第2章 白銀の剣聖編

第1話 戴冠式

 澄んだように青天が広がる雲一つない晴れた日。

 

 この日ついに、新たな国としてヴァーミリオン連合王国が建国されることとなっていた。


 国民へ発表するまでは、受け入れられるのか不安も感じていた。だがエリィの父である元国王が亡くなり活気を失いつつあったため、皆が喜びに湧き想像以上に街自体も盛り上がっていたのだ。


「僕の選択は間違ってなかったってことかな……」


 城下街のとある宿屋の一室。

 その部屋の窓から立ち昇る朝日を黄昏れるように眺め、かっこよさを演出する僕こそかの有名な――【魔帝】アルト様だ!


 ……ダメだ、やっぱり恥ずかしいから今のなしで!

 エリィを守るために公表したとは言え、自ら【魔帝】と名乗るのはむず痒い。厨二すぎて悶絶しそうになる。


「あれ? アルトもう起きてたの? ……ふぁぁ」


「おはよう、エリィ」


 寝起きのエリィは眠たそうにしながらゆっくりと身体を起こし、ベッドの上に座った。


 少しぶかぶかのカッターシャツにスラリと綺麗な脚が見えており、チラリとパンツが見えそうになるところが少しばかりのエロさを演出している。


『アルトの服を着て寝たいの!』なんて言うから僕の服を貸してあげたが、健全な男子が見てしまえば卒倒してしまう程の破壊的な可愛さである。


「んっ!」


 そう言いながら、エリィは物欲しそうな目で両手を前に突き出し構える。

 これはエリィからの『ぎゅーして!』という合図だった。


「はいはい、ぎゅーだね」


「うん、ぎゅーーっ! えへへへ。アルト温かい」


 ……いやいや、エリィの方が温かいって!

 しかも女の子特有の柔らかさというか、色々感じれちゃって……。あ……ヤバい……。


「アルト大丈夫? 顔真っ赤だし、それに……何か……」


「あ、あー。えっと、ほら! 午後から戴冠式だし、街の様子を確認して買い物も済ませたんだから早くお城に帰らないと……」


 懸命に取り付くって誤魔化してみる。こうなってしまうのは仕方ない。世の紳士淑女諸君……エリィの可愛さはまじでヤバいのだ。


「やだなぁ。昨日楽しかったのに……アルトと初めてのデート」


 僕たちは今日の戴冠式までに街の様子を確認しておきたかったのと、少しばかり必要な物があったのでついでに買い物をしていたのだ。


 僕はもっときちんとした形で初デートを考えていたのだが、エリィは昨日のことをデートと呼びたがっていた。


 これからしばらくは、ゆっくりとした時間が取れないと分かっているからそう思いたいのかもしれない。


「ほら、戴冠式が早めに終われば夜の交流会パーティーまで時間少しできるし、一緒にゆっくり過ごせるよ?」


「うん……。そうだよね、早く済ませてアルトと2人で過ごす時間作りたいから頑張るっ!」



 僕とエリィは身支度を済ませて、王城へと急ぎ戻るのであった。



 ***



 戴冠式は正午より開かれる予定となっている。

 流れ的には新国王として、エリィ――いや、エリシア・ヴァーミリオンが王女となることの宣誓。

 そして、魔物たちの王国ゲートスターの設立並びに国王の宣誓をハイオークのピグが行う。

 後は軽く僕が【魔帝】として皆に挨拶をするという感じだ。


「オデもアルトから話をもらっだ時は驚いだ。けど、アルトはオデの家族の仇を取ってくれだ。だから次はオデがアルトの言う通りにする。オデもアルトやエリシア様のような人間となら仲良くなれると思うから」


 ピグはそう言いながら快く、僕の提案を受け入れてくれた。

 彼もまたサリエラ法皇という1人の身勝手な人間の策略により、大切な家族を奪われた。だからこそエリィと通ずるところもあり、互いに良き国家を作り上げようと意識を高め合っていたのだった。



 ――戴冠式が始まる15分前。


 エリィは真っ白で花の飾りが添えられた美しいドレスを着て姿を現した。


 あぁ、まじで天使だよこれ!

 可愛いすぎる!!


「どうかな? 結構イケてると思うんだけど?」


「可愛い! 超似合ってるし綺麗だよ、エリィ。本当に綺麗だ……」


「ちょっ……何回も言われると、はず、恥ずかしいよ」


 真っ赤に照れるエリィ。

 恥ずかしそうにしてる姿に一段とそそられてしまう。


「あのね……ウェディングドレスみたいって思われるかもだけど、今日は白のドレスにしたかったの」


「どうして?」


「これまでの国がこのドレスとしたら、これからの私たちの国は何色になると思う?」


「え……白だから白のままってこと?!」


「そうじゃなくて。白だからこそ何色にでも色が塗れるでしょ? 私たちみんなで色を塗って、国民全員で新しい国を作り上げるの。今日はそんなお話をするつもりだよ」


 なるほどな……。

 やっぱりエリィは女王に向いてるなぁ。


 彼女の話を聞き感心した僕は、エリィに任せて良かったと心から思った。


「オデもエリシア様の考えに共感した。だからオデたちも同じように頑張るよ」


「えぇ。一緒に頑張りましょ、ピグ」



 さて準備は全て万全に整った。


 戴冠式5分前。

 いよいよ始まる……と僕たちの場に緊張感が高まり、会場では国民たちからの期待で熱気が漂う中、1人騒がしくする者が現れた。


「おい何だよこの人混みは? って魔物が何でこんなところに?! いや、今はそれどころじゃねぇ! 頼む通してくれ。今すぐアニキに会わなきゃいけねぇんだ! 悪いけど、通してくれぇぇぇぇぇ!!」


 何か聞いたことあるアニキって呼ぶ声……。

 えっと……誰だっけ?


「ねぇ、アルト。あれってあの時の!」


 あの時の?

 あの時の……あぁ!!

 エクスカリバーでオレツェェェェェってしてたジン・イチノセくんかぁ。


 いやぁ、すっかり彼のこと忘れて……いや、忘れていたわけではないよ?!


 会場の警備にあたらせていた衛兵たちに、彼を連れてくるよう頼み呼び出す。


 戴冠式が始まる時間も差し迫っているため、仕方なくエリィとピグには先に始めるように伝えておいた。


 2人の登場で会場が大盛り上がりを見せる中、僕はジンと2人で対面した。

 ……何か見た目がムキムキの筋肉質になったような?


「ハァ、ハァハァ……。アニキ、大変なんっすよ! 突然で悪いんっすけど、まずは話させてください!!」


 鬼気迫る表情から不穏な空気を悟り、僕の気持ちも少しだけ引き締まった。


「な、何かな?」


「『白銀の剣聖』――やつが現れました。そしてこのままだとこの国はやつらに潰されちゃいます。やつらはアニキの目論見通り、この国も国民も……魔法と名の付くもの全てを殲滅するつもりです!」


 このタイミングでの最悪の敵の出現。

 僕は頭の中では整理しきれず、ジンの話す言葉がスッと入って来なかった。



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【第2章 第2話 ホーリーライト王国へ続く】

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モブな僕が女神様の勘違いで手に入れた『物理最強』が全能でチートすぎるんです! 月夜美かぐや @kaguya00tukuyomi

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