帰国してきた龍馬
ヨーロッパにいるはずの龍馬が突然現れた事に一同は驚いた。
「坂本総長! 何時お帰りに」
「今着いたばかりじゃ」
「ハーグにおられたのでは」
「ウィッテさんとの話は終わりじゃ。まあ英仏と話していたが、色々金を出してくれると言うことで決まったので帰ることにしたんじゃ」
「しかし、早すぎませんか」
欧州から日本だとマルセイユからインド洋周りで二ヶ月、大西洋を横断しても一月は掛かる。
半月ほどで帰れる距離ではない。
「ウィッテさんと一緒にロシアへ行って、そこからシベリア鉄道で、帰ったんじゃ」
だが、シベリア鉄道を使えば半月で移動が可能だ。
「色々混乱しておったが、鉄道は早いのお」
今回は鉄道出身のウィッテ大臣の協力もあり、勇戦して列車運行をしてもらい迅速に移動する事ができた。
まさにシベリア超特急だ。
「シベリア鉄道が使えるようになれば欧州とも人も物も簡単に行き来できる。これほど便利な物はない。日本の商品が続々とヨーロッパへ運び込まれるぞ」
戦争が終わった今、日露間の通商も戻りつつあった。
カラカラと笑う龍馬が短時間でヨーロッパから帰ってきた事こそ、ロシアと友好を結ぶ利益を証明するものだった。
「ロシアもシベリア鉄道を使って貰えるんで喜ぶじゃろうな。戦争なんてしようとは思わない。大きすぎる兵力を置いておく必要はないじゃろう」
龍馬の言葉に全員が黙り込んだ。
これで、軍縮は事実上決まったも同然だった。
「皆、戦争が終わったんじゃ。それを喜ぼう。諸外国の脅威はなくなり、天下泰平にして君臣豊楽。これからは楽しむ事が出来るんじゃ」
海外からの脅威が去った今、日本は安寧を迎える事が出来る。
その事を龍馬は全面に押し出して得させた。
「しかし、その事で反対意見があります」
異議を唱えたのは小村寿太郎だった。
「満州鉄道の資本参加に欧米諸国が加わる事は看過できません。既にアメリカのハリマンと一億円の資金援助を確約しているとか」
ロシアから割譲された東清鉄道を元に満州鉄道株式会社、通称満鉄を作り満州経営の中核にすることが決まっていた。
だが、出資者に欧米諸国が加わる事を、特に経営に参加することを小村寿太郎は懸念した。
特にハリマンはポーツマス講和会議の間に来日し、日本の政府首脳と獲得した鉄道への資金援助と経営参加を約束していた。
その事を小村寿太郎は咎めていた。
「欧米によって株の買い占めが行われた場合、満鉄は、満州は欧米に乗っ取られてしまいます。日本軍将兵が血を流して獲得した満州の土地を、欧米に奪われる可能性を摘んでおくためにも、日本が満州の利益を独占するためにも欧米の資本参加、経営参加は見合わせるべきでしょう」
清国駐在の時欧米による乗っ取りを見てきた小村としてはとても欧米を信用できない。
圧倒的な資本を使って乗っ取られると考えた。
特に義和団の乱の前、欧米の宣教師達が中国人に不利な契約を結ばせ土地を奪ったり、搾取するところを見ているだけに危機感はひとしおだ。
日本も同じ事にならないか心配していた。
「その心配は無用じゃきに」
「どうしてですか」
「出資じゃが日本政府が五億、出しておく。それに日本の民間企業が二億、海援隊が三億。海援隊も中国から調達した車両を含むがな。以上、十億を日本が出す。これに満州の主権者である清国が一億、欧米各国で販売する株式が八億、外国では九億。合計一九億の資本金を持つ大企業じゃ」
「それだけの金額を出すのですか。無理ですよ」
財務担当者が愕然としたが当然だ。
史実の満鉄資本金が二億円ほどだったのに対して十倍近い額だ。
今回の戦争の戦費の半分近い。
平年の国家予算の四年から五年分といったところだ。
「それだけの金が必要じゃきに。何しろ鉄道もレールも足りんしのう」
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