第13話 ペットショップはデートに入りますか?[1]

「先輩、今日は付き合ってもらってありがとうございます。」


「そんなことないよ、僕も動物を見るのは結構好きだし。」


「そう言ってもらえると、ゆりも嬉しいです!」


今日は優里亜との約束の日だ。優里亜の頼み事は二人で一緒にペットショップを回ることだった。灯火も動物は結構好きなほうで癒されるため、気分が上がっていた。


「優里亜、そういえばミミは最近元気にしてるか?」


「元気にしていますよ、獣医さんに聞いた年齢ではもうすぐ1歳の誕生日です!一番やんちゃな時期ですね。」


「もうそんな時期か、何かプレゼントでも買っていこうかな。」


「ありがとうございます、ミミも喜ぶと思います。そういえば、先輩と出会えたのもミミのおかげでしたよね。」


「そういえばそんなこともあったよな。」




時はさかのぼり、今から10カ月前。その頃は梅雨入りもしており、天気はあいにくの雨。灯火はいつものように爺やの運転する車で帰宅していると、道すがら傘を差しながら、かがみこんでいる人を見つける。気分でも悪いのかと思い、灯火は爺やに車を止めるように指示を出す。


「爺や、車を止めてくれ!」


「どうしましたか?ちょっと、灯火様!」


灯火は車が止まるとすぐに傘を差し、車を飛び出す。爺やは灯火が飛び出していくなんて考えてもいなかったため、思わず声を荒らげる。


「あの、大丈夫ですか?気分が悪いのなら車でお送りいたしますが。」


灯火は傘をさしたままかがみこんでいる人間に声をかける。すると、目の前の人間が声に反応して、こちらに振り向く。どうやら、彼女は灯火の一つ下の後輩のようだ。灯火の高校では学年ごとに制服の一部の色が異なっているため、学年がすぐに分かるようになっている。


「あ、あの、ゆりは別に大丈夫なんですけど、この子が。」


そう言うと彼女は目の前にある段ボールに目線を向ける。灯火もその段ボールをのぞき込むと中で可愛い生き物が震えている。


「ミャーン。」


段ボールの中には小さな体で震えながらも必死で生きようとしている子猫が顔をのぞかせていた。その鳴き声はか細く、今にも力尽きてしまいそうだ。


「これは、捨て猫か。このままじゃ不味いな、この雨で低体温症になっているかもしれない。」


「はい、でもどうしたらいいか分からなくて。」


彼女はどうやら遭遇したことない事態にパニックを起こしているようだ、今にも泣きそうである。すると、ようやく後ろから爺やが駆けつけてくる。


「灯火様、急に飛び出されては困ります。おやっ、これはいったい?」


「爺や、説教は後だ!すぐにこの子を獣医に見せるから病院へ連れて行ってくれ!」


「は、はい。かしこまりました。」


灯火のただならぬ様子に爺やはすぐに駆け出し車を出す準備を始める。


「さっ、君も一緒に乗ってくれ。すぐに医者にこの子を見せに行こう!」


「わ、分かりました。待っててね、すぐに助けてあげるから。」


二人は段ボールごと子猫を車に乗せ、病院へと向かう。




「すみません、先生。この子が死にそうなんです。助けてください!」


病院の駐車場に着くと灯火は直ぐに子猫を病院に連れていく。急ぎつつも、子猫に負担がかからないように慎重に。


子猫の容態を確認した医師は最優先で処置を行ってくれた。賢明な処置によって峠は越えたようだ。しばらくは入院という形で経過を観察するようだ。


「あ、あの、ありがとうございます。あなたのおかげで、あの子の命を助けることができました。たぶん、ゆりだけだったら何もできずにあの子は死んでいたと思います。」


「なに言ってるんだよ、君があそこで子猫を見つけてくれたから僕はその存在に気づくことができたんじゃないか。あの子を助けられたのは君のおかげだよ。」


「えへへっ、そう言ってもらえると嬉しいです!あ、あの、私の名前は目黒 優里亜と言います。先輩のお名前を教えて頂けますか?」

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