魔王に立ち向かう勇者たちとは、どんな人物だと思いますか?
怖いもの知らずの熱血剣士? 冷静沈着な魔法使い?
どちらも違います。人を愛したり、妬んだり、サボったりする普通の人間です。
それでは、魔王を倒した後、彼らはどのような生活を送るのでしょう?
国王から感謝され、一生安楽な生活が送れるほどの財宝を賜る? 恐怖のトラウマに悩まされ、ひっそりと隠遁生活を送る?
どちらも違います。荒廃した国土を建てなおす必要があるので、せいぜい一時金しかもらえないでしょう。生きていかなければならないので、隠居生活を送る余裕もありません。
この作品は、そんな勇者たちの「その後」の物語。
私たちと同じ等身大の元勇者たちが、仕事をし、小さな事件に遭遇し、悩み、それを解決していく物語です。
さあ、彼らと一緒に少々不思議な事件現場に向かいましょう。
仲間はあの元勇者たちですよ! ちょっとワクワクすると思いませんか?
魔竜を討伐し世界を危機を退けた「勇者」には、三人の仲間がいた。二年が過ぎ、勇者と呼ばれた女性は、自ら立ち上げた会社『オリエンス商会』の社長として手腕を振るいながら、裏では『脅威』が関わるトラブル解決を請け負っている。
――というのが物語のおおまかな背景です。異世界舞台であるものの雰囲気は現代に近く、しかし魔物のような『脅威』や不思議な『妖精』たちの存在、属性魔法や魔法教会、自警団……など、ファンタジー好きがわくわくする要素も満載です。
メインキャラたちは各自違う属性の魔法を操り脅威と戦うのですが、属性の相性や使用の制限などもあるため、一人一人の得意を考えて作戦を立てねばなりません。マイペースでちょっと天然な社長をサポートをする治癒師のレンリが主人公で、恋とお仕事と社会のしがらみが絡み合う立場にあって悩みつつも、愛する人を支えるため奮闘する彼の姿が描かれてゆきます。
特殊な素性のためものすごく強い勇者ことスカーレットですが、彼女を狙う者もおり。徐々に膨れあがってゆく悪意から、レンリは彼女を守り抜くことができるでしょうか。
推理の要素や国家・教会の目論見、犯罪組織の陰謀、などが織り交ぜられた、ちょっとビターなファンタジー。ぜひご一読ください。
かつて【魔竜フェイデル】が封印から解き放たれたことにより、全ての【脅威】が活性化される大いなる禍が、世界を覆い尽くしたことがありました。
人間滅亡の危機。それは、【勇者】率いる四人の【魔法師】たちによって解消されました。
スカーレット・オリエンス。才色兼備にしてオリエンス商会の社長の女性。一行のリーダーは彼女だったといい、人々は彼女を『白き勇者』と冠しました。
ナナハネ・ハートリー。『天上のひまわり』という愛称を持つ彼女は、元サーカス団員。魔法はもちろん、優れた身体能力で勇者を支えたと言います。
ガスパー・ディアンツ。自らを『闇の帝王』と称する錬金術師。爆発力のある魔法とその前向きさで、一行のムードメーカーのような存在となっていたそうです。
そして忘れてはならないのが、レンリ・クライブ。治癒魔法が得意で聡い彼は、大変な苦労性。奔放な三人をまとめるのは、たいてい彼の役目だったそう。
こちらの作品は、レンリさんの視点で語られる、勇者のその後のお話です。
彼らはスカーレットさんが経営する【オリエンス商会】に全員が属していて、依頼を受けて人々の悩みを取り除くのがお仕事です。
偉業を成してなお苦労性のままであるレンリさんは、日々様々な問題に頭を悩ませつつも、事件解決のために奔走する——
ファンタジーでありながら、丁寧な設定や現実味を感じさせる描写が、地に足のついた物語だと感じさせてくれます。
また、勇者たちの日常が味わえるところも素敵です。ある時は酔っぱらい、ある時は虫に怯え、そしてある時は恋愛を——彼らのそういう人間らしい一面を見ていると、親近感が湧いて来てしまったり。笑
そして何よりの魅力は、ミステリー的要素も含んでいて、我々読者もまた謎解きを楽しめる点です。人気女教師が、突然働けなくなったのはなぜ? 警備を強化しているのに、妖精園の妖精たちが毎日襲われるのはなぜ? そういう謎に、レンリさんたちと一緒に立ち向かってみませんか?
読めば読むほど面白みが増してくる、すばらしい作品。ぜひ、もっと多くの方に読んでいただきたい一作です。