第12話 同級生のお宅訪問[3]
灯火が目を覚ますとソファーに寝かされていた。どうやら気を失っていたらしい、部屋を見渡すと華怜がリビングのテーブルで勉強を始めているようだった。
「あら、起きたのね。起きたのなら、さっさと始めましょ。その前に紹介しておくわ、こっちは母よ。今日は母が勉強を教えてくれるわ。」
「灯火君、こんにちは。華怜の母の里奈(りな)です、さっきは華怜がごめんなさいね、この子ったら照れちゃったみたいで。」
「さっき?」
華怜母の言葉に灯火は気絶する前のことを思い出そうとするが、こちらをにらみつける華怜を見つけると、本能が記憶を遮断する。灯火は触らぬ神に祟りなしと何も考えず、今回の目的である勉強を開始する。
「いえ、何があったか、お思い出せないですか大丈夫だと思います。何故だか、僕が悪いような気もしますし。」
灯火は今、非常に困り果てていた。
(分からん、なんだこれ。どうして、点Pは動き出すんだよ。紙に書いてあるんだから動き出すわけないだろ。)
そう、だれもがみな、一回は経験する数学の問題、動き出す点Pに頭を抱えていた。灯火は数学が苦手なため、頭を抱えていると華怜母がそれに気づき、話しかけてくる。
「灯火君、何か分からないところがあるの?分からないところがあれば何でも聞いてね。高校生の勉強している所なら教えられるから。」
「ありがとうございます。実はこの問題が分からないんですが、どうしても点Pが動くことがイメージできなくて。」
「ああ、これね。これはこの式を使ってこう考えればいいのよ。」
華怜母は灯火に問題の解き方を教えるために灯火のすぐ横にかがみこむ。顔がかなり近づいていたため、灯火は問題よりもそちらに意識が行ってしまう。
「灯火君、聞いてる?」
「あっ、すみません。もう一回教えてもらっていいですか?」
「もう、仕方ないわね。もう一度、言うからちゃんと聞いててね。」
灯火は華怜母に目が行ってしまい、説明を聞いていなかったため謝罪をし、再び説明をしてもらう。今度はちゃんと説明を聞いていたため、内容を理解することができた。さすが本職の教師、とにかく説明が分かりやすく、灯火にも問題の解き方がイメージできた。
「ありがとうございます、ようやく理解できた気がします。」
「そう言ってもらえると、私も教えがいがあるわ。さて、いったん休憩にしましょうか。飲み物とお菓子を用意してくるわ。」
そう言うと、華怜母はキッチンにお菓子を取りに行く。彼女が出ていくと華怜が灯火に話しかける。
「さすがね、灯火君。人妻である同級生の母親にまで手にかけようとするなんて脱帽だわ。これ以上は私にはどうすることもできないわね。今日からお父さんって呼んだほうが良いかしら?灯火お父さん。」
「おい!確かにちょっとドキッとしたけど、そんな泥沼の争いに俺を巻き込もうとするな!それに、同級生が娘ってどんな複雑な事情だよ。僕はお前の頭の中に脱帽だよ。」
灯火はいつものノリで華怜のたわごとに突っ込むが、自分で言っていて不味いと思い出す。
「へーっ、私という存在が目の前にいるにもかかわらず、まさか母に熱心とわね。やっぱり、あなたの、その腐った性癖は人生をデリートしないと治らないようね。安心して、痛みの無いように一瞬ですべてを終わらせてあげるわ。」
華怜は両手のこぶしを鳴らしながら立ち上がり、一歩ずつ、灯火に向かっていく。そんな彼女に灯火はダラダラと汗をかきながら彼女に尋ねる。
「華怜さん、いったい何をする気でしょう?」
「一回、デリートするだけよ!」
華怜母がジュースとお菓子を持って帰ってくると灯火の顔にはなぜか傷が増えていたのだった。
時刻は夕暮れ時、華怜の家での勉強会は終了し、灯火は帰宅する。
「今日はありがとうございました。とても勉強になりました。」
「ふん、保険体育でも勉強してたんじゃないかしら。」
「私も灯火君とお話しできてうれしかったわ!また遊びに来てね、華怜ちゃんもこう言っているけど、タダの照れ隠しだから。」
「ちょっと!私は照れてないわよ!いい、灯火君、私は照れてないから。いいわね。」
「わ、分かったよ。肝に銘じておくよ。」
灯火は今度こそ華怜に気絶させられずに、生き残るのに成功したのだった。
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