第2話

「次の質問をします」


「私が元いた世界に戻ることはできますか、仮にそうした場合、あなたはどうなりますか」


 新しい世界、というのがあるということは、古い世界があったということだ。そして、俺はそこで生活していたと考えることができる。実際俺はこの空間に来て戸惑っているのだから、感覚的にちゃんと適合した世界に住んでいたと考えるのは妥当だろう。

 また、さっきから思っていたことだが、さっきの質問をした瞬間に、オネエサンはちょっと嫌そうな顔をしたんだ。このオネエサンには表情がある。人間でありすぎる。

仮に人でなかったとしても、むしろ人間でないことに違和感を覚えるという、そんな具合だ。

「元いた世界に戻ることはできないわ、仮にそうした場合、これもまた、厳しい罰を受けることになる」

...それといちおう確認しておくか。

「次で三つめか...何を聞こうかな?」

「...」

 反応がない。このオネエサン、俺のさっきまでの二つの質問で、合計四つの疑問に答えさせられたことに気づいていないのか。なんだ、このオネエサンは「1つの質問」は、「1つの文章」であるとでも思ってるのだろうか。あるいはオネエサンの意思に関係なく、そういった規定が存在するのだろうか。


「私は、元いた世界で死んでいますか」


 オネエサンが露骨に嫌そうな顔をする。ああ、やっぱりな。いきなり俺の住んでいた世界に表れて、こんなところへ連れていく理由は考えづらいし、俺という人間と一対一で話すという理由は他に考えてもそれほど多くない。それに俺はこの空間に、一種の天国じみたものを感じて、それを無意識に拒絶しているように思えている。

「......実をいうとそうなの。新しい世界に行くひとはみな元いた世界で死んでいる。...このことはあまり言うべきではないと思ったんだけど」

 ...おい、違うだろ?お前は意図してこの情報を隠したんだ。なんだ、少しは頭が回るのか? それともはじめから『元いた世界で死んだことはできるだけ言わないようにする』とでも、規定されているのだろうか。

そもそも『質問はあるだろうからある程度答えること』という規定もあるだろうな。

でなきゃこんな露骨に嫌そうな顔をしながら質問に答えることに説明がつかない。

...しかしわからない。このオネエサンの顔を見るに、本当に罪悪感があるらしいことが見て取れるのだ。

「次の質問をします」


「あなたより上位の存在は、私を認識していますか」


 オネエサンはここにきて見せたことのない表情をする。

「...この手続きはほとんど自動化されていて、...忙しいの、...あなたを認識することはないわ」

「そうですか」

 自動化?ということは、あの椅子の出現が、オネエサンによるものではなく、その意思に関係なく出現するものであるという可能性も考えられる。

 条件が揃いつつある。

「じゃあさ、最後の質問いいかな」

「ええ」


「俺がここで死んだら、俺はまたこの空間に来ることになる、そのとき出てくる人は、オネエサンとは限らない。逆にオネエサンが何らかの理由で死ぬ...殺されるとか...その場合、オネエサンの代わり、いわゆる『代理人』がここへ来る?」


「..........そうだけど、むろん私が君を殺すことはないわ。なぜ、そんなことを...まあ、これで質問は終わりね。手続きを再開しましょう」

 ああ、そうか。これで何もかも、ハッキリしてしまった。

 ごめんな。オネエサンは悪い奴じゃないんだ。むしろいいやつなんだってことは、

これまで質問してきてわかっているし、初めに会ったときからなんとなくそう感じている。できればこんなことはしたくない。素直で、そして頭が悪かったとしても、それで損をするようなことにはなってほしくないって俺は本気で思ってるんだ、これは別にオネエサンに言ってもどうしようもないことだけれども。

「さて...これは質問というより要求か」



俺は隠し持っていた携帯式の短刀ナイフをオネエサンに近づけた。

「多分俺はオネエサンを殺せるんだろ? だからさ」



「俺を元いた世界に帰してほしいんだ」













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