1 This Nightmare

 ハッと目を覚ますと、そこは見知った保健室だった。

 今のは全て現実のことではなくて、ただなんでもない悪い夢なのだ。そうだ。私を殺そうとする男性なんて、心当たりはない。ひとつもないはずなのだ。あっては、いけない。

 なのに何故だろう、胸がざわつくようなこの感覚は。

「あら、起きたのね。良かった」

「……先生」

 やっぱり保健室の先生は母親みたいな安心感がある。未来への不安だとか、怪我の痛みだとか、悪夢への恐怖だとか、その全てを和らげてくれる。顔を見ているだけで落ち着いてしまう。

「もう体調は大丈夫そうかしら? 授業中に倒れたらしいじゃないの」

「……あれ、そうでしたっけ」

「もしかして、頭打った訳じゃないわよね」

「いいえ。大丈夫、だと思いますけど」

 先生曰く、私は帰りのホームルームのときに倒れてしまったらしい。その直前に頭を殴られた訳でもなければ、何かにぶつけてもいない。きっとただの貧血ね、先生は私の背中をさすりながらそう言った。けれど、私には何故かそうは思えなかった。それ以外の理由に思い当たりはしないけど、どうしても、別の原因があるように思えてならないのだった。

「自分では大丈夫だと思っていても、何かあってはいけないから、今日は早く寝るのよ。一応、ね?」

「わかってますってば。じゃあ、今日は本当にありがとうございました」

「そう……もう外も暗いし、気をつけて帰るのよ」

「本当だ、意外と暗いですね。では、また明日」

 閉まっていく扉に、心配そうな表情を浮かべている先生が見えた。



考えてみる→2へ『Who』

https://kakuyomu.jp/works/16816700426841578850/episodes/16816700426842226585


帰る→3へ『The way home』

https://kakuyomu.jp/works/16816700426841578850/episodes/16816700426842321510

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