第3話 沖田は大変な問題児です
「またバイトをクビになっただと!?」
目の前で口の周りに米を付けながら、唐揚げ定食をバクバクと食う沖田は、気の抜けた返事をした。
「だからそう言ってんじゃん。傷心中だから帰りになんか食べさせろよ。アタシあれが食いたいんだよぉ、節分の豆入れに入ってる抹茶のティラミス!」
「この前同じ理由でケーキ奢らされたばっかり何だが」
しかも既に唐揚げ定食まで奢らされているのに、全く図々しい。足を組んで偉そうに、箸の先端を向けてくる。
「前は前! 今日は今日! 今日の沖田に美味いものを献上するんだよ。土方の人生に置いてア・タ・シが法律なんだからね!」
この横暴っぷり、名だたる暴君に匹敵する物がある。人の金を自分の物のように使い、その金で腹を満たす。心の傷を負ったふりをして、俺にたかってくる事など毎日のこと。
他人様に同じことをしてなければいいが、この性格だから怪しい。
だって、バイトをクビになるのはしょっちゅうだ。自分が法律だと言うだけあって、ちょっとでも気に入らない同僚がいると喧嘩になってすぐに辞めてしまう。正しくは辞めさせられるといった方が正しい。自分の思い通りにいかないとキレて手がつけられなくなる。
その度に俺が謝りに行ったりする。今回も1週間も勤めていない制服を返しに行かなきゃいけないらしいから、着いて行かなくては、また喧嘩が起きて迷惑をかけるだろう。
一般的な成人女性なら付き添いなど必要ない。それもこれも、原因は沖田は飛び抜けて自信過剰な所がある。
アタシは沖田総司の生まれ変わりだからもっと崇拝されるべきだ! とか寝言のような事を言うが、仮に生まれ変わりなら、彼は陽気で愛想の良い好青年だったらしいから、そんなことを言いふらされているご本人様はあの世でぐったり寝込んでいるに違いない。
気の毒過ぎる。心中お察しします。
当たり前だが、俺たちは新撰組隊員とたまたま同じ苗字だっただけの一般庶民。生まれ変わりは愚か、その御一族の方々とも一切関わりがない。
沖田の過剰は勘違いをして苗字に自惚れた傲慢なのだ。
痛い話だ。黒歴史を量産している。
今回で子供っぽい思考は捨ててもらい、次からはきちんと成人女性らしく社会で働いて欲しい。
心を鬼してガツンと言ってやらねば。
「お前そんなんでこれからどうするんだ? 毎回喧嘩ばかりして、食っていけないぞ」
「別に? 食える時に食うからいいもん。食えなくなったら諦めるけど。はい、ごちそーさま」
こんな奴でもパチンと両手を合わせて、ご馳走さまと言えるくらいの礼儀はある。米粒一つ残らずペロリと平らげて綺麗に食べ終えた皿を見るのは気持ちが良いな・・・・・・ってそうじゃない。
此奴、一生働かないつもりか? やはり俺の扶養に入る気マンマンと言う事だ。
お説教なら聞かないと、市民の声に耳を貸さない王様のように堂々と立ち上がり、ブーツのヒールをカツカツ鳴らしながら歩き出した。
食器も片付け無いんだから、俺がやるんだと思っている。
逃がすまいとトレーを持ったらすかさず席を立ち、彼女を追いかけた。
「俺がずっと傍に居ると思うなよ。俺には俺の人生がある。俺が結婚したらどうするんだ?」
「へぇ、土方結婚するんだ。誰と?」
「お前以外とだよ」
沖田はピタリと足を止めた。眉一つ動かさずに俺の顔を凝視するだけで、何も言わない。
時間にして1分程度だと思うが、とても長く感じた。
こんなに沖田の顔を見たのは久々な気がする。鼻が高くて目が大きい。黙っていれば、美人なの、か?
そう思った次の瞬間、沖田は眉を歪ませた。
「アンタの面倒になんかならないよ。何自惚れてんの?」
トレーを強引に取られて、怠そうに食器を下げた沖田は、そのまま校外へと消えて行った。
怒っているような気がしたが、機嫌が悪くなるのは毎日のようなもんなので、また始まった。くらいにしか思えない。
毎日毎日、面倒で嫌な女だ。皆が憧れるような幼馴染ではない。
可愛げのない、社会不適合者。いっそ寮付きの住み込み労働でもして、社会の厳しさを知ればいいんだ。
俺は沖田とは絶対に結婚しない。
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