キャプション

 これは異能の鬼才芸術家と呼ばれる、台場達也の最期の手記になります。

 彼は大きなコンテストやサロン、あるいは有名画廊とは最期まで関係を持たず、長年、多量の詩や絵画を独自で創作し、それを自分の小さな部屋に溜め、それらは生前広く発表されることはありませんでした。

 台場が孤独死を遂げた後、彼のアパートの管理人が友人であった文人・芸術家の童子雪山(とうこせつざん)にかたづけの手伝いを頼んだことから作品が「発見」され、現在の評価・芸術史的位置づけにつながりました。

 今日でこそ、その独特で独創的な世界観や芸術表現に魅了される人の多い台場ですが、彼が生きた当時はそれを理解し、彼を勇気づけてくれる人はほとんどいなかったようです。

 たしかに、彼の描くモチーフには、今日的観点から見ても決して美しいと言えるものではないものが多く含まれます。ときには、それらは汚物以外の何物にも見えないものもあるでしょう。

 しかし、それでもそれらの多くは「美しく」描かれているのです。

 彼自身が忌避し、彼自身を殺した「人間社会」に対しても、台場はやはり同様の目を向けていたことがこの手記からも分ります。

 また、同時に、台場自身も理解されることよりも、厖大な知識量を礎に、自身の感得した「美しさ」を表すことに注力したこともこの手記からは読取れます。


 本展覧会では、台場のそうした独特な視点や、そこから描き出される凄惨であっても美しい作品を集め、展示するよう努めました。

 この展覧会がご来場頂いた方々の「世界の美しさ」を少しでも拡げる助けになりましたら、これに勝る喜びはございません。

 また、本展覧会の開催にご協力・ご尽力賜りました関係者の皆様にも、この場にて重ねて御礼申し上げます。

 どうぞこの度は、台場達也の、醜美を超えた哲学的にして地獄のような美しさをご堪能下さいませ。



                                 2021年吉日

                                  主催一同

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