めちゃくちゃ放射能を除去する異世界転生者。
「汚染水っつっても、飲める濃度なんでしょ?」
放射能汚染水の海洋排出を巡る問題で、『漫画好き過ぎ総理大臣』の愛称でお馴染みの麻爪大介首相は、記者からの質問に答えた。
「では、首相が飲まれてはどうなのか?」という東京新聞記者の質問に対して、「飲む訳ねーだろ。君らとは背負ってるもんが違うんですよ。学習してください」と答えたことで、国民の批判は高まり、第十六次麻爪内閣は解散となった。
世界的に問題となっていた、放射能汚染物質の諸問題は、第98代総理大臣馬延晋作に持ち越されることとなった。
2011年、未曾有(みぞゆう)の大災害であった東日本大震災において、被災地域にあった原子力発電所は、全てその震度に耐えた。また、地震と連続して起きた津波も、与野党の議論の結果で完成していた完全津波堤防により防がれた。予備電源は保持され、震災時にも安全安心に原発は運用され、その信頼性の高さにより、日本の原発技術は、海外への輸出された。
全てが順調と思われた原発行政であったが、未解決の問題があった。放射能汚染物質の扱いである。核廃棄物のリサイクルなどの研究は続いているが、汚染された冷却水の扱いに対して、国際的な議論も高まり、麻爪首相の発言と退陣により、国内の議論も活発となった。馬延首相は、牛歩戦術で、それらの議論を凌いでいたが、それも限界を迎えつつあった。
電力は、国民の生活には切っても切り離せないエネルギーである。日々増えていく汚染物質。馬延首相はマノベノミクス第1の矢『下級国民電力完全制限法』をも発動せざるを得ない状況になりつつあった。
そんな中、外務省事務次官・飯田段から朗報がもたらされた。いよいよ、我が国にも異世界転生者が現れたのである。さらに、その転生者は『放射能を完全に除去する異能』を有していたのである。この年の流行語大賞は「渡りに船」となった。
馬延首相の待望の放射能除去者は、その名前はこちらの世界では発音できなかった。そのため、発見者の飯田段の名前から「ダン・メシダ」と呼ばれることとなった。
ダン・メシダの異能は未解明であるが、汚染水に『気持ち』を込めると、それは微量のミネラルを含む安全な水となった。安全性を確認した後に、実験に立ち会っていた麻爪前首相に「いかがですか?」と、飯田事務次官が薦めると「こんな、温ぃ水が飲めるかよ」と小粋なジョークを返された。また、核廃棄物に同じ異能を使うと、完全に安全に核分裂が進んだ結果、核廃棄物は珪藻土と変化した。
ダン・メシダの登場により、国内の放射能問題は全て解決すると思われたが、重大にして最大の問題が横たわっていた。ダン・メシダの寿命である。ダン・メシダは放射能を除去できる唯一の存在。彼が死亡すれば、また問題がぶり返すこととなる。
すぐさまダン・メシダの生物的特徴の調査が始まった。様々な検査の結果、彼は、我々の世界の人類と生殖可能であり、性器がやや右曲がりなことを除いては、精原細胞もろもろ全て同一であった。そして、異世界人同士であっても、異能は遺伝されるとダン・メシダは言う。
ダン・メシダの子孫が早急に望まれたが、ここにも問題が浮上する。なんと【終末のハーレム】と同じ設定らしく、ダン・メシダの精子を使っての人工授精は不可能であることが判明し、『異世界転生者子孫量産強靭化計画』は頓挫した。
異世界から転生したきたダン・メシダ。今後の彼の活躍は、世界線よりもメタ的に小説のジャンルをも飛び越えて、描かれることになる。
続く【ここにURLを記載:https://kakuyomu.jp/works/16816700426391556501/episodes/16816700427000572299】。
法正林思想 ナカノ実験室 @yarukimedesu
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