ceathair

 オシーンの話は、アイルランドに上陸した神々と、彼らが残した四つの秘宝に関するものだった。彼の優雅な声とともに紡がれる物語は、聞く者を虜にする魔力がある。目の前で聞いていたメアリーも、あっという間に彼の世界へと引き込まれた。

「この国に眠る、秘宝の物語……。私、全然知りませんでした」

「ふふふ、ぜひ覚えておくといいよ。いつの日か、きっと見つかるからね」

 アップルパイの乗った白いプレートは、すでに空っぽになっている。アイスコーヒーもその黒を失い、透明な氷色に染まっていた。

「さてと、僕はそろそろ帰ろうかな。アップルパイ、美味しかったよ。本当にありがとう」

「こちらこそ、お話が聞けて楽しかったです!」

 お金を払おうとしたオシーンの目が、チラリとカウンターの方を向く。透明なケースの中には、アップルパイが一切れ、未だに手つかずのまま残っていた。

「ねぇ。メアリー。あのアップルパイ、僕に売ってくれないかな? 食べさせたい人がいるんだ」

「お持ち帰りですか? かしこまりました!」

 メアリーは手際良く、持ち帰り用の箱を組み立てる。その中に、食感の楽しいアップルパイと、おまけにチョコレートのカップケーキを入れた。

「はい、どうぞ! また来てください!」

 美しい彼は、その箱を愛おしそうに受け取った。その滑らかな長い手足に、メアリーの胸はギュッと苦しめられる。心の底から、また来て欲しいと願ってしまうほど。

「ありがとう。彼もきっと喜ぶよ」

 彼とは一体、誰のことだろうか。メアリーには分からなかったが、きっと大切な人に違いない。温かな家に帰って、この白い箱を開けて、二人で笑い合うのだろうか。

「じゃあね、メアリー。またどこかで」

 そう言い残すと、オシーンはドアをゆっくりとくぐっていった。明るい夜のアイルランドに、まるですっと溶けていくように……。

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