白色艦隊を利用する日本

 少数の艦隊に分かれてだが、白色艦隊は艦隊を分割して日本が日露戦争で得た大連港に入港していた。

 特に日本の租借地であり、満鉄の玄関口でもある大連に入港したのは日本側の交渉による賜物だった。

 大連への入港により日本が日露戦争で得た権益をアメリカが認めたことを世界中に示すことが出来た。

 特に、貸主であり、満鉄の存在を心良く思っておらず、満鉄の奪回、無理なら平行線の建設を考えている清王朝への打撃となった。

 アメリカとしては中国を刺激したくなかったが、この航海の目的である日本との友好のため日本が強く要請した上、満鉄の株を持つアメリカの財界が強く大連寄港を求めたため、入港せざるを得なかった。

 これは、海援隊のロビー活動により清国が満鉄の回収に動いている、牽制するために白色艦隊を寄港するべきだ、とワシントンで語ったことも大きい。

 仕方なく白色艦隊は戦艦四隻の艦隊を大連に派遣した。

 一部とは言え白色艦隊が大連に入港した効果は大きく、清国は満鉄に関して日本とアメリカが一致している事を思い知らされ、がっくりとうなだれた。

 だが、このことは日本がアメリカに対して影響力を持っていることを示すことになった。


「アメリカほどではないが日本は力を付けすぎていると言った方が良いでしょう」


「やれやれ」


 マクドナルド駐日大使は溜息を吐いた。

 義和団の乱の時、総司令官として北京で籠城した時、援軍の到来だけをひたすら願った。

 幸い、居留地の武器弾薬を含む物資が豊富だった。

 だが、それらは全て海援隊がもたらした物だった。

 そして救出のために赴いた最初の部隊は海援隊だ。

 あのときは救世主に思えたが、今では得体の知れない化け物だ。


「植民地への独立運動支援も目に余るところがある」


 海援隊とフィリピンが中心となって、英仏の支配下にある植民地の独立運動を支援している。

 表向きには否定しているが、海援隊や帝国陸軍の外人部隊が各植民地の独立派の隠れ蓑、いや教育機関となっている。

 彼らは外人部隊兵として日本軍に入り、日本式の教練を受ける。

 素質のある人間は、途中から下士官、士官に推薦される。

 満期除隊した時にはいっぱしの兵隊、士官が生まれる。

 彼らは、帰国すると独立派の指導者層となり、植民地政府へ独立の訴えを起こす。

 鎮圧しようとしても、彼らは反発し武力蜂起する。

 武器弾薬は外人部隊時代のツテを頼れば手に入る。

 武力鎮圧しようにも植民地軍の戦力では、正規軍並みに鍛えられた彼らを制圧できない。

 本国から増援を送って何とかするしかないが、地元が彼らの根拠地であり鎮圧には月日が掛かる。

 その間の駐留費は莫大となり、植民地から上がる利益を溶かしてしまう。


「日本の勢力下拡大を良しとしない勢力は多い」


「英国も歓迎していないでしょう」


「我々は、日本と同盟を組んでいる。アジアは日本に任せる」


「ドイツが海軍の増強を行っていますからな」


 平和な今なら石炭をはじめとする補給に問題はないだろう。

 だが、戦争時はどうか。

 日本や海援隊との関係を損ねたらバルチック艦隊のように各所で足止めを食らい、疲弊した状態で戦闘をしたあげく壊滅しかねない。

 アジアに根拠地を持たず、補給線を維持するための中継地もない。

 本来ならかつてアメリカが狙ったフィリピンとハワイがその役目を担ったのだろう。

 だが、フィリピンは米比戦争敗北で失い、ハワイはクーデターに失敗して、両者とも敵対関係にある。

 アメリカがアジアで活動するには戦争を行うには制限がありすぎる。


「およそ太平洋を制覇できるような艦隊ではない。少なくとも日本と海援隊を敵に回せるような力はアメリカにはない」


「つまり、日本、いや海援隊がアジアの要である事を示したのですな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る