第3話

「美味しかったー!やっぱライアの料理は最高だね!」


「なにを当たり前なことを言ってやがるんですかマスター。潰しますよ?」


「とか言って〜、顔を赤くしていたら〜、照れ隠しなのが〜、バレバレですよ〜、ライアさグヘェ!?」


「死ね」


「マスター、いい加減学びましょうよ・・・」


 そんな会話を交わしながら私たちは城の地下へと向かっていた。もちろん、地下も全て装飾済み。私たちは地下にも関わらず眩しい道を通っている。


 そうしてたどり着いたのが地下にある戦闘員置き場。そこだけは他とは違いなんの装飾もない。地下を切り抜いただけで地面が露出し、洞窟のようになっている。しかしとても広く、その広さは城の半分くらいはあるだろう。


「さて、みんな元気してたかなー?」


 そう言いつつ私が灯りを灯すと、そこには今まで私が作り上げた作品たちがひしめていた。そのどれもが魔物型のゴーレム。色は全て白色にした。狼型や熊型、スライム型、虫型、植物型、霊型などの一般的な魔物から、オーガ型、巨人型、地竜型、飛竜型の大物まで、ありとあらゆる魔物型ゴーレムがそこにはある。

 ゴーレムたちは私に返事をせず、ただそこに佇んでいるだけ。

 でもこの作品たちは私がこの城にこもってから5年をかけて作成し続けてきた集大成。いわば私だけの軍隊だ。


 そしてその集大成は私の目的のためのもの。それが今日から始まるのだ。


「やっと、ここまで来た。私が自分の生涯を決めたあの日から、ずっとずっとこの日を待ち侘びてきたんだ」


「おめでとうございます、マスター! ずっと言ってましたもんね。このライリ、心から祝福します!」


 ライリはそう言ってくれる。やっぱ可愛いなあ。うん。


「ずっと言ってた与太話のこと? まじでやる気でやがりますか? てっきり口だけかと思ってましたが」


 対してライアは懐疑的なようだ。私は以前からずっと言っていたのに。


「いや、私は本気だよ? 君たちもそのために作ったんだって初めに言ったじゃないか」


「はあー。マスターはやっぱアホでやがりますね。認めたくはねえですが、緻密なゴーレム作成ができて、錬金術も完璧で、加えて魔力も膨大。魔術も一流。どこかの国にでも雇ってもらったほうがいいと思うんですが」


 その言葉はきっとライアなりの心配の仕方なんだろう。今ならまだ引き返せると。でも、私はもう決めたんだ。


「国に雇ってもらう? そんなことしたら私の目的は果たされないじゃないか。全く、ライアはおバカさんだね」


「は? 死ね。いやそうじゃなくて。わかってるでしょうマスター。今ならこんな馬鹿げたこと、なかったことにできるんですよ? わざわざマスターがこんなことしなくても、きっと」


「きっと、なんだい? ライア。私は本気だ」


「・・・それは、傲慢だと、分かってるんですか? いくらマスターが天才だからって、こんなこと。それに、他に方法だって」


「ないんだよ。三種族戦争はもう誰にも止められない。止めるには遅すぎるんだ」


 この世界は戦争に満ちている。


 『三種族戦争』。

 人間、エルフ、獣人の三勢力で行われている史上最悪の戦争。その始まりは約500年前から。今もまさにこの世で行われている。今はもはや戦争があって当たり前の時代。日常的に戦いが行われ、死体も戦場には山にように積み上がっている。ただ殺し合い、それぞれの種族が大陸統一を目指している。そこに和解という選択は微塵も存在しない。


 そんな世紀末なこの時代を、私は変える。


「やるんだよ。たとえどれだけ無謀でも、どうしようもないことだったとしても、私はやる。そのための手段もシナリオも用意した。あとは全て完遂させるだけだ」


 そう言って、私は自分の決意を改めて伝える。


「私は、魔王になる」


「・・・そうですか。そこまでいうなら私は止めません。好きにしやがればいいです、クソ魔王」


「いきなり態度キツくなるのは違くないかい?」


「ふん、マスターなんか死ねばいいです。私の忠告を聞かなかったことに後悔しながら死ね」


 そう言って死ね死ね言ってくるライア。私はそんな彼女に声をかける。


「ありがとう。私を心配してくれて」


「っ、心配なんかじゃねえです! 何勘違いしてやがるんですか! 死ね!」


「はいはい、照れ隠しありがとうございます」


「死ね! っおら死ね!」


「あっその腹は、腹殴るのはダメだって! ゔっ」


「マスター・・・。やっぱ相変わらずですねー」


そう言って呆れた目で見てくるライリ。


「でも、僕も心配なのは知っておいてください。マスターの決意の固さは姉さんが確かめてくれましたから僕は何も言いませんが、それでもです」


「分かってるよ、ライリ。ライアも」


 でも、何度言われても止めることはできない。私はこのためだけに生きてきたのだから。


 私たちは、城の最上階にある玉座の間へと向かう。そこにある超拡大音声増幅魔道具、つまり玉座に私は座った。


「さて、じゃあ始めようか」


「はい!」


「ちっ、さっさとしやがれです」


 さあ、ここから始めよう。


 私は、魔王だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

偉大なる魔王様 カレー餅 @omotti

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ