第3話
これは要求というよりも脅迫だ。オネエサンに選択肢を用意することはない。
「何を言っているの、私はナイフでは殺せないし、反逆者を、権能を用いて殺してもいいということになって」
俺がこんなものを持っていることすら知らなかったらしく、オネエサンはひどく怯えた表情になった。どうやら本当に上位の存在とやら...それも誤魔化していたか、『規定』は、ひいてはこの役割を持つものは、俺...いや、人間一人ひとりを認識することはしていないらしい。
そしてもうひとつわかったことがある。
「なら既にやっておくべきだった、質問されたとき以外は嘘をついてもいいんだな」
オネエサンは驚いた顔をして、
「そんなことはないわ。特例で、自分に危機が及んだ時のみ、嘘をついてもよいことになっていて、」
「やはり嘘か。椅子が出てくるのは『規定』の一部か」
オネエサンはしまった、というような表情をしている。にしてもまたアバウトな基準を主張してくるな。危機が及ぶ、なんてどうとでも解釈のしようがあるだろうに。
そして、俺の要求にはまだ答えてくれていない。
「俺を元いた世界に帰してくれよ、できるんだろ?」
「だから、あなたは私を倒すことは...」
「だからさ、もう分かってほしいんだ。時間の無駄だってことを」
するとオネエサンが堰を切ったように、感情を露わにする。
「時間の無駄って、そんなことない。その要求はのむことができないと、そういってるの。あなたを説得して、私は」
「俺のさっきまでの質問の意味が分かってなかったようだな」
怪訝な顔をする。
「最後の質問に対する答えで、俺がオネエサンを殺せる可能性を否定してない」
オネエサンは、バツが悪そうな顔をする。
「それに、別に俺はオネエサンを殺す必要はないんだ」
「どういうこと?」
俺はオネエサンに、できれば死んでほしくないんだからさ。
「俺が自殺して、俺はここに似た空間に戻ってくるだろうな。そうしたらどうなる?」
「あなたのいう『代理人』がやってくるわね」
「じゃあ、俺がオネエサンを殺すことができたなら?」
「ありえないけど...この空間に『代理人』がくるわね」
そこまで言って、オネエサンは気づいたようだ。
俺が要求を吞まなかったオネエサンを殺せるなら、代わりに来た『代理人』に同じことを要求する。
俺が仮にオネエサンを殺せない場合、俺が死んで代わりに『代理人』に要求を呑んでもらう。それが通らなかったら同じことを繰り返す。
「オネエサンはさ、自分が罰を受けるのと、『代理人』が殺されたり、罰を受けるの、どっちがいい?」
オネエサンから生気が失われていくのが分かる。
「わかるか?誰かが俺の要求を受けざるを得ないんだよ」
しかし、オネエサンは抵抗を続けるつもりだ。
「『代理人』は私含めて100人もいない。仮に大人数が欠けたとしたら...この世界に異変が生じる、そうなったらあなたも」
まあそんなのはどうでもいいが。
「嘘だな。今元いた世界にどれだけ人間がいると思ってる、毎日何人の人間が死んでると思ってるんだ。それに知的生命体は必ずしも人間だけとは限らないし、人間でない元いた世界の生き物だってこの中継地点を通る可能性がある」
「...私の言っていることは本当よ、信じてほしい」
「違うんだよ。その言葉が嘘かどうかは関係ない。俺は賭けてるんだ、オネエサンに」
「他人のために自分を犠牲にできるのかどうかを」
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