第2話
公爵家での暮らしは快適であった。
王家の姫様に今さら淑女の心得など恐れ多いと、公爵夫妻はひたすら恐縮してマリーナに何かを要求したり咎めたりしてくることもない。
対面のとき、その地位に見合わぬ謙虚さや低姿勢を目の当たりにしているだけに、マリーナとしても下手に刺激しないようにしようと心に決めている。
言うならば、小康状態。
本国からついてきた侍女は少なかったが、公爵家の使用人たちともすぐに打ち解けた。
問題らしい問題はない。
敢えて言うならば、夫となるひとに会ったことがなく、別居が続行中ということだった。
(婚約者が来ているのに、一度も顔を見せないって、変よね。仕事が忙しくて王宮に囲い込まれているというのは嘘で、本当は愛人宅に住んでいたりするのかしら。公爵夫妻が何かと申し訳無さそうにするのも、案外そういう理由?)
気にした方が良いのかな? と考えないでもなかったが、会ったこともない人物であるだけに思い入れもなく、嫉妬など抱きようもない。
自由にしていいと言われているので、普段は屋敷の中で気ままに過ごしている。
特にお気に入りは、図書室。
公爵家の蔵書量は、圧巻の一言。
壁を埋めつくす書架。さらには梯子がかけられていて、上部はぐるりと手すりの張り巡らされた廊下状になっており、そのすべての壁が書架となっている。
部屋の中には重厚な書き物机の他、ゆったりとしたソファやローテーブルがいくつも置かれていて、座るところには事欠かない。
大理石で作られたマントルピースは堂々としたものであり、その上には二基の燭台が置かれ、公爵家のご先祖様、壮年の男性を描いた絵画が飾られている。
マリーナが図書室に通い始めた最初の頃は、誰かしら供としてついてきており、マリーナも読みたい本を借りるとすぐに部屋に戻って読むようにしていた。
そのうちに「図書室ならもう勝手はわかるから」と一人で通うようになり、さらには部屋に本を持ち出すのも面倒になってその場で読むようになった。
お茶の時間には適宜、お茶と焼き菓子が運ばれてくる。
そのときばかりはマリーナも行儀よく本を置き、水分と栄養を補給する。たまに、公爵夫人が同席し、他愛もない世間話をしていく。
その後は、再び本を読み始める。
食事の時間になれば、食堂に向かう。
夜は自室で就寝。
かような暮らしを満喫していたマリーナであるが、ある晩ついにベッドを抜け出し、図書室へと向かった。
夕食の前に読みかけた本が、あと数ページというところだったせいである。
図書室から直接食堂に向かったせいで、部屋に持ち出すこともできず。
寝ようとしたが、どうしても気になってしまい、燭台を片手に廊下を急いだ。
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