白色艦隊来日
「この艦隊の意味を知っていますか」
マクドナルド初代駐日大使は東京湾に浮かぶ米国艦隊、白色艦隊を見て駐日フランス大使に言う。
「英国に先立ちこれだけの艦隊を世界一周さる、というのがご不満ですか」
白色艦隊は全てアメリカ国内で建造されてから十年以内の最新鋭の戦艦一六隻を主力とする将兵一万四〇〇〇名が乗り込む大艦隊だ。
これが太平洋を横断するだけで歴史的快挙だ。
大航海時代から、世界各国に艦隊を送り込みドレーク以来何度も世界一周を成功させたイギリスだが、このような規模の艦隊で行ったことはない。
そのため、先を越されて面白くないのは事実だ。
白色艦隊が最初の寄港地であるイギリス植民地のジャマイカに寄港した時、現地の総督が歓迎行事を簡素にしたのは不満の表れだった。
「そのような意味ではない。この艦隊が世界にもたらす影響だ」
「あなたと同じ意見だ」
駐日フランス大使は静かに答えた。
確かに立派な艦隊だ。
もし何かあればアジアに艦隊を派遣する用意があることをアメリカは示した。
「彼らが来たのは日本への牽制と友好の強調、そして列強に対する中国の門戸開放ですな」
中国の利権をアメリカに与えなければ、機会を与えなければ無理にでも艦隊を派遣して認めさせると言う意味だ。
その意味では脅威だ。
「まあ、日本も米国に対抗する姿勢を見せていますが」
対する日本側も迎え撃つ、その威容に劣らないよう艦隊を揃えていた。
日露戦争を戦った主力艦、前弩級戦艦八隻、装甲巡洋艦八隻、弩級戦艦四隻、巡洋戦艦四隻、さらに就役したばかりの摂津級超弩級戦艦二隻もある。
戦艦の数だけで、アメリカ艦隊を圧倒している。
「まあ、日本側も無理をしているが」
日本側は数を揃えるため解体あるいは売却交渉を進めていた艦艇の引き渡しを一時的に先延ばしして今回の観艦式に並べていた。
前弩級と装甲巡洋艦に関しては完全に時代遅れだ。
しかも、一部は経費削減の為に海援隊へ運用を委託した艦艇も含まれており何隻かは二曳きの旗を掲げている」
何とか白色艦隊に対抗しようと日本海軍は艦隊をかき集め東京湾に集結させた苦心が見える。
「今回の来航で北への防備を固めるべきだという声が日本海軍には上がっています」
今回の来援でアメリカが北太平洋ルートでやってくる可能性が認識され、北方防備、大湊から千島列島、カムチャッカ半島、アリューシャン、アラスカの重要性が改めて指摘された。
今は海援隊が領有しているアラスカだが、米国の脅威を前に、いずれ日本政府が保有しようと考えていた。
アメリカの侵攻ルートという事もあるが、アラスカの金鉱脈――日本の金準備の大本になっているため、必要不可欠だ。そして石油の存在も日本が確保するべきだと言う声があり、本格的な領有と防備を固める方針になりつつある。
「それどころか日本海軍はアメリカ海軍に対抗するためアメリカを仮想敵国として艦隊の整備を主張しましたな」
戦力的に凌駕していたが、いずれアメリカが本気になれば、日本海軍を上回る海軍を、弩級戦艦、さらには超弩級戦艦を作り出す。
現にアメリカの本国では弩級戦艦の建造が始まっており、いずれ日本海軍を凌駕する。
そうなる前に増強しようと東郷元帥を中心に艦隊整備を主張する声が上がっていた。
「ですがそれは軍務省によって否定されたでしょう」
東郷達の声を否定したのは設立された軍務将と統帥本部だった。
陸海軍の主張、ロシアの復讐戦に備えて大陸進出と陸軍軍備増強を主張する陸軍、アメリカの太平洋方面への増強を鑑みてアメリカを仮想敵国として備えるべき、と言う主張が上がった。
もし陸海軍並立ならどちらも主張を引っ込めず、自軍の勢力維持と拡大のため、自分の意見を認めさせるため相手の意見を認める、陸軍と海軍で仮想敵国が違う事態になりかねなかった。
しかし彼らを統括する軍務省と統帥本部は違う。
天皇を補弼し帝国の国防方針を定める立場上、帝国を二分、別々に戦力を増強する余裕など無かった。
むしろ戦争後の疲弊により軍の維持も難しい。
軍縮を行い、捻出した予算で国力を涵養する時期であると考え、帝国の勢力維持と周辺の安定を第一に考え、アメリカとロシアは外交的に友好関係を保ち敵対しない事とした。
勿論万が一の備えはするが、軍備は最低限とする方針だ。
「日本も戦争で疲弊しましたからね。ここが限界でしょう」
「だが無視は出来ません」
軍縮を行っても、アジア唯一の近代国家であり最強の軍を保有していることに間違いは無かった。
「むしろ、日本の艦艇より参加した他国の艦隊が興味深い」
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