ドゥーマ――国会開設
ゲオルギーは苦笑しながらニコライ二世に答えたが、自分の布告文があれほど支持されるとは思っていなかった。
先の捕虜への布告文は好きな日本のアニメに出てきたものだが、捕虜となったロシア軍将兵への受けが良かった。
多くの将兵は軍への復帰を希望。それもゲオルギーの部隊への配属を希望した。
こうした希望者が集まり、ゲオルギーの元にいる部隊は規模を拡大し二〇万を超えた。
これらの部隊はゲオルギー親衛軍と呼ばれ、同じロシア国民を相手にした内戦でもゲオルギーの指示に従い、容赦なくデモ隊を粉砕した。
それだけゲオルギーに対する信頼と忠誠が篤かった。
しかも、他のロシア軍の部隊にもゲオルギーの支持者がいる。
ロシア軍も戦争で疲弊しており、ゲオルギー親衛軍ほどの部隊はいない。
かれらは歴戦の兵士ばかりで、練度と兵力で他のロシア軍部隊は太刀打ち出来ない
様々な理由により復帰しなかった者もいたが、彼らとその家族は多くがゲオルギーの支持者となった。
下手にゲオルギーの周囲を粛正すれば、内戦より大規模な反乱が起きかねない。
ツァーリであるニコライ二世さえ、国民の支持と忠誠を誓う部隊の多いゲオルギーを無視する事は出来なかった。
この圧倒的支持を背景にゲオルギーはニコライ二世に迫った。
「陛下、国民の不満を和らげるためドゥーマの開設と憲法の制定を」
「皇帝に対して反旗を、ロシア帝国に対して銃口を突き付ける気か」
専制君主制のロシア帝国においてロシア皇帝の権力は絶対であり、神聖不可侵である。
それを憲法の制定によって制限するのだ。
僅かな権限を黒海に委譲し、憲法で権限を規定するだけだが、これまで無かったことであり、ロシア帝国の国体を揺るがす事態だ。
ゲオルギーも理解している。
しかし押し通さなければならない。
「ですが、ドゥーマを開かなければ、国民の声を聞かなければ収まらないでしょう」
武力鎮圧したが、不満は残っている。
それに交渉で鎮めたのは国会開設を条件にしたからだ。
彼らの期待に応えるためにも、再び大規模な内乱が起きないようにするためにも、ここでゲオルギーは退くわけにはいかない。
ニコライ二世にゲオルギーは迫った。
「与えられた権利が保障されなければ、継続して生活が向上することを、ロシア帝国が努力することが保証されなければ人々は不信感を生むでしょう」
「ツァーリの言葉が信用できないというのか」
「農奴解放令が下されても、農民の生活は、環境は変わりませんでした」
前世紀に農奴制は廃止されたが、農奴から解放されても農民は財産はなく土地に縛られて生きていくしかなかった。
他の道を探そうにも教育を受けていない彼らは他の職にも就けない。
一部は自らの才覚で脱出したがごく一部であり、大半は農奴の頃と何ら変わらない。
「明るい未来があると、ロシア帝国が国民の為に尽力することを明文化し約束しなければなりません。人々は苦しい生活をずっと強いられてきたのですから。帝国が保証しなければ人身は離れるでしょう。また国会で人々の苦境を知ることが出来なければ、伝えることが出来なければ民衆の心は離れていくでしょう」
国会は法を制定するが、その前提として国民の声を現状を話す機会である。
これまで人々が権力者に訴えかける機会は非常に限られていた。
普通に直訴しようものなら死刑を含む処罰が普通だった。
訴えを聞くだけで名君というのも当然だ。
人々の不満を聞き入れ改善するための場が、国会が必要だった。
実効性を持たせるためにも、国会に権限の委譲は必要なのだ。
それを知るゲオルギーは一歩も退かず、ニコライ二世もはね除けることはできない。
「……わかった」
ニコライ二世はゲオルギーの言葉に従うほか無かった。
「前より移される権限や制限が多いようだが」
渡された国会の内容が年初に示された案より厳しいことにニコライ二世は気がついて尋ねた。
「内戦で人々は倦み疲れています。新たな権利を保障しなければ納得しないでしょう」
「恥ずべき事だ。これなら一月の宣言に同意すれば良かった」
ニコライ二世は嘆いたが既に遅かった。
そして他に現状を打開する方法はない為、承認のサインを書いた。
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