小さな傘か、大きな傘か
ABC
大雨
最近、線状降水帯の影響で大雨が続いている。雨は好きだけど、学校がある日は学校に着くまでに靴がびちゃびちゃになってしまうから少し憂鬱だ。
家を出る時に雨は止んでいた。でも、帰る頃にはまた降っているかもしれないから折り畳み傘を愛用しているリュックにつっこんで家を出た。
学校が終わり、いざ帰ろうとした時には、やっぱりまた降っていた。ましてや、大雨だった。
「予報では、小雨になるって言ってたのになぁ」
だから、折り畳み傘にしたのに。そう愚痴をもらす。
この小さな折り畳み傘では背負っているリュックが濡れてしまう。前に抱え直して歩いても良かったが、それで転んだ苦い思い出があるし……。
雨はしばらく止みそうになかった。他になす術もないので、結局折り畳み傘をひらいて、その中で身を縮こまらせながら帰ることにした。小さな傘に当たる大粒の雨はまるでリズムを刻んでいるようだった。
歩いていると、後ろから声を掛けられた。
同じクラスのA君だった。
「リュック、濡れてるよ?」
A君は心配そうにのぞき込んできた
。
「そうなの。予想では小雨になるって言ってたから、いつもの傘は置いてきちゃったんだ。」
「そっか……俺の傘、入る?」
「え?」
思いもよらない提案に目を丸くした。
「俺の傘大きいから、二人で入ったら……あ、でもその方が狭いか」
不器用なその優しさにドキッとした。そして……そんな優しいA君に甘えてみることにした。
「いいの?」
「……うん、いいよ」
折り畳み傘を閉じて、A君にかからないように水気を切ってから、A君が身を縮こまらせて待つその大きな傘へと入れてもらった。しばらくの間、たわいもない話をした。駅で彼の背中を見送りながら、A君の左肩が濡れていたことに気がついた。
「雨に濡れているほうが恋をしている。」
どこかで聞いたその言葉がふとよみがえった。
雨で気温は低かった。だけど、私の心は温かかった。
A君がどんな理由で私を傘に入れてくれたのかは分からない。もしかしたら、A君は私の気持ちには気づいていないのかもしれない。だけど、今はそれでいい。卒業までまだ少しあるから。
小さな傘か、大きな傘か ABC @mikadukirui
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます