Diary 7
僕は敢えてそこには触れずに流した。
「
緩めていた身なりを整えると僕はルカの元へと戻り、エリスも僕が離れていったのを確認した後に東屋から立ち去っていった。
次の授業について話しながらルカと共に講義棟へと向かっていると、目の前に見慣れた人物が何が楽しいのかウキウキしている様子で佇んでいた。
「ルメルシュ嬢、こんな所で何方か待っているのですか?」
無視する訳にもいかず、仕方なく優しくそう聞くと彼女は花が咲く様な笑顔でこちらへ近づいてきた。
別に寄って来なくてもいいのだが。
「勿論、セリス様をお待ちしていました!少しでも一緒にいたくて。」
次の講義が何時からかこの女はわかっているのか?
あと5分後に始まってしまうんだけど?!
荒ぶりつつある心を落ち着かせながらルメルシュ嬢との会話を始める。
「そうだったのですね。しかしもうすぐ授業が始まってしまいます。貴女もクラスへ戻らないと遅刻扱いになってしまいますよ。」
我ながらナイスな回答だ。
これで去ってくれるだろうと思っていたが何と彼女の方が上手だった様で、
「授業の事ですが、どうやらセリス様のクラスは自習に変更になったと聞きました。それで、その…アイリと一緒に少しだけ抜け出しませんかってお誘いしたくて…。」
なるほど。
この女性、本当に貴族の娘なのか??
前々から貴族らしからぬ言動をしているなとは思っていたがここまでとは思わなかった。
然し自習に変更になっていたとは、なぜ誰も教えてくれなかったんだ。
全く、冷たい学友たちだな。
あと何故その事を彼女が知っているんだ。
……そんな事よりも、この自体をどう対処するかが先決だ。
「申し訳ありません、ルメルシュ嬢。殿下も貴女との時間を共にしたいとお考えですが、高貴な身分ゆえ軽率な行動は控えられています。貴女も教室へお戻りに。」
どうしようかと迷っていると間髪入れずにルカが僕の代わりにそう答えていた。
流石ジェーンハルト家の人間だ。
それ故にその能力を買われて代々皇家の側近の殆どがジェーンハルト家の者が仕えている。
ルカもその例に漏れず、他の家門の者達よりも優れていた為に僕の側近という地位を手に入れた。
当の本人はその事に驕ることなく、誠実な性格の持ち主で職務はキチンと全うする真人間なのだが。
兎に角、こんな時に機転の効かせられる者が側にいるというのはとても助かるものだ。
「そういう事なので残念ながら貴女とは共に過ごすことは出来そうもない。また時間がある時に誘ってください。それでは。」
軽く会釈をすると、ルメルシュ嬢を横切って真っ直ぐ教室へとまた足を進めた。
が、腕を強く捕まれ一瞬後ろへ倒れそうになる。
振り向けば今にも泣きそうな顔のルメルシュ嬢が僕の腕に縋りついていた。
コイツ……。
「少しの間だけっ!ほんの少しでいいのでセリス様と一緒に居させてくだい!!アイリっ…最近怖いことに遭うことが多くて…一人では心細いのです!!」
しらん。
そう言い切ってやりたいのだが、何だか嫌な予感がしたのでどういう事か聞いてみた。
「怖い事とは?」
「その、実は陰から嫌がらせのようなものに遭ってて…。誰なのかはまだ分からないのですがとても怖くてっ!」
ふむ、嫌がらせか。
周りの者達からの信頼が厚いだろうに嫌がらせを受けているとは。
不憫なやつだな。
だが、僕がだからといってルメルシュ嬢を守ってあげる義務はないし…どうしたものか。
「だからと殿下を引き止めるのはお門違いかと。」
無表情のルカがまたもやズバっと答えてしまった。
ルカ、絶対彼女のこと嫌いだろ。
まぁ姉の恋敵だから尚更だろうなぁ。
ルカってこう見えてシスコンなところあるからね。
如何でもいいことを考えていると今度は泣き喚く声が耳を
「お願いですっ!今日だけで構わないのでいっしょにいてっ!!」
だんだんと面倒になってきたな。
これ以上騒がれては堪らないし、仕方ない。
ここは彼女の誘いにのるしかないか。
半ば諦めの心境で僕の腕を掴むルメルシュ嬢の手を取り目線を合わせた。
「可愛い貴女のお願いです。今日だけですよ?」
うぅ、相手がミハイルであれば泣いて喜んでいるところなのに。
「ホントですかっ!有難うございます!!」
僕の回答に満足したのか、先程の涙が嘘のように彼女はコロリと笑っていた。
ルカの方を少し見遣ればそれはそれは恐ろしい位の軽蔑の表情を浮かべているのが分かった。
え、ごめんってば。
皆様、これは誤解です!〜空気が読めないお陰で極悪令嬢と呼ばれてます〜 飯杜菜寛 @iizuna-com
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