これは実に面白い試みです。
ワンワードでこの作品を表現するなら「びっくり箱」でしょうか。
一見すると何でもない、どこにでもありそうな凡庸さを語っておきながらそれは単に上部だけ。羊の皮を被った道化師、宝箱に潜むミミック、それがこの作品の正体なのです。
読み進めるほど何をやりたいのか徐々に明らかとなっていき、受け手は半ばあきれながらも最後までフルスロットルな作者さまの悪戯に付き合ってしまうことでしょう。
ユーモアたっぷりでオチの発想も規格外。
それでいて、ほのぼの心が温まる親子愛も描けているのですから……控えめに言って魅力的で入賞に相応しいのではないでしょうか?
やはりビックリ箱のレビューは難しいですね。言わなければ閉じた箱のまま、言えばネタバレになってしまう。しかし、どんなに難しくとも私はこの作品にレビューを書きたかった。
なぜなら、ファンタジーとは異世界を舞台にした冒険譚だけを示す「ものではない」という事実を世に知らしめたかったからです。むしろこの自由な発想こそがファンタジーそのものだと言っても過言ではないでしょう。
異世界バトルファンタジーを単調に感じ始めた人こそ読むべき一作。
ファンタジーの可能性は無限大なのです。