第11話 有希の実家
二人で有希の実家を訪れたのは、それから二日後の日曜日。
突然の訪問に叔母さんが驚く。当たり前だろう。いつもなら有希一人でここにくる時も事前に連絡を入れておくのだから。
「お母さん、真由いる?」
少々興奮気味の有希に苦笑する。
その様子では真由ちゃんに会わせてもらえないんじゃないか?
「いるわよ。あらあらコウちゃんまで、どうしたの?夕飯食べていく?」
いつもの笑顔の叔母さん。何もかも包み込むような笑顔は有希の尖った心をしっかりと癒してくれたようだ。
「夕飯はいただくわ。それより真由に話があって」
やっと玄関の中に招かれる。すごいな、有希のことをよくみている。
冷静に話が出来るようになるまで会わせないというのはなかなかいい手だけど、見極めることができるからの技だな。
「姉さん、もう母さんには話してある。私がしたこと」
俺たちが靴を脱いでいると真由ちゃんが奥からやってきた。その表情ははっきりと暗い。普段の元気なスポーツ少女という雰囲気とは大違いだ。
「あら、真由。もういいの?お話できる?」
「ありがとう母さん。リビングで話そう。みなと様もわざわざごめんなさい」
叔母さんに促され、4人でリビングへ。入れてくれた紅茶を飲む。ファーストフラッシュのダージリン。芳醇な香りがしてとても美味しい。
有希が真由ちゃんにどうして先輩に余計なことを言ったのか聞いている。
「羨ましくて、みなと様のことは私もファンなのに、姉妹なのにどうして姉さんだけって」
思い詰めたように自分の服をぎゅっと握りながら、振り絞るように真由ちゃんは言う。でも、ファンと有希は一緒にできない。
それに、この子は俺のことを恋愛的に好きなわけじゃない気がする。
「それであの人にあんなことを言ったのね」
そういえば、と疑問が湧いた。
「どうして、真由ちゃんはその人の連絡先を知ってたの?」
有希からは連絡をしたことがないし連絡先すら知らないと言っていた。なのに何故?
「あの人に振られた子が友達にいて、姉さんと付き合ってるからって言われたって、でもそんな事実ないからおかしいなって思って調べたら武藤さんの片想いみたいだし、焚き付けたら姉さんもそっちにいって、みなと様フリーになるって思ったの」
女子高生怖いな。先を考えずに行動して周りを巻き込む。
これは、今のうちになんとかしないとダメな感じだ。
今回のことがあってよかったのかもしれないな、真由ちゃんにとって。
「ないな」
「ないわ」
有希と顔を見合わせて、深いため息をつく。
「まず最初に言っておくと、私はあの人をストーカーだと思っていました。呼んでないのにいるし、来るし。付き合ってる噂の時は火消しに大変だったし」
不安気に俺を見る有希。
そんなことがあったなら言って欲しかったけど、全てに口を出すなんてできないからね。こうして大事な時に頼ってくれれば充分。
「有希が誰とも付き合ったことないのは知ってるよ。叔父さんに聞いていたしね」
膝の上でキュッと握られている有希の手にそっと自分の手を重ねると、有希は可愛い笑顔を見せてくれる。
「私、そのあと自分が何てことしちゃったんだろうって、母さんに相談して」
しゅんとなる真由ちゃんに叔母さんがきっぱりと言う。
「ちゃんと謝れるなら会いなさいって言ったのよ。謝れなくて逆恨みするくらいならこのまま縁を切ったほうがいいわ」
そこまで考えていた叔母さんを改めて尊敬する。周りの大人たちがいい人ばかりで俺たちは本当に恵まれている。
「俺はね、どうしても有希が好きだから、真由ちゃんとはお付き合いもできない。でも、いい義兄にはなれると思うんだ。真由ちゃんは君をみてくれる人を探したほうがいいよ」
「はい、そうします。それにやっぱり私みなと様をコウちゃんって呼ぶ姉さんってすごいと思っちゃうから、ダメなんでしょうね」
手を握り合ってる俺たちをスルーして、それから色々な話をした。
夕飯のメニューは、青梗菜とカニのメレンゲスープ仕立て、青椒肉絲、水餃子、搾菜炒め、デザートは杏仁豆腐だった。
有希の料理上手は叔母さん譲りだな。どれもすごく美味しかった。
なんとか話も解決して、疑問も解けてこれで有希の憂いも晴れるだろう。
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