第11話 京都
俺は外が明るくなり出した頃合いに浅い眠りについたようだが、程なく隣の部屋から聞こえてきたごそごそと人が動く音で目が覚めた。ソファから起き上がり頭を掻きむしってから、音の出所へと向かう。里奈がいる。
「おはようございます。」
「あぁ。」
「眠れなかったようですね。」
恐らく目の下にくまが出来てひどい形相をしていたのだろう。顔色で寝不足に気づかれてしまった。
「あぁ。そうだな。・・・それで、今日俺はどうすればいい?」
「はい。それなんですが、次の能力者と落ち合って貰えればと思ってます。待ち合わせは明日ですが前のりで京都に向かってもらえますか。」
「そりゃまた遠方だな。」
「はい。海外じゃ無いだけましだと思ってください。」
「海外は無理だぜ。俺はパスポートがねぇからな。」
「今のところ私どもが調査出来る範囲も国内ですからね。別の国にも恐らく能力者は存在していると思いますが、動向はつかめておりません。」
「外国人にもいるのか。どれだけ話がでかくなるんだか・・。」
「メディアにはまったく取り上げられておりませんが、秘密裏に国が管理している程の事柄ですから、既にでかい話である事お伝え済みの事実ですがね。」
「俺には半分くらい未だに作り話にしか聞こえてこねぇな。流石に今までの経験で半分はイメージが湧いてはきたが。」
「あ、そうでしたこれをお渡ししておきます。」
そういって、里奈はカウンターに拳銃をごとりと置いた。さらに、その横についでのようにマグカップに入ったコーヒーを差し出す。
「まじかよ。これ、本物だよな。」
「はい。ちゃんと飲めます。毒は入れてません。」
「いや、そっちじゃねぇだろう!どう見ても爽やかな朝に不釣り合いなものがあるだろうが!」
「あ、はい。こちらも本物ですよ。私たちは慣れっこでしたもので。すみません。」
「はぁ。なんか、悪いことしてるのか良いことしてるのか解んなくなるな。」
俺は、寝不足のせいもあってか、もはや深く考えることが億劫になっていた。それにその他諸々に関しても整理がつかない状況が多く、常に頭の中が混乱した状態だった。一方で平静を保つためにはただ目の前の事を直感でこなすことに没頭する事だという事にも気づいていた。そうする事で少なくとも余計な事を考えなくて済む。茜の事は気がかりだが。
「今回は、佐竹さんにも同行頂きます。」
「佐竹が?なるほどな。まぁ刑事同行のほうが俺も何かと安心だ。解った。行ってくるよ。ただ、茜の手がかりが見つかったらすぐ教えてくれ。」
「わかりました。」
その後俺は里奈と別れ、東京駅で佐竹と落ち合い、京都へ向かった。
京都についた時間はまだ昼前だった。ホテルのチェックインには時間がある。軽食をすました後、佐竹と相談し一度現場を見に行くことになった。
京都といえば神社や寺が多いが、今回の現場はその一角だ。といっても有名な仏閣ではなく住宅街にある小さな神社の一つとの事だった。
俺たちは市バスで最寄りのバス停まで行き、住宅街を携帯の地図を見ながら歩いた。
「この間はありがとうな。」
俺は長野での一連の後片付けの礼を言った。
「なんの事ですか?」
佐竹は思い当たる節が無いように聞いた。
「長野での事だよ。あの後は上手く片付いたのかよ。」
「ええ、なんとか大丈夫でした。子供が二人拳銃自殺した事で処理しています。小田切さん達へ容疑はかかっていませんよ。」
「すまねぇな。しかし。ニュースにもなってねぇし、上手い事やれるもんなんだな。」
「はい、その辺は裏で結構動きましたからね。」
流石国家公務員だ。嫌、ただの国家公務員がここまでやれるわけではない。佐竹の腕や器量が確かなのだろう。
その後俺たちは現場に着いた。神社とはいうものの人が参拝に来ている様子もなく、手入れもされていない。#社__やしろ__#には時代劇でみるような錠前があり、受け取っていた鍵というよりは器具のような金具を横からいれて開錠する。中へ入ると、雨風が吹き込んでいて、床は砂や枯葉で溢れている。
「こんな所に本当に能力者が来るのかよ。」
「ええ、柏木さんからはそう聞いておりますので。信じる他ありませんね。」
「まぁ、そうだな。」
俺たちは下見を終え、その場を後にした。帰り際、鳥居を潜る時ににどこかから視線を感じた。そう感じた瞬間、神社の神木らしきひと際大きな木からカラスが飛び立っていった。視線はそいつから向けられたものか。
その後俺たちはホテルへチェックインし、別々に行動した。ビジネスホテルの部屋は先日、茜と出会った部屋を連想させた。
「あいつ、大丈夫だろうか・・。」
俺はベッドに座り独り言をつぶやいた。
その日はコンビニで買ってきた弁当で食事を済ませ、ビールを一缶だけ飲み早々に就寝した。前の日よく眠れなかったせいもあって、酒の回りも早くよく眠ることが出来た。睡眠時間が長かったからかいつもは見ない夢をみた。
それは俺が茜と旅行に出かける夢だった。俺たちはエメラルドグリーンの海に到着し、無邪気に水を掛け合い遊んでいた。そこへ突如として現れた大きな鯨が俺たちに話しかけてくる。ここは危ない。もうすぐ空から星が落ちてくるというのだ。茜はその鯨へ「どこへ逃げればいいの?」と聞く。鯨は「僕の背中に乗れ」と言い、俺たちは従って鯨によじ登った。鯨に乗って沖へ沖へと向かっていると、空に火球が横切り、沿岸近くへ墜落した。爆風は俺たちがいるところまで訪れ、鯨にしがみついてなんとかやり過ごす。
そして、難を免れた俺たちは、鯨の上で茜の作ってきたサンドイッチを食べて、めでたしめでたしという展開だ。
ただ、火球の墜落場所が陸に近しい所であったこともあり津波こそは起きなかったが、壊滅的な被害を受けているはずだった。爆風は建物を破壊し所々で火災が起きている。そこにいた人達を心配することもせず、俺はただその光景を眺めていて、自身が難を逃れたことに安堵していた。自分達さえ助かれば良いという構図の夢は、俺の本質にあるものなのかもしれない。
そんな夢を見たものだから寝覚めが悪かった。ベッドの時計を見ると6時5分のデジタル表示だった。まだ早かったが起きることにする。
朝食を取りに食堂へ行くと佐竹が既に食後のコーヒーを飲んでいる所だった。
「おはようございます。」
「あぁ、今日は11時だったな。」
「そうですね。準備は出来ましたか?」
「あぁ。」
嫌な夢を見たせいもあり、心の準備が万全かと問われているのであれば、そうではなかったが、ジャケットの内ポケットに忍ばせた拳銃が俺にそう答えさせた。
「じゃあ、少し早いですが朝食が終わったらさっそく向かいましょうか。」
「あぁ、そうだな。」
俺たちはそのあと、ホテルを後にして、駅まで行き、昨日と同じ系統のバスに乗り込んだ。京都という事だけあってバスの車窓からは大きな寺や神社が数々見えた。これだけ仏閣が多いと神頼みでもすべきなのかもしれないが、俺は賽銭を払って願い事をする事に否定的だった。昔は俺も信心深く、何度も近くの神社へは通ったものだったが、いくら願い事をしても叶った事がない。毎回毎回賽銭を投げて必死に祈ったが聞き入れてもらえないものだから、金額の問題なのかと思い大枚をはたいて一万円を投げ入れて次の日の競馬の高額配当を祈ったが、かすりもしなかった。そういった卑しい祈りは聞き届けられないものなのかもしれないが、それ以来俺は神頼みはしない主義だった。
昨日と比べると車の往来も少なく、程なくして昨日寄った神社についた。俺たちは
俺は煙草に火をつけようと思ったが、汚れているとはいえ神社で吸う事に気が引けてやめる事にした。
ヒーラーズデポジット 池田 蒼 @arsy_shijin
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ヒーラーズデポジットの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます