第4話
「なぜ、なぜこんなことを...」
理由は俺にもわからない。ただ、俺は元いた世界でもこう願っていたんだろう、ということが漠然と感じられるだけだ。
「本当の最後の質問をしてもいいか?」
黙ってうなずいた。
「俺がここで死ぬとき、次に来る空間にこの記憶を引き継ぐことはできるか?」
言葉より先に、首を横に振ってから
「私の、力では、どうすることも...」
と告げた。
「実はね、私はあなたがこことは別の白い空間で死んで、そしてここに帰ってくるのを一度見ているの、だからね、私はあなたを説得して、より幸せになれる新しい世界へ行こうと、説得しようと思ったの。私が担当するのはいつも、本当に不幸な人たちばかりだから、でもね、私は頭があまりよくないから...」
そうか、オネエサンは『不幸な人間』担当だったんだな。
どちらかといえば、俺よりもオネエサンのほうがよほど不幸な気がしてならない。
オネエサンが泣き出してしまう。ごめんな。オネエサンよりももっと意地の悪い『代理人』を探しつづけて、そして俺はそのたびに死に続けたほうがよかったのかもしれない。でも、俺の要求が通るチャンスが再び来るとは限らない。
「ごめんな、でも俺はそうしない」
長い嗚咽、沈黙の後、
オネエサンは心を決めたようで
「あなたの要求を呑むわ」
と、力ない声でそう告げた。
あの椅子はどうやら規定により召喚されたものだったらしい。今、その椅子があったところに俺が立っている。
何やらよくわからない魔法陣が起動し、周りがよくわからなくなっていく。
何もない白い空間に映る、青々とした星を見た。俺はどうしてか、自分が選んだ行き先のはずなのに、この星が憎くて仕方ないのだった。
『召喚』がされるとき、オネエサンは俺の短刀のナイフを置いて行って欲しいと言った。
俺は目的地で調達できるものだと思ったから、ナイフをオネエサンに渡して、この白い、狂った空間を脱出した。
俺はこの先で何がしたいのだろう。俺が死んだ理由を探したいのか。それとも俺は、誰かに殺されたのか...。とそう考えているうちに、だんだんと意識が遠のくのを感じる。
あのとき、オネエサンは最後に
「私は、やっぱり、あなたに笑っていてほしい」
と言ったのは気のせいだったろうか?
白い空間は、俺が意識を失うときにはもう、哭き声と、臙脂色で染まっていっていた。
臙脂色の彼方 落陽 @rakuyoh
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