満鉄の株式

 ロシアから東清鉄道を継承した日本だが、沿線が戦場となったため荒れ果てている。

 双方の破壊工作活動で鉄道橋が破壊されたり、操車場などが荒れている。残った車両も戦時中の酷使でボロボロになっているものもある。

 それにロシア側だった箇所はロシア広軌のため朝鮮や中国の鉄道と結ぶには標準軌へ改軌する必要がある。

 そして改軌した鉄道に走らせる車両が足りない。


「これでは新会社は開業時にスタートダッシュ、勢いよく船出ができん。そこで、アメリカから資金調達し、アメリカの鉄道施設や車両を購入する」


 龍馬の提案に一同は目を点にしたが、龍馬は気にせず話しを続ける。


「今、アメリカは鉄道ブームが終わり、鉄道の施設や車両があまっちょる。それを安く購入して、こじゃんと列車を走らせる。そうすれば初年度から黒字も十分できる」


 龍馬の言葉に全員が目を見張った。

 鉄道は開業するまで資金が掛かるし、黒字になるまで、車両や設備が整い安定した運行が出来るまで年月が掛かる。

 それをアメリカで資金調達と設備と車両を大量購入することで、短期間で開業させ解決しようというのだ。

 鯉之助の計画なのだが、鯉之助が言ったところで聞き入れて貰えない。

 そこで龍馬に代わりに話して貰う事にした。


「ですが五億などという金額は政府にありません。民間も出せるかどうか」


「それはわかっちょる。じゃから政府からは今回の戦争でロシアから割譲された鉄道施設や車両、撫順の炭田、鞍山の鉄鉱山などを含む現物出資を五億円とする」


 創業時、資本金が足りず工場や生産設備、それらを置く土地などの現物で出資する事はよくあることだ。

 それを利用して、日本が戦争で得た鉄道、車両や駅などの設備などの現物を資本として新会社に与える事で五億円の出資をした形にしようと龍馬は提案した。


「まあ信用と流動資産確保のために一億程度の現金は必要じゃが、五億より安く済む」


 海援隊も中国大陸で手に入れて供給した車両類を出すことで出資を抑える腹だ。

 出費を少なくするために多少帳簿を、供出する設備の資産価値を高めに算定するが、戦争功労者への慰労という形で他の株主には納得して貰う。


「ですが、アメリカが資本参加すると満鉄が乗っ取られるのでは。経営に参画されると日本の不利になります」


 小村が懸念を、欧米の資本侵略を懸念して反対する。

 しかし龍馬は、対策案を持ち出してきた。


「そのために日本が資本金一九億の内、政府や民間を含め半数以上の十億を占める。過半数を維持するんじゃ。場合によっては欧米から株を購入する事も出来る。満鉄の経営権は日本が握れるため、安心じゃ」


「ですが万が一、ロシアが攻め込んできた時、欧米の反対により満鉄が使用できなければ、軍隊を輸送できず日本は負けてしまい満鉄も満州も奪い返され、朝鮮半島さえ失います」


「満州にロシアが攻め込むということは満鉄に攻め込む、奪うという事じゃ。そんな事を欧米の株主が許すことはない」


 株式会社は事業を行い、利潤から配当金を出して成立する。株主も配当金を充てにしている。

 だから配当金が出なくなると非常に怒る。

 事業を妨害する侵略行為など許さないだろう。

 特に利益にさとい欧米は自分たちの金櫃となる満鉄をロシアが奪うことは許さないだろう。


「ロシアが攻め込んでくれば、満鉄防衛という大義名分が成立する。それならば、軍隊を出すことも容易じゃ。この条項は欧米側も納得済みじゃ。高い配当金を出す会社を見捨てるなど、ロシアに奪われる事を黙認するなど、しないじゃろう」


「しかし、それでは日本軍が自由に鉄道を利用出来なくなるのでは」


「満鉄の防衛以外に何に日本軍が利用するんじゃ? それ以外で軍隊を使用するというのか?」

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