共犯と描くハッピーエンドーお前には最高に幸せなハッピーエンドに辿り着いてもらいますわ!!ー

Namako

セレスティーヌ=A・ブリリアントという女。


 成し遂げましたわ〜〜〜〜〜〜!!


 私、セレスティーヌ=A・ブリリアントは悪役令嬢ですのよ。なんでそんなこと自覚してるかってそりゃもう前世はただただ凡人しかもあんまり嬉しくない一般女性でしたの、今はこのざまですけれど。前の名前は忘れてしまいましたので仕方がないのですが、ともあれあーだこーだと目が覚めたら私はとても推していた乙女ゲーム、「聖女の盤上遊戯(アリアINロジックアラカルト)」のにっくき悪役令嬢セレスティーヌになっていましたの。死んだ記憶はないので多分憑依だとは思うのですが詳しいことは分かりませんわ、セバスでも分からないことは私にも分かりませんもの。

 さて、目覚めてすぐは非常に悩みましたわ。あるあるではありますが、セレスティーヌは悪役、つまりこの世界には主人公がいますのよ。つまり主人公がハッピーエンドになったら私死にますわ、そこだけは分かりますのよ全ルートやりましたので。

 ですので、それを解決すべく私頑張りましたわ! 

 まずはゲームの舞台であるメタンギシス帝国に現れる主人公、“聖女アリア”との友好関係を得ること。これめちゃくちゃ頑張りましたわ、何せ次期皇帝のアイン様と主人公アリアの会話中にババーンと間を割くように乱入するところが彼女との初合わせ。変にタイミングをずらしてはえらいことになる気がしたので、一応その通りには出演しましたわ。だって私アイン様の正式な婚約者ですもの、設定上。

 そこで私考えました、ことはかんたん、印象を下げて!!上げる!! だいたいそうすればオタクは落ちますわ、私もそうでしたのよ。なので初対面はゲームの通りに、そして後でうまいこと二人きりになって“私、周りの目があって中々アレなことになってるけど実は良い人なんですよ”アピールをしこったましましたの。アリアの苦労はそれはもうばっちり履修済み、下級階級に生まれ天涯孤独で教会に保護される形で生きてきたまさしく苦労の子。それが唐突に予言で聖女だと連れてこられて、これから帝国に降りかかる災厄を払う為に戦うことになるのですよ? がらっと変わった環境の中、顔も良くて声も良くて性格までイケメンな騎士や王子様や魔法使いに振り回されながらも波乱な恋に落ちていく……そんな人生をこれから歩む相手ですもの、優しくしたいのはもっともなことですわ。もののついで私を見逃してくれるともっと嬉しいのですわ。

 色々不安はあったものの作戦はうまく行きましたのよ! 私偉いですわ〜! おかげでアリアをお茶会に誘うことで狙っている殿方をある程度推測できるどころか、その恋の相談まで頂けるようになりましたのよ。私ほんと偉いですわ〜! ぶっちゃけここまできちんとこなせるようになるまでめちゃくちゃ死にましたわ!! ありがとうリスタート機能!

 さて、主人公とのでっかいパイプを繋いだら今度は自分の身の回りをどうにかしようと思いつきましたの。そもそもなんで悪役令嬢になってしまったかといえば、お家が色々汚いお金と汚いお仕事で塗れに塗れまくってまして。その中でゲーム内の幼いセレスティーヌはこう思いつきましたのよ、“王子様が来ないのなら捕まえてしまえばいいじゃない”と。我ながら恐ろしいこと考えますわねこの女。つまり幼い頃にアイン様に接触して強かな演技力を持って、なんと婚姻の約束を取り付けたのですわ。

 実はこの聖女の盤上遊戯、世界観が独特というか特別なルールがございまして。

 この世界において予言は絶対で、生まれる前からどういう役目で生きるのかが決められている世界なんですの。そしてその中でもお互いが交わした“約束”は何よりも強い力になりますのよ、つまりそんな小さな子同士の約束でも力を持ちますの。しかも、セレスティーヌは主人公アリアと同じ“祈りの魔力”の持ち主……祈った相手を強くすることができるのですよね。これめちゃくちゃ強いんですのよ、主人公補正をこっちが意図的に貼っつけるようなものなので。

 何が言いたいかと言いますと、つまり若くしてアイン様が次期皇帝だと言われ持て囃されるのはアイン様には幼い頃からセレスティーヌの婚約という約束の“祈り”を一心に受けて困難を乗り越えてきたというぶっといバックボーンがありますの。それがたとえ偽りの約束だとしても、功績は本物。なのでアイン様は基本的にはセレスティーヌの家がどんなに暗いものでも、セレスティーヌがどんなに悪女でも約束の祈りを失わないように結婚するしかない状況にあるのです。まぁ、そのロックを主人公がぶち壊すのがロックなのですけれど。

 元は自分のせいとはいえ、こんなくそみてぇなお家を背負う以上ろくな動きができませんわ! 暗殺謀殺権力のために文字通りなんでもしてきたブリリアント家、とりあえずここをどうにかしないと私の生存エンドはないのですわ! というわけでどうしたことかなー……と考えていたところ、心強い助っ人がいることに気がつきましたのよ。


「いつまでおままごとしてるのかと思ったら、まさか本気とはね。正気かい? セレスお嬢様。変なもの食べたんじゃないの?」


 そう、セレスティーヌには強い味方もといスパイ。従者の騎士エリックがいましたの。最近の私の様子があまりにおかしいからと真正面から毒吐かれるまで存在を忘れてましたわ、ごめんなさいねエリック。あなたのルートに入らずともあなた割と私から離反してたりするからとっくに愛想つかれたかと思ってましたわ! しかも嬉しいことに全然そんなことなかったのですわ〜! ありがてえ〜!

 エリックは騎士の役目を背負った攻略キャラ(しかも隠しルート)の一人、可愛らしい容姿とは裏腹に毒舌で恋したら一途な少年騎士。それと同時にセレスティーヌお抱えの従者でもありますの。つまり愛想つかれない限り彼は私の味方、仮に今から主人公アリアに彼を攻略されても今の状態なら友好的に話がつく。つまり本当に味方! スパイとしての行動ならなんでもできるセレスの所にいることだけが欠点の男でしてよ! 語っててちょっと悲しくなってきましたわね。

 なにはともあれ。


「ある意味正気ではないのかもしれませんけど、私本気であの子を応援してるのよ。でも私だけじゃ手が足りないわ。……エリック、手伝ってくれますか?」

「……仕方がないなぁ、分かったよ。僕はエリック、セレスティーヌの従者だ。きみの気まぐれに付き合おう」


 情報も裏工作もびっくりするほど順調でしたのよ。しかもエリックが気を回してくださったようで、今までセレスティーヌのわがままや癇癪で信頼度がマイナスになっていた執事のセバスやメイド長ともきちんとしたツテが出来ましたの! 素晴らしいですわ私の従者〜! おかげで私の未来は明るいですのよ〜!

 いちいち解説してしまうとそれはもう長編小説になってしまいますからすっとばしますけれど、それから私セレスティーヌはRTAのごとく走り回って、主人公アリアはきちんと恋を育みながらも災厄と戦い、私はアイン様との呪いの因縁を然るべきタイミングできっちり精算し(アイン様、すべてを告白しても怒らずに受けとめて下さいましたのよ! さすが推し! そういうところですわよ!!)、然るべきタイミングで私は舞台から降りることができましたの。

 あとは主人公アリアが最後の厄災を騎士たちと祓って、無事に生還してくれれば無問題! そこから先はもうお城でゴールインするだけでしてよ ! 結果的に私は大貴族としては落ちぶれましたので結婚式には出席できませんが、まぁむしろいなくていいんですのセレスティーヌだから!! そもそも本来生存さえしてませんからね私!!

 そんなこんなで国境手前、決戦が繰り広げられる大舞台とは真逆に馬車を走らせて国外逃亡するところですの。家で仲良くしてくださったセバスやメイド長も一緒、しかもエリックまでついてきてくださいましたの。まぁアイン様平和ルートならエリックは途中退場してますものね、なんやかんや生存してずっとお手伝いしてくれたのは本当にありがたかったですわ。あなたいなかったらきっとここまで来れなかったから! ほんとに!

 さーあ希望の凱旋ですわ、私は遠くの国でなんとかこれから生きる方法を探しますわ! 少なくともこのメタンギシス帝国は平和になりますもの、いいことですわ! もうこれからはボーナスゲームでのんびり気ままな没落貴族ライフですわよ〜〜〜〜……おや? 何か雲行きがおかしいような……。


「セレス様! 大変です! 空が……厄災が!!」


 馬車を止めて空を見上げる。そこには最後の厄災である光のない空が、ぱっくり口を開けるかのようにひび割れているではありませんか。

 あ、これやべえやつですわ〜〜〜〜! めっちゃくちゃ見覚えありましてよ〜〜〜〜!!


「あぁ……」

「セレス! このまま国境を越えよう、今なら逃げ切れるかもしれない!」

「だめ、エリック。これは、……どうにもならないわ……」



 だってこれラスボスでゲームオーバーになった時の画面ですもの。



 しでかしましたわ〜〜〜〜〜〜!!

 目が覚めたブリリアント家の自室、豪勢なベッドの上で流石に頭を抱えましたわ。考えうる限り最善のルート、最善の身のこなし、悪役令嬢としてはあれでしたけれど成すべきことは全てこなしましたのよ!? なんでリスポーンしてるですの〜〜〜〜!?

 まさか土壇場でアリアしくった? なんで!? 負ける要素ありまして!? 

 攻略情報もそれとなくどころか、きっちり書面にまとめてお出ししましたわよね!? 何かフラグを落としてた? それとも私が余計なことをした?


 考えて考えて考えて。それから何度も同じことを繰り返しましたわ、最善のエンディングを目指して頑張りましたのよ。でもダメでしたわ、何やってもラスボスの厄災で詰みますの。これは何かがおかしい、致命的な何かを私は見落としてしまっている。そうして何度目かのループでようやく気がつきましたの。

 アリアの表情に、強さが足りないということに。 


「あぁ、そっか」


 アリアは辛いことでも耐えてきた、むしろ彼女は逆境の瞬間にこそ強さを見せる女の子だった。私はその強さに惹かれて全てのルートをクリアしてもなお、心が辛くなった時にまたゲームを起動した。イケメンに会いたい、愛されたい、攻略したい、それ以上に私はアリアの姿を心の支えにしていたことを思い出しましたの。そして、セレスティーヌがどんな女なのかも。

 セレスティーヌが引き起こす幾多の困難を乗り越えてアリアは祈りの魔力を開花させていく。セレスティーヌがアリアの目の前に難題を置くことで、アリアはそれを解く力を身につけていく。どんなに卑怯で憎らしい彼女であっても、彼女は決してアリアとの勝負から逃げ出すことはしなかった。婚約破棄のイベントも、状況的にセレスティーヌはそのことを分かっていた。でも、セレスティーヌは逃げなかった。

 それはアリアとの勝負だったからだ。

 祈りの魔力を持つ特別な聖女として、同等の存在として。

 つまり、セレスティーヌはあるべくして悪役令嬢だったのだ。

 私は、彼女の友人ではなく彼女の試練にならなくてはならなかったのだ。


「……なるほどなぁ、それでここ最近大人しかったんだ」


 物語が始まる前夜、私はこれまでとこれからの全てをエリックに告白しましたわ。ループし続けていることも、私は本来死ぬ役割だということも。彼は最初戸惑ったようでしたけど、すぐに真剣に告白を聞いてくださいましたわ。

 どうやら私がループしている最も近い所にいた影響で彼も漠然とループしている感覚があったようで、いやほんと申し訳なくて床に埋まりたくなりますわね! あなた自分で抱える情報量めちゃくちゃ多い上に他の騎士様との連携も取って……いやほんとに申し訳ないですわ……ごめんね……?


「状況はわかった。世界を振り回すなんてとんでもない女の子だよ、きみは。――それで、セレスはどうしたいの?」


 肝心なのはそこなのですわ!

 私は悪役令嬢セレスティーヌとして聖女アリアの試練になる必要がある、そのためにどうすべきか。

 なんて、とっくに分かっている。


「本来のセレスティーヌ……いえ、それ以上に彼女の試練になるべき“悪”として立ち振る舞いますわ」


 今までは良い人であればよかった。けれど、それではダメだった。それでは私が好きになったこの世界は全く違う形になってしまいますわ。

 私の存在が、この物語を駄作にしてしまう。

 それだけは許せなかった、許してはいけなかったのだ。この世界でも私は主人公じゃない、でもこの世界には“主人公がいる“。ハッピーエンドを切り開く、主人公が。


「セレス、正気かい? それは死ぬために戦うと同義だ。きみは……何をやっても死ぬんだろ」

 

 これまで通り世界がバッドエンドでも、ループするなら他の道があるんじゃないかとエリックが引き止める。けれど、私は。


「それでも構いませんわ。私はこの役目を演じきって見せる、生き残りたいなんて甘いことはいいませんわ。……そもそも私、この世界が好きなんですの」


 この世界が迎えるハッピーエンドを、私は知っている。アリアの幸せを、騎士たちの幸せを、祈りを、私は知っている。

 私の死の先に確実にあるハッピーエンドの為なら、”私はそこにいなくたって構わない“。

 

「もう逃げませんわ。――私はセレスティーヌ=A・ブリリアント、ですもの」


 ……ただ、そこにどうやっても彼を、エリックを巻き込んでしまうのが心残りなのですわ。彼は本来攻略キャラ、ルートによっては悲惨な目に遭うかもしれないけれどこれから私が目指すのは、しかもこれから来るアリアに目指してもらうのは真ルート。

 全てのルートを知ることで初めてフラグを見つけられる、最後の物語。つまりアリアを幸福にするルート! 今まで騎士たちに寄り添ってきたアリアが、騎士たちに支えられる全員生存(私以外!)の最高のエモエモルート! リマスターで追加されただけはありますわ〜〜私このルートで〆るのが大好きでしたのよ〜〜!!

 ただ、唯一。エリックだけは隠しルート扱いなせいか彼だけは私と共に来てしまう、今の状況ではあまり嬉しくないルートでもありますの。困りましたわ!! でもラスボスを安定して倒してもらうには、唯一イベント戦扱いで確実に突破できるこのルートしかありませんの!!


「エリック。あなたは――」

「いいよ、最期まで一緒に暴れてあげる」

「エッッッッ!? いいいいやでもあなた私といたら死んじゃうんだよ!? ダメでしょ!? あなただけならワンチャンあるかもしれないでしょ!!」

「ワンチャンねぇ……前ならたしかに乗ってたけどさー、でもなー」


 彼は笑う。

 少なくとも、私は見たことがない表情だった。何度も回ったのに、彼のルートだって何度もプレイしたのに。液晶越しでは絶対見られなかった彼の、いたずらな微笑みが。


「僕は今のきみの方がいい」


 あっやばい、愛した。私初めて気がつきましたわ、こういうのめちゃくちゃ”癖“ですわ好きですわぶっ刺さりましたわ!? 嘘!? 本命アイン様なのに!?

 情緒が乱れまくって私がどんな顔してるか全然分かりませんことよ!? あらやだ死ぬ覚悟なのに今更夢見始めちゃいましたわ〜〜〜〜! も〜この世界最高ですわ〜〜〜〜〜〜!!!!


「そう。……なら文字通り最期まで付き合ってもらうから覚悟して頂戴ね!! さーー徹底的に主人公ボコして逆転されて最後には高笑いしながら華麗に散りますわよーー!!」

「その為にも今回はきちんとアイン様のお心を狙ってくださいね、”セレスティーヌお嬢様“?」

「う゛う゛っっそうだそこがあるんだった……あ゛あーーーーアイン様には身綺麗でいてほしかったのになぁ゛ーーーー!!!!」



 私ってほんっっっっと嫌な女ですわーーーーーー!!!!!!!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

共犯と描くハッピーエンドーお前には最高に幸せなハッピーエンドに辿り着いてもらいますわ!!ー Namako @Namako

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ