第12話 幸せ
明日はいよいよ有希の卒業式。俺はそれまでにやることがあった。マネージャーには以前から話をしてあるが、事務所の方に言っておかないと後々面倒なことになる。
「マネージャー、俺、明後日籍入れます」
「ああ、以前から言ってた。驚きました本当だったんですね」
「写真も見せたでしょ?見せたくなかったけど」
「可愛い人ですよね、相模さんには合わ……いやいや、お似合いデス。総務いきましょう。そこで扶養についての書類持っていって下さいね。税金関係や保険で必要なんで。書類の提出やなんかはこちらでやりますから」
テキパキとやるべきことを教えてくれる。
「わかりました」
「あ、相模さん、」
「はい?」
「おめでとうございます。そのうち飲みにいきましょう、お祝いしますよ」
「ありがとう」
向坂さんとも長い付き合いだけど、この人がマネージャーでよかった。
仕事関係はこれで良し。最初の契約時に結婚についても盛り込んどいてよかった。
俺があまり外に出るタイプの歌手じゃないことも良かったかな。
「これでファンが少し減っても、すぐに戻るでしょうし。ただ、相模みなとに一途な男というイメージはどうかとも思うんですがね」
ただでさえ甘い恋愛ソングが多いのに、これ以上甘くなってどうするとマネージャーの向坂は思う。
だがマネージャーとしても、高校生の時から彼を見ている大人としても幸せそうな姿を見るのは嬉しいことだった。
役所に行って婚姻届をもらい有希の実家へ。
証人欄に叔母さんのサインをもらい、そのまま俺の実家へも。
母のサインが入り、これで後は俺たち二人の記入だけ。今のうちに書いてしまおう。
欄を埋めるごとに実感がじわじわと湧いてくる。
これを役所に提出すると夫婦なんだ。不思議な感覚だな。
次の日は夜まで仕事が入っているので、有希の卒業式は見れない。叔父さんには写真を頼んであるが少し残念だ。
仕事は雑誌のインタビューが2本。写真撮影もあるので何度か着替えることもあり時間がかかる。それでも、こういう時間も嫌いじゃないし、記者さんも何度も会ってる人ばかりなのでそれなりに慣れてきている。
「相模さん、なんだかご機嫌?表情が柔らかくていい感じです」
カメラマンの声に笑顔で答える。話すと化粧が取れるからあまり声を出すなと言われている。
「いい画が撮れましたよ。また女性ファン増えちゃいますね」
機材を片付けながらいうカメラマンに、
「嬉しいですね、曲の方も頑張らないと」
「新曲聴かせてもらいましたけど、すごくいいじゃないですか。売れますよ」
色々なアーティストを見てるカメラマンの言葉に嬉しくなる。
「ありがとうございます。また撮ってくださいね」
礼をいい、握手をして別れる。インタビューの方もなかなかいい雰囲気で進んでいたので、記事を見るのが楽しみだ。
そして、夜。
夕食はそれぞれ別だったので後で珈琲でも淹れることにして、
その前に、
「有希、卒業おめでとう。それじゃあ、これ書こうか?」
「もう、せっかちすぎ。ふふ、ちゃんと書きますよー」
後は有希が記入するだけの婚姻届がそこにあった。
サラサラと綺麗な字で躊躇なく記入していく有希に嬉しくなる。
だって、すごく幸せそうな表情で欄を埋めているから。
もしかして、俺もこんな顔をしていたのかな。だったら良いのだけれど。
「これからもよろしくお願いします。愛しの奥さん」
「はい、こちらこそです。旦那様」
くすくすといたずらっ子のように俺に抱きついてくる有希。
ああ、ハグするのは初めてだ。俺は出来るだけ優しく抱き返した。
そしてそのままファーストキス。
真っ赤になった有希は、とてもとても可愛かった。
「一緒に幸せになろうね」
可愛い婚約者はずっと俺のもの 完
可愛い婚約者はずっと俺のもの Totto/相模かずさ @nemunyo
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