経営参加の意味
龍馬の言葉に小村は黙り込んだ。
満鉄防衛以外の軍隊輸送、軍事利用など、侵略、中国北部かシベリアへの出兵しかない。
確かに周辺の安定は必要だが度を過ぎれば侵略になるし、いらぬ出費が嵩む。
なによりウクライナ侵攻のように国際社会から総スカンを食らいかねない。
欧米の資本参加は、そのような侵略行為の抑制を念頭に置いた物だ。
小村大臣は支那通のため、清王朝が衰退しており滅亡は免れないと考えている。清国の権益を、欧米列強に奪われる前に日本が確保するべきと考えているのだろう。
そのために軍事利用も出来る用に日本が満鉄を握りたいのだろう。
だが、下手な勢力拡大など破滅への第一歩であるので許すことなど出来ない。
だから欧米には資本参加して貰う。
しかし、小村大臣はまだ執拗に食いついてきた。
「しかし、それだけの資本を得る必要があるのですか。国内の鉄道産業を活発化させるためにも日本が独自に行うべきでは」
「今言ったとおり、日本だけで車両や施設を賄うのは無理じゃ」
実際、史実より早く、戦争前に鉄道国有化を行っていた日本だが、各私鉄の雑多な車両を統一するだけでも大変な事業で国内の鉄道網整備さえ行えていなかった。
国内の運輸需要はうなぎ上りであり、国内を満たすだけの国内生産も足りない。
ここは新興国日本の泣き所だった。
「初めはアメリカ製を大量購入して乗り切り、順次国産へ移す」
「長い年月を掛ければ良いのです。日本の生産能力もいずれは向上するでしょう」
「車両はそれで良いじゃろう。じゃが経営をよくするために、早期に車両の大量取得は必要じゃ。早期に根幹事業である鉄道運送業を充実させ、大量販売先を手に入れる必要があるんじゃ」
「販売先ですか」
龍馬の思わぬ言葉に小村は疑問符を浮かべるが、龍馬は答えるかわりい質問した。
「小村大臣。満州の主な産物は何じゃ?」
「大豆ですね」
支那通の上、日清戦争で民政官として従軍した小村は満州の産業に詳しかった。
「大豆そのものや、絞った油、その絞りかすは飼料になり世界中に売れます」
「その販売先を開拓するのに欧米には資本参加して貰うんじゃ」
「どうしてですか」
「資本を提供することは経営に参加すること、経営は会社が儲かるように動く必要があるんじゃ。それは資本の提供者も同じじゃ。出資者にも満州の産物の売り込みをして貰うんじゃ」
日本では一時期株の持ち合いを批判されたことがあった。
経営者同士が互いをかばい合い経営に問題が発生したためだ。
だが、資本参加した会社の業績を上げるため、取引相手を紹介するなどの手助けをする。
「欧米に大豆を初めとする満州の産物を買って貰い、売り上げを伸ばすためにも資本参加は必要じゃ。日本単独でやるより遙かに大きな利益となるじゃろう」
「しかし、欧米が乗っ取りを謀ったら」
「そのために、アメリカだけでなくイギリスやフランスも巻き込むんじゃ。一カ国が独占しないよう監視しあうように仕向けるんじゃ」
一人が勝手な事をしていないか、二人三人と参加させ監視させる。
おかしな提案や独りよがりの計画は株主同士が牽制し合って、押しとどめるように仕向ける。
これも株式発行の狙いだった。
「再び戦争になった時、軍事輸送が筒抜けになりますが」
「満州の安全こそが満鉄の利益、資本参加者の利益じゃ。満州防衛の為に、軍事輸送を許すでしょう」
「ですが、戦争が起きた時に影響が」
「最大の利点は、戦争が起きなくなる事じゃ」
「どうしてです」
「欧米列強の資本が入った鉄道に損害を与えれば、与えた国の行為を欧米列強は激しく糾弾することになる。とても戦争などできんじゃろう」
アヘン戦争やアロー戦争、そして義和団の乱で利権を侵害された列強は軍隊を派遣し中国を懲罰した。
そして二十世紀の初め頃は、列強が自国の権益を守るために小規模ながら紛争が多発していた。
各国は火種となることを恐れていた。
本国から遠く離れた満州で儲かるならともかく、火種となって戦火を被るのは嫌だろう。
だから欧米は満鉄が平穏に保たれることを望むはずだ。
「各国が資本参加する事で、満州の平穏が保たれるのじゃ。満州の門戸開放もなり、諸外国に開かれる。世界中から満州に金が集まり繁栄するじゃろう」
「しかし、欧米の商品が進出して日本の市場がなくなるのでは」
「それは大丈夫です」
小村の懸念に鯉之助が答えた。
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