何でもプラスチックを分解する細菌。
「亀の目にストロー刺さったくらいで騒ぐな。亀死んでもいいだろ」
『口歪み総理』という愛称でお馴染みだった麻爪大介首相のショッキングな発言は、世論を大きく騒がせ、海外からの批判もあり、第8次麻爪内閣は解散となった。そのため、二酸化炭素増加による環境問題は、第98代総理大臣馬延晋作に引き継がれることとなった。
馬延首相の執務机の上には、プラスチック関連業界からの陳情書が溢れていた。海亀の目にストローが突き刺さったショッキングな写真がSNSを賑わした。それらを受け、国連の提唱により、プラスチックストローの完全撤廃、プラスチックフォーク・ナイフの完全撤廃などが続き、昨年にはプラ容器も完全撤廃となった。そのため、コンビニなどで弁当を買う際は、ご飯とおかずが手渡しで販売されている。
悲鳴をあげたのは、これまでプラスチック商品を作っていた企業であった。プラスチックと組成が少しだけ違う脱法プラスチックの製造で、なんとか売上を保っていたが、いよいよ国連から「軽くてツルツルしたのはダメ」という最終通告がされてしまったのである。
元農林水産大臣である馬延首相は、この問題を農学的なアプローチで解決しようとしていた。生分解プラスチックの開発である。しかし、それらの開発も難航し、頭打ちとなっていた。馬延首相の地球環境問題に対する政策群マノベノミクス第2の矢『プラスチック関連業種完全廃業法』の発動も、間近に迫っていた。
第2の矢が発動される前日、滑り込みで全く別の解決策が考案された。農林水産省事務次官・飯田段である。
飯田は、それは神からの啓示のような、偶然であったと言うが、何でもプラスチックを分解する細菌を発見したのである。同様の細菌は確認されていたが、飯田の発見した細菌は、プラスチックの分解速度が早く、それは廃棄物処理への活用として、現実的なものであった。その細菌は発見者の名前から『ダン・メシダ』と名付けられ、早速、プラスチック廃棄物の分解実験が行われた。
ダン・メシダは、いわゆる海中の細菌であった。そのため、プラスチックゴミを海底に蓄積させ、そこにダン・メシダを放出する。すると、プラスチックゴミの表面にとりつき、徐々にプラスチックを分解していく。その過程で有害物質は発生しない。プラスチックが、酸素、水素、二酸化炭素など、一般的な分子へと分解されていく。
これにより、国内のプラゴミ問題は、完全に解決された。国民ゴミ完全分別法により分別されたプラゴミは、作業所でさらに細かく分別され、全国に作られた海洋廃棄所に集められる。そこは、ダン・メシダによるバイオプラントであり、焼却処分などに比べるとゆっくりではあるが、確実にプラスチックを分解していった。分解の過程で炭酸ガスが出る関係で、海洋廃棄所周辺の海はシュワシュワと泡立っており、『海のサイダー』と呼ばれた。
プラスチックが廃棄される速度と分解される速度では、前者の方が早くはあるが、今後、ダン・メシダの量が増えれば、徐々に解決されていくはずである。
これにより、国内のプラスチック廃棄の問題は解決されたが、二酸化炭素排出量の問題は未解決である。官僚達は「プラスチックを生分解できたのに、なぜ、二酸化炭素が減らないんだ」と憤慨したが、馬延首相は飯田段と議論を重ね、次なる一手を考えていた。
飯田が偶然発見した「二酸化炭素をめちゃくちゃ吸うキノコ」による、大規模二酸化炭素固定である。目下の課題は、そのキノコが食用もできず、枯れた後も全く自然分解されないことである。このキノコを食用に転ずることが出来れば……馬延首相と飯田の研究は続いた。後年、馬延首相は振り返る。学生の頃のような、熱を帯びた日々であった……と。
マノベノミクス第3の矢『全国民食卓完全キノコ化法案』は現在凍結中である。
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