英仏の事情

 フランス大使の指摘にマクドナルド大使は面白くなさそうに黙り込んだ。

 ボーア戦争でドイツの商船を臨検したイギリスに対する不満からドイツは第二次艦隊法を成立させ、海軍の増強を行った。

 1917年までに戦艦を38隻建造する方針で、イギリス海軍ほどではないが無視できない勢力になっている。

 このため、イギリスは本国周辺に戦艦を集める必要が出てきた。

 極東も例外では無く、東洋艦隊からも戦艦を引き抜いている。

 抜けた穴は、日本海軍に任せる予定だ。


「しかし、それはフランスも同じでは」


 今度は面白くなさそうにフランス大使が顔を逸らした。

 ドイツと国境を接する上に、モロッコでドイツといざこざがあったためドイツと関係が悪化している。

 イギリスと組んで対抗する必要がある。

 さらにイタリアとの関係も悪くなっている。

 軍備増強のためアジア海域からフランスも戦艦を引き上げている状況だ。

 抜けた分は日本に頼る他ない。

 だから強がりを言う。


「本国を守る必要があるのは分かります。ですが、英国海軍の方針を全員が歓迎する事はないでしょう」


「日本は頼れる同盟国だ」


「そう思っていない国は大英帝国の中にも多いのでは」


 フランス大使に図星を指されてマクドナルドは黙り込んだ。

 大英帝国も一枚岩ではなく、日本との同盟を疎ましい、日本に脅威を抱いている国がありそれが、オーストラリアとニュージーランドだ。

 白豪主義と呼ばれるほど変質的な白人優先主義のオーストラリアは特に顕著で、有色人種の日本が白色人種のロシアを破ったことは、彼らの安寧を脅かすものだ。

 遙か遠いと言っても日本が南へ向かってまっすぐ進めばオーストラリアに来てしまう。

 しかも、フィリピンがアジア周辺の植民地の独立は支援を行っている。

 いずれオーストラリアにも日本がやってくるとオーストラリア政府は恐れていた。

 なのにイギリス本国は、艦隊を東洋から本国へ移した。

 戦時には艦隊を派遣すると言っているが、本当にやってくるかは怪しい。

 そもそも行動できるのだろうか怪しい。

 先も言ったとおりイギリスは東洋に大規模なドックを持っていない。

 あるのは日本だけ。

 極東の有事の時艦隊が派遣される時の支援基地としての役割を英国は日本に求めている。

 つまりオーストラリアが危機にさらされた時、日本に助けを求める方針もオーストラリアは気に入らない。

 もし日本が攻めてきた時、誰が守ってくれるのだ。

 このような事情から、オーストラリアにとって白色艦隊は希望の光だ。

 いざというとき、日本がオーストラリアへ攻め込んだ時、合衆国が艦隊を派遣してくれるとオーストラリアそしてニュージーランドは考え、白色艦隊のシドニー及びオークランド寄港を直接アメリカに求めた。

 それが、イギリスの逆鱗に触れた。

 本来なら本国と協議をした上で、寄港を要請するべきなのに、オーストラリアとニュージーランドは本国に相談もなく寄港要請をアメリカに直接出したのは大英帝国の一員としてルール違反だ。


「断固として抗議するべきである!」


 英国植民地省次官、ウィンストン・チャーチルが激怒したとも伝えれている。

 しかし既に、米国は承諾したためイギリスは同意するしかなかった。


「役に立つとは思えないが」


 ハワイが反米のため、オーストラリアへ向かうのは困難だ。

 途中に最適な寄港地がハワイしかないため、どうしても到達できない。

 アリューシャン経由になったのも石炭の補給の為に静かな湾が必要だからだ。

 アジア海域へ行くにはどうしても日本を通る必要が出てくる。


「ですが、アメリカ海軍も愚かではありません。補給の為に給炭艦の建造を議会が承認したそうです」


 艦隊の現状を乗艦した記者達が報道したため艦隊の内情は多少センセーショナルに書いていたが、合衆国内で危機感を持って語られていた。

 議会も重い腰を上げて、海軍の増強を許可し、給炭艦の建造を認めた。


「今後は増強されるでしょう」


「今後、アジアで日本とアメリカを無視することは出来なでしょう」


「アメリカを仲間に引き込みたい国が多いようですからね」


 白色艦隊司令長官を囲むドイツと清の外交官を見て呟いた。

 

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