その後へ
初等科一年一学期の中間試験は、ペーパーテストだけである。
人が多いので、滅多に使われない中央棟の大講堂で行われ、教科書とノートは持ち込み可能だった。
「……椅子が固い」
指定された席に座り、すでに裏返しで配布されている問題用紙と答案用紙を眺め、あたしはやたら固い椅子に蹴りを入れたくなった。
肌で感じる気配で、大講堂内には特殊な結界が張られ、いかなる魔法も封じられている辺りがいかにも魔法学校だった。
そのうち時間がきて、あたしは問題用紙と答案用紙を裏返した。
「……なんだ、簡単じゃん」
一応持ち込んだノートを参照しながら、あたしはサクサク問題を解いていった。
チラッと横をみると、少し離れた場所にいるスコーンも順調に解答を進めているようだった。
サラサラと答案用紙を全て埋め、忘れがちな名前が書いてあることを確認し、あとは終了時間が来るまで、暇つぶしにノートに新しい魔法の構成式を書いていた。
程なく試験が終わり、問題用紙と答案用紙用紙が回収され、私は痛い腰とケツをさすりながら大講堂を出た。
まだ教科書を読んでいるスコーンに出会い、あたしは声を掛けた。
「どうだった?」
「うん、大丈夫だと思うけどな。何回も見直ししたし……」
スコーンは教科書を閉じ、笑みを浮かべた。
「そっか。よし、腹減ったし学食にいくよ!!」
「そうだね。また、特大大盛り激辛カレーとジャンボパフェ?」
スコーンが笑った。
「そうだよ。今日はカツも乗せよう!!」
あたしは笑った。
この学校はエルフでも人間でも、一緒くたに受け入れている。
学食に向かって廊下を歩いて行くと、白衣を着た二人組のエルフとすれ違った。
「これは魔法薬のニオイだね。先生かな?」
あたしは笑った。
「私は魔法薬が苦手なんだよね。材料がどれだか分からなくて……」
スコーンが苦笑した。
「あたしは母親が魔法薬師だから、ちょっとだけ分かるけどね。得意か苦手かといわれたら、どっちかっていうと苦手なんだよね」
あたしは笑った。
学食に着くとそれなりに人がいたが、混んでいるというわけではなかった。
「なに食べるの?」
あたしはスコーンに聞いた。
「盛りそばでいいや」
スコーンが笑みを浮かべた。
「それじゃ、あたしが取ってくるから、スコーンは席を取っていて!!」
スコーンがテーブルを確保し、無料だがなぜか置いてある券売機で食券を出した。
「えっと、いつものカレーカツ乗せ大盛りでカツトッピングで、スコーンは盛りそばマウンテン盛りっと」
食券を持ってカウンターに行き、巨大なトレーを乗せて待っていると、凄まじくデカいカレー皿と、とんでもない量が盛られた盛りそばを乗せ、スコーンが待つテーブルに向かった。
「オギョー!?」
スコーンの前に超絶大盛りの盛りそばを置くと、変な声を上げてひっくり返った。
「あたしにとっては普通だよ。さて、食べよう。残したらダメだよ。そば通の名が泣く」
「私はそば通じゃないよ。これ、どこから食べたらいいのか……」
まあ、あたしたちはちょっとランチには早い昼飯を済ませた。
「うん、なんかデザート欲しいよね。待ってって!!」
私は死にそうなスコーンを置いて、券売機でジャンボパフェの食券を二枚出してカウンターに持っていた。
しばらく待って、ジョッキ一杯のパフェを持ってテーブルに戻り、私は小さく呪文を唱えた。
死にそうだったスコーンが元に戻り、不思議そうな顔をした。
「あれ?」
「消化の魔法。いくらでも食えるぞ」
あたしは笑った。
復活したスコーンとパフェを食べていると、あまりの量に再びスコーンが死にそうな表情を浮かべ、私は消化の魔法を使った。
「魔法を使うとエネルギーを消費するからね。このくらい食べないと、とてももたないよ!!」
あたしは笑った。
「キツいよ。なんでこんな……」
スコーンが小さく息を吐いた。
「慣れだよ慣れ。さて、部屋に帰ろうか!!」
あたしは笑って、ブツブツなにかいっているスコーンを抱え、長い廊下を歩いて寮まで戻った。
寮の部屋に戻ると、あたしはスコーンをベッドに寝かせ、途中まで研究中だった魔法の続きをはじめた。
「あっ、そうだ。テストが終わると無条件で五日分の休暇がもらえるんだけど、どうする?」
あたしは寝ているスコーンに聞いた。
「そういう時は、お姉さんのビスコッティさんに聞けばいいんじゃない?」
スコーンが怠そうに応えてきた。
「そっか……」
私は無線のチャンネルを合わせ、ビスコッティを呼び出した。
『はい、どうしました?』
「いや、休暇をどうしようかと……」
『そうですね。外出しようにも列車でコルキドの町に行くくらいしか……』
「そっか、暇なんだよね……」
『では、キャンプでもしますか。馬車でも借りて』
「おっ、いいね。必要なものは購買で手に入るし!!」
『では、馬車を借りてきます。正門前で待っています』
私は無線を切った。
「スコーン、キャンプだって!!」
「えっ、どこでやるの?」
スコーンがベッドから跳ね起きた。
「どうせ、学校の周りにある草原でしょ。まさか、コルキドの町でやるなんてファンキーな事いわないだろうし!!」
私は笑った。
「分かった、いこう」
スコーンが笑みを浮かべた。
荷物を纏めて空間の裂け目に放り込み正門前にいくと、ビスコッティが大型馬車を用意して待っていた。
「では、いきましょう。馬車で十分ぐらいの距離にしましょうか」
ビスコッティが馬車を出し、正門の守衛室で外出許可書を提示して進み、街道を少し走って草原に乗り入れた。
「この辺りでいいでしょう」
なにもない草原のただ中にキャンプ道具を設置し、あたしは焚き火を焚いた。
ちょうど昼メシの時間だったので、ビスコッティが料理を作りはじめ、折りたたみ式テーブルと椅子を取りだし、キャンプ食の定番らしいカレーを食った。
食器は紙製の燃やせるタイプだったので、食べ終わった食器は焚き火に入れて燃やした。
ご飯が終われば暇な時間だったが、あたしは明るいうちにとアラームの罠をしかけはじめた。
これは、一定に張った線を踏むと発動するもので、派手な警戒音を放つだけのものだったが、それなりに効果はあった。
キャンプ地を大きく囲んで罠を仕掛けたあたしは、再びテントのある方に戻り、折りたたみテーブルで、読みかけだった魔法書を読み始めた。
スコーンはテント内で遊んでいるうちに寝てしまったようで、ビスコッティは晩メシの支度をはじめ、緩やかな時間は過ぎていった。
やがて夕闇迫る頃、スコーンが起きだった目を擦った。
「あれ、寝ちゃった……」
スコーンが欠伸をした。
「うん、よく寝ていたよ。そろそろ、晩メシだって!!」
あたしは笑った。
「そっか……。通りでお腹が空いたわけだよ」
スコーンが笑った。
ビスコッティ作の夕食を食ったあと、焚き火を囲みながらビスコッティが酒瓶を取りdした。
「キャンプといえばこれです。スコーンさんもリズさんもどうですか?」
「うん、飲んでみる!!」
スコーンが笑ったが、あたしはそれを固辞した。
あまり興味がないし、未成年のうちは飲まないと固く誓っていたからだった。
酒盛りは深夜まで続き、あたしは先にテントに入った。
キャンプから帰って休暇も明け、試験結果が発表された。
「あたしは四位か。もっと頑張らなきゃな」
部屋に運ばれてきた結果表を見て、私は苦笑した。
「私なんて百九十六位だよ。ここまで難しいなんて、全然思わなかったから」
スコ-ンが苦笑した。
「さすが、最高学府だけの事はあるね。これでも、村の魔法学校じゃ断トツトップだったんだよ」
「私も中央魔法学校じゃトップだったんだよ」
スコーンが苦笑した。
「そうだ、ビスコッティの成績を見てくる!!」
スコーンは部屋から出ていった。
「……プライド傷ついたろうな」
あたしはは苦笑した。
そのまま数時間経っても帰ってこなかったので、私はスコーンとビスコッティを無線で呼び出したが返答はなかった。
「どこにいったんだか……」
あたしはとりあえず警備部に二人の捜索依頼を出すと、小腹が空いたので学食に向かった。
適当に食って外に出ると、廊下が大騒ぎになっていた。
掲示板に張り出された紙には、大きくビスコッティとスコーンの名前が書かれ、「無許可エリアでの飲酒「未成年への飲酒強要「禁止薬物の使用」とあり、放校処分となったと記載されていた。
「……あーあ、やっちゃったか」
あたしは小さく息を吐き、寮の部屋へと戻った。
手が早いもので、スコーンが使っていたベッドや机は綺麗に片付けられ、次の主を待つ体勢が整っていた。
クローゼットも開けてみたが、中身はすっかり綺麗になってて、スコーンがいたという痕跡は一切なかった。
「さて、次は誰がくるか……」
私は苦笑したのだった。
……これが、その後になって国を沸かせる、トップクラスの魔法使いの第一歩だった。
「完結」
リメイク版 使い魔は…… NEO @NEO
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