第6話
* * *
場面は変わって今は太一と地元の個人経営のラーメン屋に足を運んでいた。
僕はラーメンを太一はラーメンとチャーハンと餃子をカウンターで頼む。
「流石元運動部は食べる量が違うな」
「いやぁ、これでもだいぶ減ったぞ。胃が小さくなってしまったってのが自分でもすごく分かるくらいにはな」
「それでねぇ……」
よく食べることはすごいと思うし、否定はしないが、その分出費はなかなかのものだろう。 僕はラーメン1杯でお腹いっぱいになるくらいで丁度いい。
「そういえば颯汰、お前結局あの紙どうしたんだ?」
あの紙というのは恐らく下駄箱に入れられていた例のアレだろう。
「知らないよ。もうあんなのとっくのとうに捨てたよ」
「捨てたのか。あれを上手く使えば筆跡で誰が書いたのか特定できたんじゃないのか?」
「確かにそうなのかもしれないけど、うちの高校の中から一人一人の筆跡を調べてもキリがないし、第一どうやってそんな事するんだよ」
太一は満足気にポンと手のひらの上に手を置く。
「賢いな、お前」
お前がバカなだけだろ。と言ってやりたかったが辞めた。
太一は典型的な文武両道タイプで部活の硬式野球部では主将と4番を任され、学力では第1志望の大学の法学部を夏休み前の時点でB判定をとっている。
「とりあえずそんなことは置いといてまずはあれが入れられた意味を考えないとな」
「間違えて入れられたとか?」
「それも有り得る。ていうかそれであってくれって思うよ」
僕は渡されたお冷を一気に飲み干して大きなため息をつく。
自分に思い当たりのないことであったとしてもあぁいうことを書かれると何気に堪えるものがある。
「まぁ、取り敢えず今は気にしない方がいいんじゃないか? これで相手側にも動きがなければそれでいいんだし」
「それもそうだな」
僕は太一の意見に納得すると少し気は楽になった。
そして丁度出来上がったラーメンを店主から受け取ると胡椒を2、3回振りかけて食べ始めた。
結局太一は僕よりも早くラーメンとチャーハンと餃子を平らげていた。
* * *
その後、支払いを済ませて太一と別れると僕はLINEを開き舞彩にメッセージをうった。
『今から向かおうと思えば行けるけどそっちは大丈夫?』
送信してから数分後、舞彩から返信がくる。
『了解、私も今から行く』
それを確認するとスマホをポケットにしまい早足で八里御浜へ向かった。
* * *
八里御浜に着いた時、時刻は午後3時をまわっていた。
夏休みが明けたからだろうが砂浜には遊泳者が1人も見当たらず、いったりきたりを繰り返す波の音だけが響いていて、潮風の匂いも鼻をくすぐった。
八里と名前につくだけあってこの砂浜は実際に実際に距離で換算すると約31キロ続いているらしい。
そんな砂浜には毎年夏になると多くの遊泳者や観光客が訪れ、夏祭りもここで開かれたりもする。
だからこんなに静かな八里御浜を僕は初めて見た。
そんなことを考えていると後ろから砂を踏む音が段々とこちらに近づいてくるのが聞こえた。
「お待たせ、待った?」
舞彩であることを確認してから振り返って返事をする。
「ううん、僕も今来たところだから」
「なんかありきたりな台詞だね」
「うるさい。じゃあ、何分待ちましたって言えばいいのか?」
「いやぁ、それはキツいよ」
「だろ。分かったら深く突っ込まないでくれ」
舞彩ははいはいと笑顔を浮かべる。が、すぐにその表情も豹変し、真面目な表情になった。
「颯太はなんで今日呼んだか分かる?」
「まぁ、なんとなく……だけど。冬野 美海のことじゃないのか?」
「そう。あの日はちょっと格好悪いところ見せちゃったけど……」
舞彩は顔を赤く染めながら消え入る声でそう言うとじゃなくて! と続けた。
「ちゃんと言おうと思って……でも、その前に、颯汰はあの後冬野 美海とは関わってないよね?」
「…………」
「颯汰?」
「ごめん、実は1度だけあの後会ってしまった……というより、彼女から尋ねてきた」
「そ、そう……」
しばらく沈黙の間が続いた。約束さえしていなくても、僕は舞彩のお願いを無下にしたようなものだ。
でも、同時に舞彩が僕に美海を避けさせる理由が分からなかった。だから罪悪感はあまり感じられなかった。
「あのさ、教えてくれないかな。なんで僕が美海と関わったらいけないのか」
「…………」
「たしかに悪かったと思ってる。けど、同時に僕が彼女を避けなければいけない理由が分からなくなった。本当に避けないといけないなら理由くらいあるよね?」
舞彩は当惑したような表情で僕を睨む。
「もうそれは忘れて。あともう用は済んだから帰ってもいいよ。ごめんね、別に私が颯汰を縛る必要は無いもん」
舞彩は苦虫を噛み潰したようなより一層険しい表情になり、目頭を熱くしていた。
そんな舞彩にこれ以上質問するのも気が引けるが、僕もただでは帰れなかった。
「それじゃあ、これだけ聞かせてくれ。12年前僕の身には何があったんだ」
「…………やっぱり気になっちゃうんだね」
「うん。舞彩がどう思うかは分からないけど、僕はもうちょっと自分と彼女にしっかり向き合うべきだって思った。それが忘れてしまった人のケジメってやつかなって」
舞彩が戸惑っている様子は目に見えてわかった。時折唇が震えその度に口を引きしめていたが、やがて覚悟を決めたのか軽く頷いた。
「分かった、全部言うよ。ただ、これだけは信じて。今から言うことは全部本当の話。12年前に颯太に起こった話」
舞彩は真剣な表情で念を押すようにそう言うと、12年前の僕のことをゆっくり話し始めた。
マイナス20年。マイナス3年。 towa @towa_15_
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