血と名前、家族とは何たるか。

人と人との繋がりで、最も重いものはなんだろうか、私は家族だと考える。
この物語は1人の青年と1人の少女が結ばれて家族になるまでを、詳細な過程や背景、練られた世界観、血、足、名前という媒体を通して繋がる縁と共に記したものである。一本筋の通った読み応えのある物語を読みたい方にはぜひオススメの一作だ。


…以下は完全に私の個人的な趣向であり、ネタバレやこの作品に対して否定的な内容を記す。

結論から書くと、私は他人にこの作品をいわゆる「ヤンデレもの」として読む事を勧めることは出来ない。ヒロインを魅力的だと感じられなかったからだ。
この物語は1人の青年と1人の少女が結ばれる物語だ。しかし、彼らには自分の名前が無い。劇中でも彼らの本名が明かされることはない。
この物語の中核に、自分の名前を持った人間は登場しない。いるのはあらかじめ昔から定められている「役」を受け継がれる名前と共に羽織った役者だけだ。主人公の青年の人生はまさに「歩き回る影法師、哀れな役者に過ぎぬ」ものと言えるだろう。作中最後に主人公とヒロインは受け継がれる名前を自分のものにした。しかし私はあまり楽観視できない。2人の間に吸血鬼の娘が産まれれば、また同じ演目が繰り返すだけなのだろうから。
作中、ヒロインは自分の事を破滅の運命をもたらしファム・ファタールと称した。実際主人公の人生は「小秋」のために根底から捻じ曲げられたといっていいだろう。
自ら自分(の名前)を捨て、気に入った男を目の前に父親を呼び、その運命を弄ぶ女を好ましいとは私は思えなかった。

その他のおすすめレビュー