ゲオルギーへの詰問
「ゲオルギー、これはどういうことか」
サンクトペテロブルクへ戻ったゲオルギーはニコライ二世に呼び出され、詰問を受けていた。
ニコライ二世にゲオルギーへの不満があったためだ。
「このような不名誉な条件で講和するなどロシアの恥だ」
満州から叩き出され、沿海州とオホーツク海沿岸部、カムチャッカは奪われた。
国の一部を渡すなど、とても認められる様なものではなかった。
「ですが、これ以外に講和を成立させる方法はありませんでした」
「小国に負けるという恥をロシアに与えたことが問題なのだ」
「ロシアが割れる事を避ける為です」
ゲオルギーに言われてニコライは黙り込んだ。
日本との戦争を終わらせたゲオルギーは指揮下の兵力とシベリア鉄道の機動力を使い、ロシア各地のデモや武装蜂起を迅速に鎮圧していった。
最初の鎮圧で厳しい対処、武力制圧を見せた。
戦争のような正面からの攻撃により小火器で武装した程度の蜂起勢力は短時間で制圧され、壊滅した。
ゲオルギーのやり方に他の勢力は震え上がった。
あとは武力を背景にした蜂起勢力との話し合い、彼らの不満を聞き入れつつ改善を約束して過度な要求にならないゲオルギーは限り受け入れた。
まさに飴と鞭。
ゲオルギーの進む先の革命勢力は次々と瓦解。対抗してもゲオルギーの圧倒的な兵力を前にねじ伏せられていった。
鮮やかな対処によりロシアの内戦は急速に収まった。
だが、ニコライ二世はゲオルギーの手法が気に入らなかった。
鎮圧は良かったが、皇帝の権力を著しく制限するようなやり方、皇帝の絶対権力を傷つけるような行いには不満があった。
しかし、ゲオルギーの兵力が無ければそして彼がいなければ鎮圧はなせなかったため、強く非難することも出来ない。
「だが、捕虜への処遇は温情が過ぎる」
そしてゲオルギーの元捕虜への扱い。
捕虜解放が行われた直後、ゲオルギーは自身の名前でこのように布告した。
「ロシア帝国の為に奮戦し惜しくも降ることとなった忠勇なロシア軍兵士に極東総督ゲオルギーの名を以て、ロシア帝国は名誉にかけて次のことを約束する。
一つ、捕虜となった事を責めるが如き悪習、慣行は全面的に排する。違反した者は階級を問わず厳罰に処する。
二つ、帰還した兵士諸君は全員に休暇と一時金を与える。帰郷し家族と再会した後は、自らの意志と希望に基づき軍への復帰か否かを決めることが出来る。軍に残ることを強要することは一切無い。
三つ、復帰するか否かを問わず、全員を一階級昇格させる。退役者も新たな階級を元に恩給を支給する。
我が兵士、いや英雄諸君。君らは何ら恥じることのない勇戦敢闘を行いロシア帝国に尽くし戦った。敗北の汚名と不名誉は、強欲で無能な前極東総督とその一派に帰せられるものであり諸君らはその被害者であり責めを受けるいわれはない。
諸君、胸を張って帰国せよ。我がロシア帝国は君ら祖国の英雄を温かく迎え入れる。このゲオルギーも貴官らの英雄的奮戦に頭が下がる思いであり、無事の帰国を喜ぶ。
また、ロシア兵の早期帰還を許可した大日本帝国に対しても感謝の言葉を述べるものである。
極東総督 ゲオルギー」
このゲオルギーの布告にはロシアの内部からも不満があった。
「まるでロシア帝国を批判するようではないか」
「実際にそうでしょう」
ゲオルギーは事もなげにいった。
「前総督アレクセーエフをはじめとする一派により日本への過大な要求と朝鮮半島への不法侵入によって不要な戦争が始まりました。このたびの戦争を引き遅き重大な損害を与えた事は非難するべきでしょう」
「むう」
ニコライは黙り込んだ。
ゲオルギーのやり方を批判するのは、アレクセーエフなど対日強硬派の残党が殆どだ。
多くは自分の失策を取り繕うために非難しているだけで責任転嫁だ。
だが、声はそれほど大きくない。
戦火を上げたのが皇族であるゲオルギーであり、日本軍に対して勝利した数少ない指揮官だからだ。
敗北だらけのロシア軍指揮官に発言権は無かった。
しかも、支持層が厚い。
「其方の軍は独自に軍を編成していると聞くぞ」
「何故か慕われましたので」
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