第31話 最後の卒業式(後編)
退場した私達は、ステージ袖へ急いで入った。
そこには、二年生が太鼓の衣装に着替えている最中であった。
「いやぁ~ん。エッチ~!」
靖朗と淳、明日香がふざけて言った。
「んなこと言ってる場合か! オレの衣装どこや!?」
私はふざけている三人にツッコんだ。
「夏希さーん! 三年生の衣装まとめてここに置いてますよー」
「ありがとう、きらり!」
「なっつ、急いで! あのスライドショー、十分しかないから!」
千秋が急いで着替えを始めながら言った。
「はいはい。分かってるってー」
私も着替えを始めた。
「タイツめんどい!」
ふーがイライラしながらタイツを脱いでいた。
「しょうがないよー。式の時はタイツ履かなきゃいけないんだから」
千秋がふーの文句に答える。
「三年生、早く! スライドショー終わっちゃいますよ!」
二年生達が焦らせてくる。
「分かってるって! 足袋履けば終わりだ! 二年生は整列して待ってて! てか、十分で着替えとか無理だし! 毎年なんて無茶振り!」
三年生も文句を言いながらも準備を終えることが出来た。
そして、スライドショーが終わる前に無事に整列をすることが出来た。
姫乃森中学校は卒業式の後、第二部として太鼓演奏をする。
これも伝統の一つだ。
スライドショーが終わると、アナウンスが流れる。
「それでは、卒業生と在校生による太鼓演奏です」
アナウンスを合図に、私達は太鼓が並ぶ所まで入場した。
そして、私は部長として挨拶をした。
「式の最後は、私達の太鼓演奏で締めくくりたいと思います。また、閉校式、歓送迎会で演奏する機会はありますが、私達卒業生の三年間の思いを込めて、一生懸命演奏します。祭ばやし、天龍(てんりゅう)太鼓の二曲を演奏します。どうぞお聞き下さい」
七人それぞれの音を一つに二曲叩き切った。
悲しさ、寂しさはない。
楽しく、たくましい演奏であった。
演奏後にもらった拍手はとても嬉しくて身に染みて感じた。
こうして、式の全てが終了した。
再び、制服に着替えて、教室に戻った。
「あー、暑いー。汗かいたー!」
私達はスカートを仰ぎながら川村先生が来るのを待っていた。
「てか、汗かく卒業式って姫乃森だけだろうねー」
「だろうね……」
すると、メディアの人達が取材のため、教室に入ってきた。
私達は慌ててスカートを仰ぐのを止めた。
「おっ……お疲れさまでーす」
私達は苦笑いしながら挨拶をした。
「お疲れのところ申し訳ないけど取材良い?」
「はい、どーぞ」
「卒業式終わったけど、今の心境は?」
「暑いです!」
三人声を合わせて答えた。
「だよねー……。太鼓叩いた後だもんねー」
記者たちは私達の汗だくな姿を見て察したのか苦笑いしていた。
「三人はどこの高校に行くの?」
「あたしは県外の高専です!」
「すごいね! 名門校だね。お二人さんは?」
その瞬間、私と千秋は無表情になって黙り込んだ。
「あれ……?」
「あぁ……。二人とも、明日が第一志望校の合格発表の日なんです。そっとしておいてあげてください」
私と千秋の反応を見て察したふーは、記者たちに話してくれた。
「絶対に落ちてる……」
「明日なんて来なきゃ良い……」
私と千秋はネガティブモードに入ってしまった。
「ごめんね、お二人さん……。ごめんなさい」
こちらこそごめんなさい記者の方々……。
でも、明日の合格発表は、喉から心臓が出るほどドキドキしているのだ。
記者の取材に答えていると川村先生が教室に入ってきた。
記者達は私達にお礼を言って退室して行った。
「んじゃー、最後のホームルームを始めまーす。とりあえず、おつかれー」
最後の最後まで軽い先生だ。
「記念品配るねー」
私達は、川村先生から記念品を受け取った。
市からはファイル、PTAからはノート、学校からはハンコだった。
ハンコは包んである袋を見ると『工藤』と印があったが、どんなものなのか気になり、中身を取り出した。
赤いケースに入っているハンコだ。
すると、ハンコには『加藤』と書いてあった。
「ねぇ、ふー。ハンコ、包から出してみ?」
「ん? 待ってねー……。あれ? 『小原』だ」
やっぱり……。
てか、私のハンコはどこだ?
ふーが千秋に話し掛けた。
「ねー、千秋。ハンコ確認したほうが良いよ。なんかバラバラに配られているみたいよ?」
「えー! ……あっ、『工藤』だ」
「えっ!? なんで!? ちゃんと配ったはずなのにー」
「せんせ~い。ちゃんとしてよー」
「オレのせいじゃないって! 頼んだ店が間違えたんだって!」
私達は呆れてしまっていた。
最後の最後までグダグダだ。
私達はハンコを取り替えて、席に戻った。
「では、気を取り直して……。改めて、卒業おめでとう。たった一年だけでしたが、みなさんと過ごせて楽しかったです。この学舎で得たものは社会に出てもきっと役に立ちます。これから辛いこと悲しいことたくさんあると思いますが、きっと乗り越えられると信じています。強く生きて下さい。三人が十年後、二十年後、どんなオバさんになっているか今から楽しみにしてるね!」
ひでぇー!
最後の最後にこのチャラ男、思春期の乙女たちに失礼なこと言いやがった!!!
「川村先生が、十年後、二十年後、どんなおじいちゃんになっているか今から楽しみにしていますね!」
よくぞ言った、ふー!
「そうだね! あ、なっつ。川村先生がおじいちゃんになったら介護してあげなよー」
千秋が私にふってきた。
「高齢者施設に入所するのであればねー」
笑い話をしていると、外から何か聞こえてきた。
窓を開けると、二年生が中庭に集まって、こちらに向かって叫んでいた。
「さんねんせーい! 早く出てこーい! 寒いんですけどー! いつまで待たせるんですかぁー!?」
恒例の卒業生へのエールをするために、二年生と先生方が雪が積もる外で待っていたのだ。
「せんせーい。後輩達が、凍死する前に早く帰りのホームルーム終わらせて下さーい」
千秋が言うと川村先生が物足りなさそうに
「えー。もう三時間くらいオレの最後の演説を聞かせようかと思ってたのに……」
と、言っていた。
「いやいや……。二年生達、風邪ひいちゃいますよ」
私がそう言うと、
「起立! 礼! さようなら!」
と、ふーがハキハキと最後の挨拶の号令をかけた。
私と千秋もふーの号令に続いて、
「さようならー!」
と言い、一礼をした。
そして、荷物を持って玄関まで走って出て行った。
「まったく……」
川村先生が呆れながら呟いた。
川村先生も私達の後を追って中庭まで向かった。
「おっそーい!」
二年生達がブーブー言いながら出迎えた。
「川村先生の話が長いのが悪い! うちらのせいじゃないし!」
千秋が威張って言っていた。
「さっさとやっちゃいますよー」
靖朗と淳がそう言うと、エールを始めた。
「ファイトー! ファイトー! 卒業生! ファイトファイト、卒業生! ファイトファイト卒業生! オー! サンキュー! サンキュー! 卒業生! サンキューサンキュー、卒業生! サンキューサンキュー、卒業生! オォー!」
「はい! エールは以上です! さっさとアーチくぐって帰って下さい!」
二年生達と先生達が手を掲げてアーチを作ってくれた。
この雑な感じも、みんな幼少時の頃からの付き合いだからこそのことだ。
私達はアーチをくぐって行った。
二年生四人と先生四人の八人で作るアーチだ。
代わる代わる人が入れ替えでアーチを繋いでくれている。
なんと忙しいアーチだ。
逆に申し訳ないと思ってしまった。
「ありがとー!」
「またねー」
そう言いながら、私達三人は親が待つ車に向かった。
すると、千秋が声を掛けてきた。
「ねー、なっつー、ふー。卒アル作り、卒業式の分残ってるよね?」
「そうだねー。明日土曜日だから、月曜日に学校に来なきゃだねー。なっつと千秋来れる?」
「うちはオッケイよー。なっつは?」
「私も大丈夫。どっちみち、閉校式の打ち合わせで学校に来なきゃいけないんだし」
「じゃー、月曜日に学校でまた」
「はーい」
「なっつと千秋は明日合格発表だよね? 気をつけて行ってきなよー」
私は開き直りながら、
「はいはい。月曜日、楽しみにしててね。落ちてるから」
と言った。
「こらこら」
「うちも落ちてるわー」
「千秋まで……。二人ともしっかりして!」
明日は待ちに待っていない合格発表の日だ。
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