第3話 お掃除の時間です

「じゃーうち、日直だから掃除時間の放送流してくるー」


 千秋が小走りで放送室へ向かって行った。

 まもなくすると、千秋の声がスピーカーから聞こえてくる。


「全校生徒の皆さん、お掃除の時間になりました。各自掃除区域に行き、きれいに丁寧にお掃除をしましょう」


 アナウンスの後に音楽が流れてきた。


「さて、いつもどおりにやりますか。ちゃっちゃと終わらせよーっと」


 私は、自分の教室の掃除を始めた。

 割り当ては、一人一室。

 いつものことで当たり前のこと。

 五年前くらいの時は、全校生徒十人以上いたこともあり、一室を二、三人でやっていたという。

 掃除場所は、二年の教室、三年の教室、音楽室、理科室、図書室、トイレと廊下、体育館と体育館までの連絡路に分かれる。

 体育館と連絡路の掃除の範囲が広く、一人で掃除するには大変なので、自分の持ち場が終わり次第、手伝いに行く。

 机の雑巾がけをしていると、川村先生がきた。


「あれ? 一人? 他の人は?」

「それぞれの持ち場で掃除していますよ」

「え? 一人でやるの?」


 驚くのも無理はない。

 大きい学校だと考えられないことだ。

 一人一室の掃除をする学校なんて、少人数の学校ならではだろう。


「なんか申し訳ないなー。俺も手伝うか?」

「いつものことなんで、大丈夫ですよ」

「いやー、でも流石に……。手伝うから何でも言って!」

「んじゃぁ……自分、背が低くて上まで届かないので、黒板の掃除をお願いしてもいいですか?」

「分かった! 黒板だね!」


 なんか、張り切っている。

 見ていて面白い。

 そう思いながら、モップがけを始めた。

 川村先生は175センチ位あるだろうか?

 一番上の端まできれいに黒板消しで掃除をしている。

 さすがだ。

 教室掃除の時は、ぜひお願いしたいものだ。

 先生が黒板の掃除をしている間に私は、モップがけ、ゴミ集め、ゴミ捨てまで全て終わらせた。


「夏希さん、早いね」

「時間は二十分ぐらいですし、手早くやらないと終わりませんよ。でも今日は、先生が手伝って下さったお陰で早く終わりました。ありがとうございました。」

「俺、黒板の掃除しかしてないし……」

「んじゃ、他の人のところに行って手伝ってきますね」

「何!? そんなこともするのかい!?」

「はい、じゃないと日が暮れますので」


 そう言って、先生を教室に残し、私は体育館掃除をしている千秋のところにそそくさと行った。


「千秋、手伝いにきたよー。どこまでやった?」

「ありがとー。早いね。連絡路の方をお願い。そこやれば終わり」

「了解! なんか、川村先生が手伝ってくれたから、早く終わったよー」

「マジ? まー、慣れてくれば手伝わなくなりそうだけどねー」

「今のうちってやつでしょ? まー、そんなもんよ。校舎側から掃き掃除してくるねー」

「はいよー」


 早速、掃除に取り掛かる。

 連絡路の途中でプールが見える。

 中学校ではプールの授業がない。

 使っているのは小学生と保育園児だけだ。

 だからといって、入りたいと思ったことはない。

 体育の授業では大会が近くなると、卓球と陸上をやったり、発表の場があると太鼓の練習をしたりするので、なかなか忙しい。

 そして、バス通学なので、部活は一時間ほどしかできない。

 だから、体育の授業でも部活のような内容を取り入れるのだろう。


「ありがとう、なっつー。そろそろ放送止めてくるわ」

「はいよー。先に教室に戻ってるわー」

「はーい」


 掃除用具を片付け、校舎内に戻ると、図書室の掃除を終えたふーが図書室から出てきた。


「千秋、終わったって?」

「終わったよ。ふーは?」

「終わった、終わったー。てか、図書室使ってないから綺麗だったよー。適当にテーブル拭いて、あとは本読んでたー」


 この本の虫め! 

 またさぼったな。

 ふーは本が大好きで、中学生が読まなそうな難しい本を読んでいることが多い。

 頭の良いやつはやっぱり違うなー。


「あ、先生に掃除を終わったこと報告してない! ちょっと職員室に行ってくる! 図書室の担当誰だっけ?」

「中野先生でしょ?」

「分かった! 行ってくるねー」

「先に教室に戻ってるからー」

「あーい」


 さて今日は、午前授業だ。

 帰りのホームルームが終わったら帰れるぞー!

 教室に戻った私は、ロッカーからカバンを取った。

 町立の中学校だが、カバンに校章がついている。

 昔からそうだ。

 帰りの準備をしていると、千秋と、ふーが戻ってきた。


「明日から六時間授業だよー。だるー」

「しゃーない! 勉強が今のうち達の仕事だ」

「ずっと本読んでいたーい」

「教科書でも読んでろ!」


 二人の漫才を聞いていると、川村先生が教室に入ってきた。


「はーい、じゃー帰りのホームルーム始めまーす」


 いつもの学校生活と思っていたけど、今年は違うんだ。

 受験生として、最後の卒業生として……。

 まずは、学校行事の一大イベントの一つ。

 運動会の準備だ。

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