第23話 これからのこと

 2人だけの世界に浸っていると、さすがに放置されすぎていたサリエラ法皇は痺れを切らしていた。


「クソッ! 朕の前でイチャイチャと見せつけよって! まだ勝負はついとらんぞぉぉぉぉぉ!! 皆のもの武器を構えてこやつらを葬り去るのじゃぁぁぁ!!!」


 勢い付く法皇と対峙するため身構えようとするも、配下の精鋭部隊員たちは一斉に武器を捨て去り跪き始めた。


「法皇様。このお方がかの【魔帝】様であることはもはや明らかかと思われます。あれほどの起源魔法オリジンを使いこなす尋常ならざる力の持ち主。これはもう認めるしかありません」


「な、なんじゃと? 貴様、朕の命令が聞けぬと言うのか?!」


「申し訳……ございません。私は、いえ我々はサリエラ法皇に仕えたいのではなく【魔帝】様にこの身を捧げたいのです。信仰神に歯向かうことなどできません」


「ぐッ……ちくしょうちくしょう……。朕の夢が。あと少しで朕が成果をあげて【魔帝】様に認められ、新時代の長となる盛大な夢がぁぁぁぁ……。よもやこの小童がその【魔帝】だとは……」


 さしものサリエラ法皇も配下が戦闘放棄とあってはどうすることもできない。


 音もなく崩れると一言『朕の……負けじゃ』と呟いた。

 僕は立ち上がり一呼吸を置きながら、ハッキリと言葉を告げた。


「王国のルールの元、裁きは受けてもらうぞサリエラ法皇。これは僕の――【魔帝】としての命令だ」


 一瞬反論してくるように見えたが、大人しく俯いたまま『御心のままに……』と答えた。


 こうしてヴァーミリオン王国の王妃行方不明から始まっていた、長きに渡る法皇の目論見は完遂されることなく、水の泡になったのであった。



 ***



 ――それから数日後。

 この数日の内には、国王陛下と命の灯火を消すこととなった衛兵たちの黄泉送りの儀が執り行われた。


 王城も綺麗に掃除され、元通りの景観がそこにはあった。

 ただいつもにこやか話しかけてくれていた、国王様の姿が玉座にない。ついこの前まで元気にされていた姿を思い返すとぽっかりと穴が空いたように感じてしまう。


「私はこれからどうしたらいいのかな……」


 エリィも同じことを考えていたのだろうか?

 空席の玉座を見つめる僕の隣で、寂しそうにそう呟いた。


 実の所、僕の中にはより良くするための案がある。

 ただかなり奇抜すぎるため受け入れてもらえるかどうか……。


「アルトのその顔、何か考えてるでしょ?」


 はは、やっぱりエリィには負けるな……。

 意を決して話すことにした。


「僕の案には三つのポイントがあるんだ」


「三つも?! ねぇねぇ聞かせて!」


「うん、まず一つ目。『ヴァーミリオン王国』『サリエラ法国』『ガルディア帝国』……この三大魔法大国を一つに統合する」


「えぇぇぇ!!」


「名前は『ヴァーミリオン連合王国』。これで魔法大国同士の無駄な争いはなくなるからな。あ……ちなみに国王ってか、女王はエリィだよ」


「ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ?! な、なんで私なの?! アルトの方が国王に向いてると思うのに」


 エリィはこれまでの中で1番驚いた表情を見せていた。

 巨大国家の最重要人物ともなれば、他勢力も易々と手出しは出来なくなる。この考えはエリィの安全を最も考慮した結果でもあった。


 それに、僕は闇堕ちしかけた際にサリエラ法国を地図から消すなどと酷いことを言い、街を壊滅させてしまった人間なので、国民たちを導くには相応しくないだろう。あれほどの大規模攻撃の中怪我人だけで済んだのはまさしく奇跡だったけども……。


「そして二つ目。ヴァーミリオン連合王国とは別の新しい国を創る。繋がりのできた魔物族七将軍の一人、ハイオークのピグを国王に据えた魔物たちの国をね」


「魔物族の国?! そんなの聞いたことないよ」


「だからこそ創るんだよ」


 魔物族にも色々な性格のものがいる。

 でもピグのような心優しい魔物族は守っていかなければいけないし、きっと仲良くやっていけるはずだと信じていた。


「最後に三つ目。僕が【魔帝】として周知させて、二国を庇護下にする。【魔帝】の名前にはそれだけの価値があるからね」


「アルト……本当にそれでいいの? あれだけ【魔帝】様であることを隠したがってきたのに?」


 どうやらエリィにも未だに本物の【魔帝】であると思われているらしい。


「エリィには嘘をつきたくないから、ハッキリと言っておくけど……。僕は本当に【魔帝】じゃないんだ。失望……したかな?」


 僕の言葉にエリィは首を横に振る。


「本当に【魔帝】様じゃなくても、私にとっての【魔帝】様はアルトだけだもん。御伽噺のような圧倒的な存在感で全てをねじ伏せるより、優しくみんなに寄り添える【魔帝】様の方が私はいいなぁ」


 僕の左手を握りしめ、にっこりと笑いかけてくる。


 それはエリィからのメッセージのように思えた。

 ――【魔帝】として自分の決めた道を選んでいいよ。私が側にいるから。


 都合の良い解釈かもしれないが、そう考えるとものすごく気持ちが楽になった。


「ねぇねぇ、アルト。私たち大事なこと忘れてるよ?」


「大事なこと?」


 何かあったかな……?

 考えてみるも思い当たるものがない。


「むぅー。私たちの結婚式だよ! 結婚するん……だよね?」


「あ、あぁー……結婚式。結婚式ね! ちゃんと考えてるよ」


 や、やべぇ。

 色々あったからすっかり忘れちゃってたぞ。

 絶対今の慌てた返事は、怪しまれたな。


 僕の思った通りエリィは少し怪しむような表情でこちらを向いていた。


「本当かなぁ。まぁ覚えててくれてるならいいんだけど。……忙しいからしばらくは挙式できないよね」


 確かに諸々落ち着くまでは、結婚式は難しいだろうな。

 それまでは婚約しているとは言え、彼氏彼女の関係をしばらく続けることになるだろう。


 仕方がないとは言え、どことなく落ち込んだ様子のエリィを見て僕は少し先に考えていたことを実行することにした。


「あのさエリィ、これを渡しておこうと思うんだ」


「それは……指輪?」


 ポケットから取り出したのは、宝石輝く一つの指輪。

 先に婚約は済ませてしまったけど、いずれ渡そうとこっそり準備していたエンゲージリングだった。


「僕は元異世界人って話したでしょ? あっちの世界では婚約の時に指輪を贈る風習があるんだ。……だからこれは結婚の契りってことで、エリィに受け取って欲しい」


 エリィの瞳からはポロポロと雫が流れ落ちる。

 やっぱり少し不安を感じていたんだな。


「すっごく綺麗……。こんな嬉しい贈り物は人生で初めてだよ。アルトありがとうっ! 大好き! だいだいだーいっすきだよ!」


「僕もエリィのこと愛してるよ」


 左手をそっと添えて、左薬指に指輪をはめ込む。

 指輪自身が幸せを祝福するかのように、輝いたように見えた。


 少し恥ずかしくなり照れながら見つめ合い――。

 ――そして口付けを交わした。


 これから先、何があってもエリィを守り続ける。

 彼女の幸せは僕が作ってみせる!





 これはラノベの主人公に憧れるただのモブな僕が、女神様の勘違いでまさかのチート能力を手にするお話。


 僕たちの物語はまだまだ続く!




【第1章 魔帝アルト編 完】



 ———————————————————————




 ――場所は変わって反魔法国……ホーリーライト王国。

 その門から一人の男が慌てて馬車に乗り込んでいた。


「これだけお金を出すから急いでヴァーミリオン王国へと向かってくれ!」


「もしや貴方はき、騎士様?! わしらの敵地であるヴァーミリオン王国なんかに用でも?」


「いいから早く。出来るだけ内密にかつ素早く行きたいんだ!」


「は、はい! 分かりました。聖剣協会最高剣士序列第6位ジン・イチノセ殿!」


 まだ日の出前の暗がりで、馬車は猛スピードで草原広がる道を駆けていく。


「早く……アルトのアニキに伝えねぇと。やつが……女神の仕向けた最強の刺客――『白銀の剣聖』はもうこっちの世界に来ていると! このままじゃ魔法国の人々が完全に消されちまう!!」


青ざめた表情をしながら額に汗を流し、アルトから命を受けた密偵活動の緊急報告のために急ぐのであった。



【第2章 白銀の剣聖編に続く】









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