第27話 あおはる ⑥
『はい。私達も、貴方と一緒に居たいですよ。』
僕がどう答えるかが分かっていたかのように、満足げな笑みを浮かべながらイオリは答える。
「・・・でもさ、イオリ。これは選択肢になってない気がするんだけど?」
『えぇ、私はズルいんです。・・・でも、そうさせたのは貴方なんですからね?・・・本当は、私だけを見ていて欲しいですし、私だけのご主人様だったのに・・・どうしてこんな事になったんでしょう?』
表情では笑っているのに、目が全く笑っていない・・・
「と、ともかく、さっきも言ったけれど、すぐには考え方を変える事が出来ない事だけは理解して欲しいかな?」
『大丈夫です、私達も待ちますから。ゆっくりで良いので、私達の事をもっと好きになってくださいね?』
「う、うん・・・」
『全員かわいいので、案外すぐかも知れませんよ?』
全員かわいいって・・・そこに自分自身を含めていないか?
まぁ、確かにイオリやサオリは魅力的だけど、見た目がどうこうという話では無いんだ。
君達の内面を知れば知るほど、好きになっていく自分がいる。
それを今、改めて感じているよ。
「でも、何故イオリは、その・・・何というか、自分で言うのは恥ずかしいのだけど・・・どうして、ヤキモチを妬かなくなったの?」
マホやシホと暮らし始めた後ぐらいから、以前のように嫉妬する事が無くなったように思う。
イオリの中で何が変わったのだろうか?
『今でも、私の中では私だけのご主人様ですよ?でも、んー・・・そうですねぇ・・・最初のきっかけは、サオリちゃんが海で寝ている貴方にキスしているのを見た時ですね。・・・あの時、私はサオリちゃんに怒りました。私だけのご主人様だって、怒っちゃったんですよ。』
温泉での話から、そんな事があったんじゃないかとは思ってはいたけれど・・・
『時々・・・夢で見るくらいには、ハッキリと覚えています。あの時のサオリちゃん、酷く傷付いた表情をしていたんですよ。自分が存在している意味を、奪われたと感じたのかもしれません。・・・その事は、少し考えたら判る筈なのに、自分が選ばれたんだって・・・私は、幼いあの子に言ってしまったんです・・・』
イオリはまだ、サオリに言った事をかなり後悔しているらしく表情を曇らせながらも続けた。
『それからはご存知のようにノアの提案で、サオリが成長するまでは貴方が悲しむから、ちゃんと仲良くする事を約束しました。・・・そして、私は沢山考えているうちに、どうにかして貴方にサオリの事も見てあげて欲しいって思うようになっていったんです。』
「それは、サオリが独りになるから?」
『んー・・・少し違いますね。貴方が私を真っ直ぐ見てくれるようになったのも最近ですし、どちらかと言えば不器用だったあの子が段々と自分を表現出来るようになっていくのが、私は嬉しかったからなんですよ。・・・そうしている内に、妹達も大事にしている貴方を、より愛おしく思うようにもなりました。あの子達の笑顔は、私にとっても掛け替えの無いものですからね。』
イオリは穏やかに微笑みながら、僕の頬に手を添える。
『だから、貴方がサオリの事も好きになってくれた事が、少し嫉妬してしまう気持ちもありますけれど、一番は嬉しいんですよ?・・・でも、あの子を悲しませた事だけは、許せません。』
そう言うと、彼女は頬を膨らませながら先程添えた手で僕の頬をつねるのだが・・・喋りにくい程度で痛くはない。
「・・・本当に、ごめん。」
思いっきりつねられたとしても文句は言えないのに、傷付いたのは自分ではなく妹だからか、大分加減をしているようだ。
『謝る相手を間違えていますよ?それに、思いを伝える相手も・・・ちゃんと貴方の口から、サオリちゃんに伝えてあげて下さい。』
「わかった。サオリに伝える。」
返事を聞いたイオリはクスクスと笑いながら、僕の頭を抱きしめた。
『・・・そう言えば、私に好きだって言ってくれたのも、随分と久しぶりですね?』
「そ、そうだっけ・・・?」
前に伝えたのは・・・多分、皆で初めて牧場に行った時、か?
いや、でも・・・そんな頻繁に言う言葉ではないよね?
『今回はどさくさに紛れてでしたから、偶には私にもちゃんと言ってくださいね?でないと、私も泣いてしまいすよ?・・・私だって貴方が分からなくなって、不安で言葉が欲しい時ぐらい、あるんですもの。』
「わ、わかった・・・」
『約束ですからね?』
言葉が足りないとは時々皆から言われているし、これから二人きりの時はなるべく伝えるようにした方がいいかも。
・・・凄く、恥ずかしいけど。
『それはそうと、サオリちゃんに話をしたとしても、最初にドレスを着るのは私です。順番だけは、譲れません。・・・キスをしたのも、私が最初ですし。』
「あー・・・いや、うん・・・」
イオリ、ごめんね。
実のところ僕は、あの時キスをするのが初めてじゃなかったんだ。
『・・・え?どう言う事ですか?』
彼女の僕の頭を抱きしめる腕に段々と力がこもっていく。
かなり痛い!?
怒っていらっしゃる!?
口には出していない筈なのに何でバレたんだ!?
『ご主人様・・・?どう言う事ですか?』
かなり強く頭を抱きしめられている為、僕の力では逃げ出す事が出来そうにない。
一見すれば優しげに僕へ問い掛けているようにも聞こえるのだが、明らかに声に怒気を孕んでいるし・・・
「痛い、痛いよ!イオリ!」
あまりの痛みに思わず抗議の声を上げるものの、締め付ける力が強くなるばかりで一向に緩める気配さえない。
いや、キミは僕より力が強いんだから、多少は加減してくれないかな!?
『私達以外とキスをしたんですか?・・・まさか!ノアですか!?』
ヒトガタとキスをする趣味はないってば!
「ち、違うよ!痛いから離して!」
『いいえ、答えるまでは離しませんよ。』
前にもこんな事あったけど、何でノアにまで嫉妬するんだ!?
ノアはこの船の事だろうに!
・・・とは言え、このままじゃ真っ赤なトマトになっちゃう!
「話す!話すから!本当に痛いんだよ!」
必死に訴えたからかイオリは漸く解放してくれはしたのだが、離した後も般若のお面のような表情で僕を睨み続けてくる。
あまり愉快な話では無いけれど、言った手前誤魔化す訳にはいかない・・・よな?
覚悟を決めるか・・・
泣き出さないといいけれど。
腹をきめた僕は、深く呼吸をしてからゆっくりと吐き出し、ポツリポツリと話し始める。
「・・・今まで話した事が無かったけれど、僕にはね・・・この船に来る前は恋人が・・・居たんだよ。」
〝居た〟という表現に胸が締め付けられるけれど、不思議と以前フィギュアを片付けた時のように涙が滲むような事が無い。
これなら・・・多分、大丈夫。
『居た・・・という事は、まさかお父様方と一緒に・・・?』
「いや・・・彼女は、僕がこの船に乗る事になった出来事よりも一か月くらい前に、別の理由で亡くなったんだ・・・」
『別の?』
・・・いつの間にか、僕の中で整理がついたからなのかもしれない。
唐突に思い出した家族の事とは違い、サキの事は思った以上にきちんと話せそうだ。
「彼女が死んだのは、星が滅びた理由の兵器とは無関係じゃないんだ。だから、父さん達同様に彼女も・・・殺されたんだよ。」
それから、僕は死んでしまった恋人の事を話した。
幼馴染で、初めて想いを交わした相手だと言う事と・・・イオリと同じ顔だったという事も。
もし、黙っていてその事が知られたら、彼女の代わりだと思われても嫌だったからだ。
「僕がこの方舟に来た時は、彼女が死んだ後で抜け殻みたいになっていた時だったんだ。イオリが似ているのは偶然だって、ノアは言ってたけれどね。」
本当に偶然、なのだろうか?
多分・・・いや、今はやめよう。
今更確かめても、何かが変わる訳でもない。
『・・・そう、だったんですね。でも、私は私ですから、貴方が私をその方の代わりでないと言うのなら、信じますよ。』
「怒らないの?」
『私が生まれる前の事ですからね。・・・今の貴方が私達を大事にしてくれている事は伝わりますので、怒る事ではないです。・・・という事は、〝あの〟人形が・・・?』
「・・・うん。」
〝あの〟とは、恐らく以前僕の部屋に飾ってあったフィギュアの事だろう。
『そう、だったんですね・・・』
確か大事なモノだという話はイオリにもした事があった筈だから、それでサキから貰ったモノだと気付いたようだ。
「今まで黙っていて、ごめん。」
『いえ、先程も言いましたが私達の生まれる前の出来事ですし・・・それに、色々と納得も出来ましたので・・・』
色々と?
そう言えば、以前狸寝入りしていた時にイオリは僕が自分達の事を見ていないと言っていたから、薄々は僕の中に誰かの存在がある事には気付いていたのか。
・・・とは言え、最初はイオリの面倒を見る事で無意識に心の隙間を埋めていたとは言え、僕自身はイオリ達をサキの代わりだなんて思った事は、一度だって無い。
そこだけは、きちんと明言しておくべきかな?
「君達と彼女を重ねてなんて居ないから、それだけは間違いないよ。」
そもそも、顔は同じでも幼い頃お転婆だったイオリと、周りに怯えて大人しかったサキとでは、重ねようが無いけどね。
『はい、大丈夫です。それは伝わってきていますから。・・・それでは、魚釣りの続きをしましょうか?少しでも釣らないと、サオリちゃん達にも悪いですからね。』
「・・・うん。そうだね。」
そうして僕とイオリは魚釣りを再開し、お昼前まで釣りを続けると昨日より時間を掛けたおかげか、二人合わせて10匹程釣る事が出来た為、昼食は中々豪華になった。
魚は1人一尾を塩焼きにして、且つそれとは別に数匹を昨日アク抜きした山菜と共に、今日採れたキノコを半分入れた鍋を作る。
それでも余った分の魚は持ち込んだ調味料に漬け一夜干にしてから持ち帰る事にして、残ったキノコは夕飯へ回すのだが・・・問題は、このボウルいっぱいのキイチゴだ。
マホとシホが相当気に入ったらしく、山盛りのキイチゴを見た時はどうしようかと頭を悩ませたのだが・・・
「あたしに任せてください!」
「任せるって・・・一体どうするの?」
どこか得意げな表情で手を挙げながら自分から言い出した所を見ると、どうやらサオリには何か妙案があるらしい。
「少し前に姉上が畑で作ったいちごで、イチゴジャムを作りましたよね?」
初夏の頃、収穫した大量のイチゴを腐らせないようにとイオリがジャムにしたのだが、それがどうしたのだろう?
「うん。そうだね、アレは美味しかった・・・って、もしかして・・・」
「はい!ノアに聞いたのですが、実はこれキイチゴじゃなくてグミって呼ばれているらしくって、ジャムにする事もあるそうですよ。だから、これでジャムを作りませんか?」
『グミって言うんですね?私はてっきり、木に実っていましたのでキイチゴなのかと・・・』
どうやらこの様子だと、イオリがノアに聞かずに言った言葉をマホ達が間に受けたようだが・・・僕がノアの力は極力借りないと言ったから、イオリはノアに確認しなかったのか?
・・・あれ?ちょっと待てよ?
じゃあ、イオリはどうやってあの実を食べられると判断したんだ?
もしかして、グミは自分で食べて毒が無いかを確認したのでは!?
僕は嫌な予感を覚え思わずイオリを見ると、彼女は僕の視線に気付き少し目を泳がせる。
まさか、敢えて食べられそうな実を口にして、ノアが止めるかどうかで確認をした・・・のか?
そう言えば、毒キノコは採ろうとしたらノアに止められた、とか昨日言っていたし・・・
であれば、名前はともかくとしても確かに直接はノアへは聞いてはいないけれど、それでは殆ど聞いているのと変わらないと思うのだが・・・
サオリもイオリを見て苦笑いをしているので多分、そういう事なのだろう。
案外、イオリは本人が言ったようにズルい所があるらしい。
「・・・グミ?そんな名前だったんだね。・・・でも、なるほどジャムか・・・」
今更注意しても仕方がないからそこには敢えて触れないでおくとして、幸い生理食塩水を作る為にそこそこの量の砂糖も持ってきてはいるが、ジャムを作るとなると足りるだろうか?
後、お菓子のグミと関係ある・・・訳はないな。
『折角マホちゃん達も頑張ったのですし、私はいいと思いますよ?』
「・・・そうだね。そうしようか。」
どの道、明日にはイオリの着替えの都合上帰るしかない訳だから、行き以上に気をつければ何とかなるかな?
「やったー!」
こうしてサオリの提案でジャムを作る事になった訳なのだが、どうやら彼女は最初からそのつもりで一緒に集めていたらしい。
「という事で、あたしが責任を持ってジャムを作るので、どうぞ兄上達は遊んできて下さい。」
「いや、僕も手伝うよ。」
自分が言い出したのだからとサオリは言ったのだが、流石に1人に任せるのは気が引けるので、僕と彼女で交代しながら作る事にした。
ついでに、魚をもう少し確保したかった僕は交代するまでの間にまた釣りをすると伝え、イオリにマホとシホを任せる。
マホとシホは皆で遊びたかったようだが、後で必ず皆で遊ぶと約束をして僕も岩場へと向かった。
暫くして追加で数匹釣り上げた辺りで一時間程が経過していたので、釣りを終え交代をする為にテントへと戻ると、鍋をゆっくり掻き回しているサオリに声を掛ける。
「ただいま。ジャムは上手く出来そう?」
甘い香りが周囲に漂っているのでどうやら順調らしい。
これは、出来上がりが楽しみになってきたな。
「兄上お帰りなさい。コンロではないので火加減が難しいですけど、上手く作れてると思いますよ。・・・兄上はどうでしたか?」
僕に尋ねながら、魚の入った鍋をサオリは覗き込む。
「こっちも上々だよ。また下処理をして、幾つか天日干しにするね。夕飯に食べる分は今はまだ生かしたままにしておくよ。」
「いいですね!・・・じゃあ兄上、あたしも遊んできていいですか?」
「うん。勿論だよ。」
ジャム作りを率先して引き受けたとは言え、彼女もやはり遊びたかったようで、僕が後を引き受けると伝えたらサオリは嬉しそうにテントへ入っていった。
それから少しの間ジャムは火から外して、天日干しの為に黙々と魚の内臓を取り除いていると、テントの中から水着に着替えたサオリが現れる。
「兄上、どうですか?似合います?」
「凄く似合うよ。カッコいいね。」
いつぞやの海ではまだ幼かったからか、着用していた水着も相まってまだ可愛らしさが優っていたのだが、今回着ている水着は競泳用の機能美とも呼べる水着だった為、サオリの身長の高さと凛々しい顔付きもあってか麗しく感じたので、素直に彼女へその事を伝えた。
「カッコいい、ですか・・・」
・・・つもりだったのだが、そんな僕の言葉で不意にサオリの表情が曇る。
その反応でかわいいと言われたかったのだと気付くが、時すでに遅し。
こうなったら・・・
「サオリは美人さんだから、活発な印象の物だと格好良く見えちゃうんだよ。・・・でも、僕はそれが素敵だと思うな?」
下手に取り繕うくらいならば、素直に言ってしまった方が伝わるだろう。
「あ、あたし、姉上達の所に行きますね!」
僕の言葉に顔を真っ赤にしてサオリは走り去ろうとするのだが・・・
「ちょっと待って!・・・後で、サオリにだけ話したい事があるんだ。だから、遊び終わったら時間をくれないかな?」
そんな彼女に、後で話があるとだけ伝える。
「・・・はい。」
すると、短く答えたサオリは顔を強張らせ、逃げるようにイオリ達の元へと走っていった。
その後の様子を遠巻きに見ていると、合流したサオリとイオリが何か会話をしているようだったのだが、何を話しているかは此処からでは聞こえてくるはずもなく、そのうちにサオリは座り込み、手で顔を覆いだしてしまう。
そんなサオリを見て、イオリはチラリとこちらへ視線を向けた後、妹の頭を撫で始める。
・・・胸が痛むけれど、これは僕のせいだ。
だから・・・後でちゃんと伝えるから、もう少しだけ時間をくれないか?
火から離していたジャムの味見をしてからもう少しだけ煮詰め、更に嵩が減って来たので再度火から離し、粗熱を取る為に砂地の地面に置いて、再び遠目で視線をイオリ達に向けたのだが、まだサオリが塞ぎ込んでいるようだった。
・・・これは、今すぐはイオリ達と合流しない方がいいかもしれない。
そう考えた僕は、午前中に下処理を終えて調味液に浸していた魚の切り身を、水分を拭き取ってから日当たりの良い場所に広げたシートの上に並べ始める。
『・・・サオリちゃんにまだ言えて無いんですね?』
すると、別の作業を始めた僕が見えたのだろうイオリが戻ってくる。
「うん・・・僕も心の準備をする時間が欲しくてさ。」
第一、流石に料理をしながらの告白は、あまりに色気がなさ過ぎてどうかとも思うよ?
雰囲気ってモノがあるじゃない?
そんな僕の言いたい事が伝わったのかはわからないが、イオリもそれ以上は聞かなかった。
『一緒に遊ばないんですか?』
「いや、今行くよ。午前中に漬けておいた分を干しておきたかっただけなんだ。」
かなり見苦しい言い訳だとは思う。
でもまたしても泣かせてしまった罪悪感もあり、すぐに行く気にはなれなかっただけなのだ。
最近の態度の所為で、きっと拒絶されると思わせてしまったのだろう。
ここ数ヶ月、僕の変化に嫌われたと感じていたのなら、そう思わせてしまった僕が悪い。
・・・だから、すぐにでも誤解は解かなきゃならないのに、想いを伝える事がこんなにも後ろめたいだなんて。
そんな事を考えつつ魚を並べ終えた後、マホ達と遊び始めたのだが気分は全く晴れそうにない。
「旦那さま、だいじょーぶ?」
「旦那さま、体調でも悪いんですか?」
すると、余程暗い顔をしていたのか、マホとシホが心配そうに僕の顔を覗き込む。
「ごめんね、大丈夫だよ。ちょっと、考え事をしてただけなんだ。」
イオリとサオリは、湖岸で砂山を作っている僕達三人とは少し離れた所に並んで座って話をしている為か、こちらからは会話が全く聞こえてこない。
だが、先程から時々イオリがサオリの頭を撫でているのを見るに、恐らくずっとイオリがサオリを慰めているのだという事はわかる。
それもあってか、僕はそちらに気を取られてしまいマホ達との会話もおざなりになってしまっていたのが、どうやら二人はそんな僕の様子が気になったらしい。
「旦那さま・・・ボク達と遊ぶの、つまらないですか?」
・・・あ、拙い!
二人とも泣きそうな顔をしている!
「ごめん!そんな事無いよ!」
慌てて二人に謝罪をするのだが、二人共益々暗い顔で砂山を掘る手を止めてしまう。
「旦那さまは、ホントはイオリお姉様と遊びたいんだもんね・・・だって昨日も、イオリお姉様をなでなでしながらお話してたもん・・・」
「ボクも見てました・・・ボク達二人だけで遊んでますから、えんりょしないで旦那さまはねぇさま達の所に行ってください。」
どうも昨日、イオリの頭を撫でていたのを皆に見られていたらしい。
アレについては正直言い訳のしようもないが、かと言って二人がこんな様子だからと放り出して、イオリ達の方へ行くのは絶対にダメな事ぐらい、流石の僕にでも判る。
どうするか・・・
・・・いや?
何を悩んでいるんだ?
「ううん、行かないよ?それに、マホ達と遊びたくないんじゃなくて、サオリとちょっと喧嘩・・・みたいな事をしてて、悩んでたんだけなんだよ。それで、あの二人の会話が気になっちゃったんだ。本当にごめんね。」
この二人も間違いなく僕達の不和に気付いているのだから、きちんと伝えるべきだろう?
・・・まぁ、多少は内容を暈すけど嘘は無い・・・はず。
「・・・ホントに?」
「うん。寧ろ、僕はマホ達と遊びたいぐらいだよ?・・・だからさ?僕達三人で、あの二人が驚くぐらいのお城を作らない?」
この子達も、僕とイオリが恋人だという事を知っているから、余計に気をまわさせてしまったのだと思う。
まだ幼い二人にも、だ。
「うん!」
「ボクもやります!」
度し難い、とは今の僕にピッタリな言葉だろうな。
シホ達まで悲しませてどうするんだよ。
「じゃあ、僕が沢山砂を集めるから、二人は好きな形を作ってね?」
今はこの二人と遊ぶ事だけを考えよう。
そうして、暫く遊んでいたら砂の城は出来なかったのだが、日が傾いてきたので水遊びを終え、僕は覚悟の決まらないまま話をする為にサオリを連れ出そうと近づいた。
だが・・・
「あの、サオ・・・」
「あ、あたし、先に着替えて晩御飯の準備してますね!」
そう言うと、彼女は一人足早にテントへと走って行ってしまう。
『サオリちゃん・・・逃げちゃいましたね。』
「・・・うん。どうしたらいいんだろう?」
『貴方次第、ですよ?』
僕次第・・・か。
ひょっとしたら、僕自身の迷いが伝わってしまったが為に、余計に彼女を不安にさせてしまったのかもしれない。
・・・いや、多分そうだ。
うん、決めた。
きちんと、サオリに好きだって伝える。
伝えなくちゃいけない。
早く伝えないと何も変わらないどころか、このままだと多分彼女に伝える事が出来なくなってしまうだろう。
だから、夕飯の後で彼女を連れ出す。
無理矢理にでも、話をするんだ。
そう決意して僕も着替え、夕飯作りを始めた。
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