白色艦隊編成
日本国内にはアメリカ資本が入る事を良しとしない風潮がある。
満州で血を流したのは日本なのだから、日本が満州の利益を独占するべきと言う声も大きい。
その声に負けて、アメリカでの株式の販売は当初の半分に抑えられ、代わりに会社社債、会社が直接投資者に借金する事にした。
議決権のない金利配当のみの債権だが、確実に儲けを出していることから安定資産として注目されており、販売は順調だ。
しかし、株式ではないため、議決権がない。
アメリカの思惑通りに経営することが困難な状況だ。
だが出資したのはアメリカであり権益を守らなければならない。
日本に履行を強く求めるため、実力があることを示さなければならなかった。
「それに最近日本は、中南米への投資や兵力派遣が多い」
モンロー主義、アメリカ大陸に他国の支配を受けいれない、という考えにより中南米をアメリカ合衆国が支配しようという考えが強い。
中南米はアメリカの裏庭という考えだ。
当初はそれほどの国力が無かった。そのため中南米への影響力は低かった。
だが、南北戦争の後アメリカの経済発展により国力が増大。
経済的な影響力が強まり、中南米の欧州資本を買い占める事が進みつつあった。
海上兵力に関しても国力増大により艦艇の建造数が増加。
多数の艦艇を展開できるまでになっている。
以上の理由からモンロー主義は実効性を増しており、南米はアメリカの裏庭となりつつある。
だが、ここに来て日本が特に海援隊が中南米へ進出を行っている。
コロンビアへの影響力増大、価格が暴落したコーヒーの買い取りによる援助や千日戦争――三年続いたコロンビア内戦への政府側への武器援助、特に弾薬の増産は日露戦争時に日本が軍に豊富に弾薬を供給する体制を整える事が出来るほど拡大していた。
これらの影響力が広まるのは宜しくない。
特に、パナマの独立に対しての鎮圧活動にコロンビア政府を支援して潰されたのが痛い。
最近はコロンビアへの軍艦売却計画もあり、コロンビアが手に負えなくなるのは困る。
お陰でパナマ運河計画は停滞ぎみだ。
その一方で海援隊はニカラグアに独自の運河計画を立てている。
火山の噴火で中止したのに欠航するとは愚かしいと考えている。
せいぜい、アメリカから機材を購入して潤して貰うつもりだが、ニカラグアへの影響力が大きくなるのは都合が悪かった。
他にも軍艦売却を計画しており、ニカラグアへの兵力派遣が困難になるのは避けたい。
「牽制の意味でも艦隊を送らなければならないのだ」
日露戦争で勝利した日本、特に海援隊に釘を刺す必要があった。
「それに連中は西海岸にも進出しつつある」
日露戦争後も日本は貧しいままだった。
新天地を求めて移民する日本人が後を絶たない。
その移住先の一つがアメリカの西海岸だった。
だが、押し寄せる日本人を前に、西海岸の住民は恐怖した。
日本に占領される、と声高に訴えているが、実際は移民に職を奪われるのが嫌なのだ。
そのため排日法、日本人の移民制限を施行している。
実際は、日本が自主的に対米移民を制限していた。
そして移民の向かう先が朝鮮半島や満州へ移っていたし、中南米方面へ向かう日本人移民も多くなり法律が出来る前に移民の数は制限数より下回った。
しかし西海岸の住人は、東郷の艦隊がやってくるのではないかと恐れている。
西海岸の住人を安堵させるためにも艦隊を太平洋へ移動させる。
合衆国は西海岸を見捨てない防衛する姿勢を示さなければならないのだ。
「さらに、英仏などへの圧力にもなるだろう」
アヘン戦争以来、中国に権益を持つ英仏に市場開放を、その気になれば武力で解放することも出来る事を示したかった。
これこそ、砲艦外交だった。
「圧力が強すぎて彼らが警戒し戦争になりませんか」
「表向きは西海岸への艦隊移動訓練だ。そのため、全ての艦は塗装を白色とし、戦闘を目的としないことをアピールする」
レーダーのない当時は、船を見つけるのに目視に頼っていた。
特に白は青い海と空でよく見えるため、好んで使われた。
しかし、よく見えるため軍艦は敵に見つからないように鼠色に塗装するのが通常だ。
そこをあえて見えやすい白で塗装する事で戦闘を目的とするものではない事をアピールするのがルーズベルトの狙いだ。
「合衆国の為にも私の艦隊を派遣しろ。これは大統領命令だ」
ここに決定は降った。
だが命令を受けた海軍長官は、それがどれほど途方もなく困難な事業である事か理解している。
勿論艦隊を派遣する意味があることは分かっている。
大統領の言うことももっともだ。
だが、実現するには非常に困難な問題を多数抱えている。
周回途上の燃料補給に食糧補給、乗員の士気維持、艦艇の整備など、やる事は山積みだ。
その解決に自身が頭を抱えることになるのは目に見えている。
とんでもない仕事を命じられたと海軍長官は嘆いた。
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