警察署へ赴任した新米警官の上司はどう見てもキツネだった
そうま
第1話
月曜早朝の署内は静かだった。事務の職員に連れられて、僕は階段を登った。新品のスーツは、まだ身体に馴染んでいない。
「さ、こちらですよ」
事務の男は左手で僕の進行すべき方向を示した。開け放しの扉。側に「殺人課」と太めの明朝体で記された札があった。
柔和な笑顔を浮かべた事務員を一瞥して、部屋の中に足を踏み入れる。窓から差しこむ朝の日差しが、雑然とした様相の室内をおだやかに照らし出していた。僕の足音に気づいたのか、部屋の隅に座ってパソコンを睨んでいた男がこちらを見た。
「お。君が今日から来る新人か」
彼は立ち上がると、耳をぴょこぴょこさせてこちらに近づいてきた。「おはようございます」と僕は挨拶をして、一通りの自己紹介を済ませた。
「人間の新米をもつのは久しぶりだな」
僕の話を聞き終わると、彼はそう呟いた。腕を組んで感慨にふける彼の姿は、どうみてもキツネだった。
ふさふさで金色の毛並み、三角形の耳、つんと尖った鼻、横に伸びたヒゲ。なかなかのイケメンだったが、目元のクマが酷かった。十五、六ほど歳上だろうか。歳下の可能性もあるけれど。
「うちの担当区は事件ばっかりで大変だと思うが、まあ頑張れよ」
キツネはそう言って僕の肩をポンと叩いた。春先でまだ少し肌寒いが、キツネはワイシャツ一枚で袖もまくっていた。
「あと、署長への挨拶も忘れるなよ。怒らせるとこわいからな」
キツネはにやりと笑った。署長とはまだ顔を合わせていない。一体どんな人なんだろう。
「まっしろな肌のブルドッグだよ。だらしないあご周りしたおっさんさ」
その日は不在だったので、後日改めて挨拶に伺った。物静かだが威厳のある署長は、ブルドッグではなくブルドッグみたいな顔をしたおじさんだった。
警察署へ赴任した新米警官の上司はどう見てもキツネだった そうま @soma21
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