第2話 沖田中心の就職活動
沖田の所為で進路だってめちゃくちゃだ。いや、めちゃくちゃは言い過ぎか。とにかく振り回されていることに間違いはない。
俺にだって夢は……特にないけど、就職活動は他の学生らとの覚悟が違う。恐らく彼奴が居なければこんなに進路で悩むこともなかったろうし、就職氷河期とまではいかなくとも、就職率が良くない世の中を見れば、内定をもらえるだけで有り難い事なのだ。
「はぁあ、内定もらえないなぁ。副長はどう? 変わらず無双中?」
同級生の永倉は夕陽の差し込む校内のテラス席でウナギのように項垂れた。就職活動を始めてから今の今まで、内定を一つももらったことがない。
マイペースでおっとりした性格の彼は、口では内定をもらえないことを嘆いているが、驚くことに内心は全く落ち込んでいない。仮に内定が決まらなかったらバイトしまくって旅に出ようなんて呑気なことを語っているくらいだ。
「まあな。悪いがお前とは真逆だ」
幸いなことに俺は、選べるほどの内定を手にしている。百発百中、絶賛無双中。
けれど内定が決まっているだけで、就職が決まったわけじゃない。
俺が望むのは、福利厚生が整っていて、なおかつ家族手当の出る企業を選ばなければならない。最近だと、一風変わった福利厚生を出している企業もあるようだから、例えば、家族が熱を出したときに休めたりする権利なんてあるといいかもしれない。
彼奴は一年に一度、決まって高熱を出すからだ。有給は別な何かのために取っておきたい。
確実に手厚い福利厚生があり、年収ももう1人くらい養える金額が受け取れる企業に行かねばならないのだ。と、永倉に熱弁する。
しかし。永倉はポカンとしているじゃないか。口を開けっ放しにしてるかと思えば、次は眉間に皺を寄せて。もしかして夕陽が眩しいのか?
「あのさ……家族手当って……家族じゃないともらえないけど……副長、大学出たら結婚でもするの?」
「いや? しないが?」
永倉のやつは何をいうんだ。俺に彼女がいないことも、好きな女がいないことも知っているのに。さては珍しく、内定がもらえない鬱憤を晴らすための嫌がらせか?
恋人持ちは時々こういうところがあるな。張り合うフィールドが違うのに、自分の得意分野を持って来て戦おうとする。
ここは落ち着いて進路について語らいたいので、コーヒーを一杯奢ってやることにした。
自販機で缶コーヒーを2本買い、1本を永倉に差し出すと彼は「サンキュ」と軽く手を合わせる。
「じゃあなんで気にするのさ。そら将来的には必要だけどさ、今すぐはいらなくない?」
「いいや、困る。俺は沖田を養わなきゃいけないんだぞ? ただでさえ一年目で給料も最低限しか貰えない状況で養えるとは思わんからな」
「そっか……いやいや。はい?」
永倉は一度納得したのにも関わらず、再び険しい顔をする。自分の中で考えを整理しているのか、空中に色々書いたりした後に、「えっと」と遠慮がちに話し始める。
「やっぱり沖田ちゃんと結婚するの?」
「だ、か、ら! しないって言ってるだろう! 彼奴とは絶対にしない! 何があっても絶対にな! 結婚しないと地球が滅びると言われてもしない! 絶対にしない!」
コイツは何にもわかっていない。俺は沖田を任されているのであって、決して生涯を共にするつもりはない。あくまで扶養。配偶者としてではない扶養。
実生活はプライバシーもクソもない程近くにいるんだから、家族と言っても過言ではない。だから家族手当だってもらえるに違いない。何も結婚するだけが家族になるということでもないだろうに。
「俺は沖田と絶対に結婚しない!」
「でも扶養には?」
「入れてやらんと沖田は死んでしまうだろう?」
何を当たり前のことを。彼奴は1人で生きていく力がない社会不適合者。俺が面倒を見ないで誰が見てやるっていうんだ。これは慈善活動に近い。いわば人助けの一環だ。
永倉が「副長って学はあるけど賢くはないんだよなぁ……」なんて言ったことは、俺の耳に届かないでいた。
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