第32話 合格発表

 今日は第一志望校の合格発表の日だ。

 私は母と一緒に志望校に来ていた。


「あんた、受験票持ってきた?」

「持ってきたよ。てか、今更聞かないでよ。忘れてきたら絶望だよ! また車で片道五十分かけて家まで取りに帰らなきゃいけないんだから!」

「そうよね。もうそろそろじゃない? 車から降りたら?」

「えー。やだー。人多すぎ! 人少なくなったら行くー」


 少人数の環境で育ったせいか、どうも人混みの中に入るのは苦手だ。

 私は合格番号の張り出されている掲示板のあたりから人が少なくなっていくのを車の中から監視していた。


「もういいんじゃない? さ、降りて降りて。先生も待ってるんだから。合否、学校に連絡しなきゃいけないんでしょ?」

「そうだけど……。まぁー、いいや。もう行こうか」


 そう言って、私と母は車から降りて、合格番号の張り出されている掲示板の所まで歩いて行った。


「あー、絶対無理だぁ~」

「情けない声出さないの。ほら、確認しちゃいなさい!」


 私の気持ちをよそに、母は私の背中をグイグイと押してきた。


「あった」

「ほんとに? ちゃんと確認したの?」

「うん、あった」

「どこ?」

「最後の番号」

「間違いない?」

「うん。だって、受験の時も私の受験番号最後だったから、最後の方を見ればすぐ分かると思って……」


 何気に数字を覚えるのが得意な私は、ひと目で自分の受験番号がどこにあるのか分かった。

 受験の時に自分の番号が最後の方に書かれていたことを覚えていたため、簡単に見つけることが出来たのだ。


「あっさりだったね」

「そうだね」

「おめでとう」

「あざーす」

「お姉ちゃんと同じ高校に合格できて良かったね。お母さんもお父さんも慣れた学校に送り迎えできるから、楽で良かったわ~」

「そりゃー、良かったねー」

「んじゃー、帰ろうか」

「うん」


 帰ろうとすると、どこかで見たことがある新聞記者を見つけた。


「ねー、お母さん。あの人、卒業式に来てた新聞記者の人だよ」

「そうなの? 話し掛けたら?」

「うん。ちょっと待っててね」


 私は新聞記者の人の元に駆け寄った。


「こんにちは!」

「あれ? 君は姫乃森の……。もしかして、合格発表見に来たの?」

「はい! 合格しました!」

「おめでとう! 昨日の様子とうって変わって清々しく見えるね。よかったねー」

「はい! もう、満足です」

「高校生活楽しみだね。千秋さんも今日が発表でしょ?」

「そうですね。明後日、会うのでその時に千秋の合否が分かると思います」

「そうかそうか。あの娘も、きっと合格してると思うよ。あ、そうそう。閉校式も取材に行くからよろしくね」

「分かりました。こちらこそ宜しくお願いします。では、失礼します」

「はーい。気をつけて帰ってねー」


 私は母と合流し、車に戻った。


「はい、学校に電話したら?」

「はいはい」


 私は母から携帯を受け取り、学校に電話した。


「プルル……プルル……。はい、姫乃森中学校です」


 内藤先生だ。


「あ、もしもし。工藤夏希です」

「あ、夏希? どうだった?」

「合格です」

「おめでとー! 今、千秋からも合格の連絡が来たばかりだったんだよー」

「そうなんですか、良かったです!」

「川村先生に代わるね」

「あ、はい」


 電話は内藤先生から川村先生に代わった。


「なつきぃー!!! おめで……プツッ……。プープー。」

「あれ? ……ん?」


 突然電話が切れた。

 携帯画面を見ると充電切れのマークが表示されていた。


「充電切れた……」

「あら。そういえば、充電少なかったのよねー。でも、大丈夫かなって思っていたから敢えて充電してこなかったんだけど……。もたなかったかー。家に帰って充電しないと。帰るわよ。あっ、お祝いになっつの好きなみたらし団子買って帰ろっか」

「やった!」


 まぁー、帰ってから家の電話でまた学校に電話すればいいか。

 私と母は高校を後にして私の大好物のみたらし団子を買いに行った。

 改めて学校に電話し、川村先生に携帯の充電が切れて途中で電話が切れてしまったことを謝罪した。


「お母さんの携帯からだったんだー。急に切れてびっくりしたよー。合格おめでとう。これでゆっくり出来るねー」

「はい、おかげさまで」

「次の登校日までゆっくり休んでねー。ではー」

「はーい。失礼しまーす」


 私は受話器を置いた。

 今日はゆっくり休もう。

 緊張がほぐれ、疲れがどっときて、身体が重くなってきた。

 この日、布団に入ってわずか三分後には眠りについたのであった。

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