第14話 ペットショップはデートに入りますか?[2]

あれから子猫は順調に回復し、優里亜の強い意志で彼女が引き取ることとなった。この子の名はミミと名付けられることになる。優里亜はミミを灯火と遊ばせる名目で、よく灯火の家にミミを連れていき、遊びに行っていた。もっとも、その目的がミミのためであるかは甚だ疑問だが。


「今は家に帰ると必ずミミがお迎えしてくれるんですよ。お陰で毎日、毎日、家に帰るのが楽しみです!」


「それはやばいな、想像するだけで癒されるわ。」


「あーっ、あの子見てくださいよ!かわいいです。」


二人はペットの展示スペースに来ると優里亜は動物たちを見つけ、走り出す。どうやら彼女は動物達に目がないようだ。


「見てください、先輩。この子たち兄弟ですかね?そっくりですよ!」


「ほんとだ、お互いに毛づくろいしているな。もう見ているだけで癒される。」


「なんだかこの子たちを見てるとミミと遊びたくなってきました。」


優里亜は目の前で戯れている子猫たちに目を輝かせている。灯火も久しぶりにミミと遊びたくなったため、優里亜に遊びに来ないかと提案する。


「今度、ミミと遊びたいから久しぶりに内に遊びに来ないか?今から買うプレゼントも渡したいし。」


「えっ、良いんですか?」


「なんだよ、確かに最近は遊んでないけど、少し前は結構うちに来てただろ。」


「いえ、その、先輩から誘っていただいたのは初めてなので。」


「あれ、そうだっけ?そういえば、そうだった気もするな。まぁ良いじゃないか、喜んで招待するよ。」


優里亜は灯火から招待されたことが琴線に触れたのか満面の笑みでニコニコしながら体をくねくねしている。


「えへっ、えへへっ、先輩からのお呼ばれ♪」




「先輩、お邪魔します。ミミも連れてきましたよ。」


あの日から数日たち、優里亜は灯火の家に遊びに来ていた。優里亜の片手にはゲージを抱えており、ミミが顔をのぞかせている。優里亜がゲージの扉を開けるとミミが灯火の元に真っ先にかけて行く。そのまま足元まで来るとクルクルと周り、最後は頭を擦りつけている。


「久しぶりだなミミ、元気にしてたか。」


「ミャーン。ゴロゴロ、ゴロゴロ。」


灯火が頭や顔をなでるとミミは喉を鳴らし始める。どうやら久しぶりに灯火に会えてご機嫌のようだ。次第にリラックスしているのか、寝転がり、おなかを見せている。


「やっぱり先輩に一番なついてますよね、私には、おなかまでは見せてくれません。いい~な~。」


「動物は意外と賢いっていうからな、もしかしたら助けた時のことを覚えているのかもしれない。まったく、かわいいやつめ。」


「ミャーゴ、ミャ。」


ミミはまるで灯火に返事をするように鳴きだす。そこに、貝谷がお茶を運んでくる。


「灯火様、お茶をお持ちしました。あら、子猫ですか。おなかまで見せているなんて相当なつかれている証拠ですね。これでも私、猫には詳しいんですよ。」


「へーっ、知らなかったな。どうして猫に詳しいんだい?」


「私も実家の方で猫を飼ってるんですよ、ですのでよく知っているんですよ。」


貝谷も猫を飼っていると知り、優里亜はそちらが気になりだす。


「貝谷さんも猫ちゃんを飼われてるんですね。男の子ですか?女の子ですか?」


「2歳の女の子です。この子も可愛いですがうちの子には負けますね。」


そう言い、貝谷は自分家の猫の自慢をしだす。実家にいる猫のことを語っている時の貝谷は灯火が長い間接してきた中で一番のいい笑顔かもしれない。普段からどんなに怖い貝谷でも、こんな顔をするのだと灯火は貝谷の一面を知ることができた。


「分かった、分かった。貝谷の家の子の話は今度聞かせてもらうから。」


「そうですか?それは残念ですが仕方ありません。ですが灯火様にはうちの子の魅力を1週間かけてみっちり、たっぷり、お教えして差し上げます。もっとも、うちの子の魅力は1週間程度では語りつくすことなどできませんが。」


「はい、はい、分かったから。なんでいつも仕事をする時もこれくらい熱心にやらないのか。」


灯火は自身に対するいつもの貝谷の態度を思い出し、抗議をあげる。しかし、どれだけ猫のことを話し、幸せそうな貝谷でも灯火への辛辣な態度は健在だ。


「いえ、灯火様に接するのは仕事ですが、やりたくないことはやらない主義なので。」


「そんな性格でよくメイドが務まるな。」


「なんだか想像してたメイドさんと違う気がします。」


どうやら貝谷は優里亜の夢を壊してしまったようだ。ふつうは誰もこんなメイドを想像しないだろう。


「私は灯火様に雇われてはいませんので、灯火様の言うことは聞かなくても問題ありません。私にお給料を払わない以上は道端に転がっている石ころと同義ですので。」


「僕はこんなのが自分に仕えているメイドで悲しいよ。」


「そんなどうでも良いことよりも、優里亜様。この子を触らしていただいても大丈夫ですか?しばらく実家に帰っていませんので、久しぶりに猫成分を補給したいです。ぜひ、なでさせてください!」


「ええ、それは構いませんよ。」


貝谷は飼い主である優里亜の許可を取り、今も灯火の足元で寝転がっているミミに手を伸ばす。


「シャーア!」


すると、今まで灯火の足元でくねくねとさせていた尻尾をピンと伸ばし、しっぽ全体を膨らませて威嚇をしだした。


「ちょっと、なんで威嚇してくるんですか?さっきまであんなに甘えていたのに。」


「ぷぷぷっ、なんだよ、威嚇されているじゃないか。さんざん猫に詳しいなんて言っておいて、全然ダメじゃん。ミミはきっと、さっき貝谷が自分家の猫よりもかわいいって言ったのを理解しているんだよ。」


「あ゛っ、何か言ったか?」


貝谷が威嚇されたことに対して灯火が笑っていると貝谷が地の底から出るような声を出す。あまりの恐ろしい声のトーンに灯火はおもわず、ひれ伏す。


「いえ、何でもございません。貝谷様、なにも問題ございません!」


「絶対に私の知ってるメイドさんじゃないよ。はぁ~、せっかく先輩と二人で遊べると思ったのに。」


「ミャーン。」


優里亜のため息はミミだけに聞こえていたのだった。

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一年後、僕は君に愛していると伝えたい 創造執筆者 @souzousixtupitusya

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