしまった。
自分でも何が言いたいんだか……。
ジャンヌ・ダルクは今一度、オーバーリアクションに大きく息を吸って心を落ち着かせた。
*
「大美和さくら……。お前はべつに部活の副部長の神殿愛に嫌味を言うために、あのような『黙って』なんて言ったわけじゃないだろう?」
相変わらず両足をブラブラと動かしているジャンヌ・ダルク。
何度も書くように、これは癖である。
ブラブラと足を動かしているときは、ジャンヌ・ダルクは気持ちが安定しているときだ。
さっきまでかなり焦っていて、言葉を選び選びだったけれど……。
深呼吸して気持ちを落ち着かせたことで、冷静な聖人に戻ることができた。
「もちろんです。ジャンヌさま!」
長椅子に座ったまま大きな声を出す大美和さくら先生。
「ならば、もういいじゃないか。問題にもなっていないんじゃないのか」
「でも、私は国語教師ですから……言葉を教える立場からも反省はしなければいけないと思うのです」
生徒に言い放ってしまった、ちょっとした暴言を懺悔する気持ち。それを包み隠さずに聖人ジャンヌ・ダルクさまに吐露する。
「立派な国語教師だぞ……」
大美和さくら先生からの誠実なる気持ちを聞いたジャンヌ・ダルクは、台座の上で大きく首を下げて頷く。
オーバーリアクションに見えたけれど、その頷きは本心から出た賛美する気持ちの表れだ。
「そう……でしょうか? ジャンヌさま」
「お前だって新入部員の手前、ちゃんと新しい部員を迎え入れてあげなければ、という顧問としての気持ちは強かったのだろう」
「はい、仰る通りです。……私は新しく入部してくれた二人に感謝しています。だから、愛情をもって迎え入れてあげたいと素直に……強く思いました」
胸前に十字を切る大美和さくら先生。
それから、両手を握り
「愛か―― 大美和さくらも素直に愛と言える『うんじゅっさい』になったのだな……。我は驚くぞ――」
少しだけ前屈みの姿勢で、ジャンヌ・ダルクは告白する先生を見つめた。
「え? お、驚く……ですか?」
大美和さくら先生、両目をパチッと開けるなり再び驚く。
学園の生徒の頃から、ずっとこの聖ジャンヌ・ブレアル教会で聖人ジャンヌ・ダルクさまに祈り続けて、カトリックの教義も学んできて。自分ではちゃんと『愛』という気持ちをもって、ずっと祈ってきて、その自分の姿に他ならぬ聖人ジャンヌ・ダルクさまから『驚く』と言われたものだから、
「あの、ジャンヌさま―― 私はちゃんと気持ちを込めて、こうして教会に来て祈っているのですけれど。……なんだかジャンヌさまからそのような言葉を聞くと、私はびっくりくりくりな気持ちになっちゃいます」
先生の懺悔する気持ちからの告白は、いつの間にか『救国の聖女』への疑問に変わる。
「いや、そういう……びっくりくりくりって……。だから、それも少し意味合いが違うぞ」
あはは……
ジャンヌ・ダルクは顔を引きつらせてしまった。
「我が言いたいことはな……、お前のように『うんじゅっさい』になっても、学園の教義のように“形式的”に我に対して祈り来る者達が多くいて。その中で、大美和さくらは心から我を思って……涙まで流して泣きついてくることが……その珍しいんだと」
「珍しい……ですか?」
大美和さくら先生は目をパチパチと動かした。
「ああ。つまり我の教えたいことは、大美和さくらくらいに……本気で……、無意識に思ってくれる信徒がいてくれたことに、出逢えたことに我は驚いて……、感謝しているんだ」
「……」
目をパチパチさせてから、先生はというと……今度は口を閉じる。
なんだか、聖人ジャンヌ・ダルクさまの仰りたいことがわからない。
私にとっては、当たり前に祈りを捧げてきたのだから、形式的に祈りを捧げて……というのは、礼拝の時間のときの生徒達の態度を見ているからわかるけれど、
「……」
大美和さくら先生は考える。
自分の聖人ジャンヌ・ダルクさまへの祈りについて――んで、
「あ……あのうジャンヌさま。もしかして、私がうんじゅっさいで……つまり〇〇歳になったのだから、お前も祈りの気持ちをヴァージョンアップ! させて大人になれってことですか? ちゃんとカトリックの教えを守った大人らしい態度で祈ることが行く行く生徒達への模範になるんじゃと? つまり私は顧問として先生としてもっと模範になれと……」
今度は先生が早口になってしまった。
自分の整理つかない気持ちを、吐き出すように喋り続けてくる。
そうじゃない、大美和さくらよ。
お前は、あまりにも正しすぎるんだ。
正しすぎる教師ってのは、生徒からすれば重くてウザいんだぞ。
「が……頑張りすぎるでないぞ。大美和さくら」
心の中に浮かんだ気持ちを、ただ一言そう呟いて教えるジャンヌ・ダルクだった。
*
「――それはいいとして。愛を信じる大美和さくらに救いを与えようと我は思う」
両足の力を緩めて、ジャンヌ・ダルクはバタバタさせていた足を止めた。
これ以上深く説明しても、大美和さくら先生には当たり前すぎる内容で気がつかないだろうなと思った。
折角、自分の信仰を守って日々、聖ジャンヌ・ブレアル学園の教師として指導しているから。その態度自体はまったく問題無いのだから。
自分が新設したラノベ部の部員がこんなに増えたことは嬉しくて、生徒会長への少しイラっとした気持ちは時間が
心配無用のうんじゅっさいかな?
「大美和さくらよ、よく聞こうぞ!」
ジャンヌ・ダルクは大きく肩で深呼吸して口を開く。
オーバーリアクションではなくて……。
続く
この物語はジャンヌ・ダルクのエピソードを参考にしたフィクションです。
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