エルフ、新天地での一夜を過ごす

 夜。寝具はないが、屋根も床も壁もある。更には一応のセキュリティもある。

 野宿よりは大分マシな夜をレイシェント達は過ごしていた。


「やー、しかし寝具に関しては藁でも見つけねえとどうにもならねえですな」

「時間さえあれば編めるがね。流石に少し時間はかかるな」

「最優先ってわけでもなし。こんなしっかりした家で寝れるだけ凄いですぜ」


 他に必要なものは幾らでもある。特にレイシェントが今日編み上げた服などは、これから重要になってくるだろう。

 

「ほんと、旦那と一緒でよかったですぜ」

「それはこちらの台詞だよ、ハナコ」


 ハナコは思う。ハナコ1人ではサバイバルは出来ても、文明的な生活には至らなかっただろう。

 それこそ古の石器時代のゴブリンの生活になりかねない。

 何かと博識で意外と頼りになるレイシェントがいることで、なんとか文明的な水準を維持できている。

 レイシェントは思う。レイシェント1人では生活すら出来ない。遠からず干上がるか、ワープゲートを使いどこかのエルフの集落に間借りする生活を選ばなければならなかっただろう。

 なんでもできるハナコがいることで、そうならずにすんでいる。


「君と出会えたのは私の幸運だよ、ハナコ」

「そいつぁ買いかぶり過ぎですぜ、旦那。雇われゴブリンなら大抵同じ事は出来まさぁ」

「だとしてもだよ。感謝している」

「ハハッ、照れますね」


 そんな事を言いながら、2人は暗い天井を見上げる。

 当然のように明かりなどないから、小屋の中は真っ暗だ。

 このまま目を瞑ればそのまま寝入ってしまいそうでもある。


「……明日からは新しい住人を探すわけだが」

「ええ、そうですな」

「この大陸にはどんな者が住んでいるんだろうな?」

「旦那はオウガがいいんでしたっけか」

「ああ、彼等は力もあるし紳士だ。共に暮らすには理想的だよ」

「紳士……」


 人間がオウガに叩き殺されるという話は、ハナコもよく聞いたものだ。

 エルフの里に来る人間の商人がオウガの恐ろしさを話しているのを覚えている。

 そう、オウガはレイシェントの言うとおりに力が強い。

 身体も大きく、種族全体として筋肉質で頭には2本の角が生えている。

 そして素手でも人間を叩き殺せるくらいには戦いに長けているのだ。

 ハナコとしては荒々しい印象しかない。


「疑ってるみたいだが、本当だぞ?」

「あ、いやあ……」

「人間がオウガによく叩き殺されているのは、人間が愚かだからだな。あいつら人間至上主義だから、オウガをモンスターだと思ってるんだ。討伐難易度とかいって敵対宣言してるから、オウガも容赦しないんだよ」

「はー、討伐難易度ですか」

「ああ、ゴブリンが討伐難易度……えーと、幾つだって言ってたかな。初心者向けらしいが」

「なんともまあ」


 ゴブリンやオウガが理知的だと知らないから、そんな討伐難易度が云々とか書いてある手配書を現場に持ってきて、その事実を知られてしまうのだ。

 レイシェントとしては、愚かとしか言いようがない。

 オウガの見た目が恐ろし気なのは事実なのだから、怖くて襲い掛かったと言えばまだ理解して貰えるものの、手配書持参ではオウガとしても「そうか、敵か」と殺すしかなくなってしまう。


「今日の人間もそうでやしたけど、連中自分たち以外を滅ぼす気なんですかねえ」

「さあなあ。ドワーフとは比較的仲が良いらしいが」


 火と金属の扱いにかけては天下一を自称するドワーフも中々の戦闘部族だ。

 硬い鎧と武器に身を包んだドワーフには流石の人間も敬意を払いその恩恵を与るしかなかったようだが……それもいつまで続くかレイシェントとしては疑問もある。


「まあ、この大陸までは連中も手を出さんだろう。此処は安全だよ」

「とは言いますがねえ……今日の人間、船に乗ってたんでしょう?」

「そう言ってたな」

「船で何処まで行くつもりだったのやら。まさか此処じゃないでしょうな」

「さてなあ。そうじゃないと信じたいところではあるが」


 どのみち、今日の人間と同様に船は魔族に沈められるだろう。

 先制攻撃が大好きなのが魔族だ、大人しく船の上陸を許すはずがない。


「どうしやす? 此処に住んでるのが魔族だったら」

「それは……どうしようなあ。魔族と気が合うかが問題だ」


 何しろ魔族は気分屋が多いしエルフも気分屋が多い。

 何よりレイシェント自身がかなりの気分屋だ。

 その時のノリで色々決めたりする奴同士が顔を合わせれば、何が起こるか口に出すまでもない。


「まあ、仲良くしてくだせえよ、そん時は」

「……努力はするよ」


 ハナコが言うなら仕方ない。レイシェントはそう思う。

 魔族と仲良くできるとはあまり思えないのだが、こちらが大人になれば問題ない話ではある。

 広い心をもって魔族と接しようと、そういうことを考える。

 まあ、この大陸に住んでいるのが魔族なら、という前提条件はあるが……。


「……はあ、寝るか」

「そんなに嫌ですかい、魔族」

「嫌だなあ、会いたくないなあ。出来ればオウガがいいよ」

「よっぽどオウガが好きなんですなあ」


 そんな事を言いあいながら夜は更けていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

スローライフオブザエルフ~人間に森を焼かれた最チョロ種族のエルフ、流れ着いた世界の果てで部下のゴブリンとスローライフを目指す~ 天野ハザマ @amanohazama

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ