第11話 同級生のお宅訪問[2]
ピーンポン。灯火は先日、約束していた華怜の家での勉強会のために彼女の家を訪れる。家の中からドタバタと足音が響いてくる。
「はーい、どちら様ですか?」
インターホンからは女性の声が聞こえるが、どうやら華怜の声ではないようだ。おそらく華怜の家族の1人だろう。
「華怜さんの友達の峰鷹灯火と言います。今日は一緒に勉強をする約束をしていたのですが。」
「灯火さんですか?ああ、華怜ちゃんがずっと好きだって言ってた人ね。開いているので入っちゃっていいわよ。」
「ちょっと、なにやってるの!ママは余計なこと言わないで、さっさと勉強の用意してよ!」
「良いじゃん、私も華怜ちゃんの好きな人と話してみたいよ!」
インターホンの向こうでは灯火に聞こえていると思っていないのか二人が言い争っているが、全部、丸聞こえだった。
「あのー、お邪魔していいですか?」
灯火が話しかけるとようやく、インターホンのマイクの電源が入っていると分かり、華怜は焦り出す。
「と、とりあえず入ってきてちょうだい。それと、今の話は忘れなさい、良いわね!」
「あ、あぁ。分かったよ、とりあえず忘れることにするよ。」
「絶対よ、絶対。忘れないなら、物理的に忘れさせるわよ。」
「忘れた、記憶力悪いから、一歩も歩けば忘れるんだ!」
灯火は身の危険を感じ、今の話を忘れたことにした。
「お邪魔しま~す。」
灯火は早速、華怜の家にお邪魔する。玄関には華怜がいたが、その少し後ろのほうに、ひょろっと顔を覗かせている女性がこちらを見ている。声の若さからして、おそらく、その女性が先ほどのインターホンごしに話していた人だろうか?
華怜からは部屋に入るように言われるが、灯火はそのことが気になり、華怜の後ろに目を向ける。
「いらっしゃい、灯火君。さっ、上がって頂戴。」
灯火がいつまで経っても返事を返さず、自分の後ろに目を向けているため不自然に感じた華怜は振り向く。
「ママ、なに見てるの!勉強の用意をしておいてって言ったわよね!」
二人の会話からして後ろでこちらを見ている女性は華怜の母親なのだろう。華怜は母親がこちらをじーっと見ていることに対してアタフタしだす。灯火はそんなことよりも、いつも冷静な華怜がここまで動揺を見せるのが面白く、笑い出してしまう。
「ぷっ、ぷはははっ。今日はどうしたんだよそんなに慌てて、華怜らしくないぞ。それに、ママって、ぷっぷっ、華怜らしくねぇ~。」
灯火は我慢ができなくなって笑い出してしまうが、さすがにママの所でいじったのはまずかったのだろう。華怜は今までに見たことないくらい顔を真っ赤にして、地震でも起きているのかというくらい震えている。
華怜は一歩、また一歩と灯火の元に踏み出していく。ただならぬ華怜の威圧に灯火は本能的に恐れをなし、華怜が一歩を踏みこむと灯火も一歩下がるといった構図が出来上がる。しかしここは玄関だ、灯火の背中はすぐに玄関ドアに突き当たり、これ以上逃げることはできない。
「お、おい、華怜。一回落ち着こう、話せばわかるよ。言葉は人類の財産だろ、それを使って解決しよう。」
しかし灯火の話に耳を貸す華怜ではない。聞き手を握りしめ、腰のほうに引き寄せ、一気にその一撃を灯火のみぞおちに叩き込む。今までチェスしかやってこなかった華怜とは思えないような、見事な正拳突きが炸裂する。
その一撃に灯火の意識は途切れてしまった。
「あちゃー。」
後には後ろで覗いている女性のあきれ声しか聞こえなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます